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魔王と雷系呪術と風系呪術

 「へぇ……」


 ギャレマスが、超圧風球呪術(キ・リガミーネ)の空気玉でイキビト一号の身体を壁際まで吹き飛ばしたのを見たマッツコーが、真空の刃で切り裂かれたイキビト二号の大腿部を治癒(ヒール)しながら、感嘆の声を上げる。


「腐っても先々代の魔王ちゃんだったイキビト一号ちゃんを、こうもあっさりと吹っ飛ばすなんて、さすが現役の魔王の雷王ちゃんね。――しかも、雷系呪術よりも貧弱な風系呪術で」


 そう言ったマッツコーは、微笑みを湛えながらも、少し訝しげに首を傾げた。


「……ねえ、雷王ちゃん? 今、どうやってイキビトちゃんたちの雷系呪術よりも先んじて風系呪術を発動させたの? 確か……全ての呪術の中で、雷系呪術が最速を誇ってたはずよねん?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ……どうして?」

「――簡単な事だ」


 ギャレマスは、マッツコーの問いかけにしたり顔で答える。


「確かに、お主の言う通り、雷系呪術の()()()()スピードは、他のどの呪術よりも速い。何せ、雷は“光”と同じだからな」

「じゃあ、何で……?」

「発動後……そういう事か」


 ギャレマスの言葉にハッと目を見開いたのは、彼の背後で話を聞いていたヴァートスだった。

 彼は、顎の白髭をしごきながら、得たりと頷く。


「発動後は最速でも、発動する前はさにあらず……という事じゃな、ギャレの字」

「左様」


 ヴァートスの言葉に頷いたギャレマスは、おもむろに両手を横に広げた。


「雷系呪術の発動には、予備動作が要る」


 彼はそう言いながら、広げた両手を体の前で打ち合わせる。

 そして、打ち合わせた両手をゆっくりと開き、掌の間でバチバチと弾けるような音を立てながら青白い光を放つ小さな稲妻を皆に見せた。


「……このようにな。全ての雷系呪術は、理力を込めた両手を打ち合わせて“通電”させなければ発動が出来ぬ」


 そう言うと、ギャレマスは広げていた両手をゆっくりと握る。それによって、彼の両掌の間で光っていた青白い電光も消えた。

 すると、


「だが――」


 ギャレマスは、右手を高々と頭上に掲げ、今度はパチンと指を鳴らす。

 次の瞬間、先ほどと同じように空気が渦を巻いて収斂し、たちまちの内に超高圧の空気玉が彼の掌上に現れた。


「このように――風系呪術なら、指を鳴らすだけで術が発動できる。その発動の速さで、術自体のスピードの遅さをカバーしてやれば、結果的に雷系呪術より先んじて攻撃を放つ事が可能という訳だ」


 そこまで言ったギャレマスは、口元に不敵な薄笑みを浮かべる。


「――これこそが、先ほど余が申した“勝算”だ。いかに強力な雷系呪術遣いの元魔王ふたりが相手であっても、術を発動させねばどうという事は無いっ!」


 そう高らかに言い放ったギャレマスは、誇らしげに胸を張ってみせた。

 そんな彼のドヤ顔を見て、一瞬だけ眉間にうっすらと青筋を浮かべたマッツコーだったが、すぐに表情を取り繕うと、ギャレマスに対抗するかのように余裕の薄笑みを浮かべてみせる。


「……なるほどねぇん」


 彼はしきりに頷きながら、「……でも」と続けた。


「確かに、術の発動スピードはアナタの言う通りのようね。でも……その“速さ”の代わりに、今の攻撃でイキビト一号ちゃんに満足なダメージを与えられなかったみたいねん」


 そう言うと、彼は崩れ落ちた石壁の瓦礫の山を指さす。

 ――次の瞬間、積もり立った瓦礫の山が内部から青白い光を放ち、まるで爆発したかのように四方へ飛び散った。

 その中から現れたのは――ボロボロになったイキビト一号だった。

 彼の胸部は、先ほど食らった超圧風球呪術(キ・リガミーネ)の空気玉によって大きくへこみ、瓦礫を受けた体のあちこちから血を流し、首があらぬ方向に捻じ曲がっていたものの、その顔は平然とした表情を保っていた。


「……な、なんで立ち上がれるんだ、アイツ? あれ……完全に首が折れちゃってるんじゃ……?」


 頭がだらりと胸まで垂れ下がったイキビト一号の異様な姿に、背筋が凍る思いで戦慄するファミィ。

 その傍らに立つヴァートスが、眉間に深い皺を寄せたあからさまな嫌悪の表情を浮かべる。


「――アレ(イキビト)は、とっくの昔に朽ち果てた死体を治癒(ヒール)過剰投与(オーバード―ス)で修復して、魂以外を無理やり元に戻した……いわば、“活きた体の死体人形(ゾンビ)”じゃ」

死体人形(ゾンビ)……じゃあ」

「うむ……死体人形(ゾンビ)じゃから、普通じゃったら即死確定の重傷であろうとも、アイツらは痛みすら感じる事は無い。……何せ、痛みを感じる魂が、あの身体(いれもの)の中には入っとらんのじゃからな」


 そう言うと、ヴァートスは小さく溜息を吐いた。


「じゃから、動作に関わる関節さえ無事なら、首が折れてようと胸が潰れようと問題無く動けるという訳じゃ。……厄介な事にな」

「あら、別に腕が千切れても、脚が吹き飛んでも問題無いわよん、おじいちゃん」


 ヴァートスの言葉に、涼しい声で割り込んだのは、マッツコーだった。

 彼は、自分の横でゆっくりと起き上がるイキビト二号の大腿部を指さす。


「――こんな風に、ワタシの治癒(ヒール)で、あっという間に元に戻してあげちゃうからねん」

「……!」


 虚ろな表情のままで、幽鬼のようにゆらりと立ち上がったふたりのイキビトの姿を見たスウィッシュが、思わず表情を強張らせた。

 ギャレマスがイキビト一号を超圧風球呪術(キ・リガミーネ)で壁際まで吹き飛ばしたせいで、彼がイキビト一号と二号のちょうど真ん中――つまり、挟撃される位置に立っている事に気付いたからだ。

 いかに“雷王”ギャレマスであろうとも、左右から元魔王の強力な雷系呪術を受けては……!


「へ……陛下ッ!」

「案ずるな、スウィッシュよ」


 だが、ギャレマスは上ずった声で思わず呼びかけたスウィッシュにそう言うと、彼女を安心させるように片手を挙げる。

 そして、自分を挟み撃ち出来る位置に陣取ったふたりのイキビトに油断なく目を配りながら、落ち着いた声で言った。


「イキビトの特性は、十日前のウンダロース山脈で知悉しておる。そして、この状況も……全て余の計算通りであるぞ!」

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