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轟炎将と助太刀と状況確認

 「んんっ?」


 ドスドスと荒い足音を立てて、祭壇の残骸に近づいた轟炎将イータツは、目の前の状況を見て、訝しげに首を傾げた。


「はて……ワシが席を外している間に、メンツが増えておる……?」


 そう呟いて当惑混じりの表情を浮かべた彼は、キョロキョロと顔を巡らせる。


「ええと――あそこにいるのが、“伝説の四勇士”とスウィッシュ……あと、さっきのハゲたジジイと……」

「こりゃ! 誰がハゲたジジイじゃ! このデカブツハゲ!」


 イータツの呟きを耳聡く聞きつけたヴァートスが、禿頭を真っ赤にしながら怒鳴った。


「ワシの名は、ヴァートス・ギータ・ヤナアーツォじゃ! その皺の少ないツルピカ脳味噌にしっかり刻み込んどけ、この筋肉ハゲ!」

「ええい! 貴様と違って、ワシは禿げてなどおらぬ! これは剃っておるだけだ! 分かったか、この皺くちゃハゲ!」


 お互いに禿頭から湯気が噴き出しそうな勢いで罵り合うヴァートスとイータツ。

 と、その時、


「あら、お帰り、おハゲちゃん」


 崩れ落ちた祭壇の残骸の上に悠然と腰を下ろし、ネイルの手入れに勤しんでいたマッツコーが、にこやかに手を振りながらイータツに声をかけた。


「愚民ちゃんたちの避難誘導お疲れ様。で、早速で悪いんだけど、イキビト一号ちゃんのサポートに回ってくれないかしらん? そこのエルフちゃん二匹が結構しぶとくって、一号ちゃんひとりだけだと、なかなか()り切れないのよねん」

「マッツコーッ!」


 マッツコーの声を耳にしたイータツは、目を大きく剥く。


「キサマには訊きたい事がある! その“イキビト一号”とやらは一体何者なのだッ? どう見ても、生きた者には見えぬ上、どことなく面影が……」


 そこまで言いかけたところで、視界の端にもうひとり葬衣を身に纏った者の姿を見止めたイータツは、更に驚愕の表情を浮かべた。


「……って、もうひとり増えておるではないか!」

「あぁ、おハゲちゃんにはまだ紹介してなかったわねん。イキビト二号ちゃんよん。ヨロシクねん」


 そう、マッツコーは軽く言うと、手を二回軽く打ち合わせる。


「はい、紹介終わり。じゃあ、早速アナタはそこのエルフ二匹と、ついでにおてんばちゃんを始末しちゃってちょうだいな」

「い、いやいや!」


 イータツは、マッツコーの言葉に激しく(かぶり)を振り、ヴァートスたちの立っている方とは逆の方を指さした。


「ゆ、優先すべきは、サリア姫の救援の方だろうが! サリア姫が交戦している翠髪の人間族(ヒューマー)の神官女……あれは確か、“伝説の四勇士”のひとりのはず……!」

「ウチの方なら助太刀無用だよ」


 逃げ惑うエラルティスに次々と雷系呪術を放ちながら、ツカサはイータツに向かって(かぶり)を振る。


「むしろ手を出すな。こっちは愉しくいたぶ……タイマン張ってるんだ。手助けなんか要らないよ。つか、むしろジャマしたら殺すからね」

「は、ハッ! かしこまり申した!」


 ツカサの紅眼にギロリと睨み据えられたイータツは、震え上がりながら最敬礼した。

 そして、ふと葬衣を翻しながら雷系呪術を撃ち放つイキビト二号(ガシオ・ギャレマス)の姿を見て、再び訝しげに首を傾げる。


「……おい、マッツコー。オヌシの死体人形、どうやら壊れておるようだぞ?」

「……だから、イキビト二号ちゃんだってば。――って、壊れてるって、どこがよん? いたって好調なんですけど。失礼しちゃうわねん」

「いや……」


 不満げに頬を膨らませるマッツコーの答えに当惑しながら、イータツはガシオの背中を指さした。


「だって……さっきから、誰もいない場所に攻撃をしとるぞ」

「……いや、いるぞ、轟炎将!」


 イータツの声に、非難混じりの叫び声が上がる。

 その声に、「えっ?」と驚いたイータツは、声が上がったらしい辺りに向けて目を眇めた。


「……って、お、オヌシはアルトゥー! い、一体いつから居たのだっ?」

「お前がここに戻って来る前から、ずっとコイツと戦っていたんだが……」


 ガシオが放った舞烙魔雷術(ブ・ラークサン・ダー)の雷を間一髪のところで躱しながら、アルトゥーはボヤく。

 そんな彼に、イータツは険しい目を向ける。


「マッツコーの死体人形と戦っておるという事は……オヌシもスウィッシュと同様、真誓魔王国に弓を引く逆賊だという事なのだな!」

「……いや、そうではないぞ轟炎将! 己たちはむしろ――」

「問答無用ォッ!」


 アルトゥーの返事を怒声で遮ったイータツは、巨大な戦斧を軽々と振り上げ、そのまま力任せに石床へと叩きつけた。


冥炎沸波呪術(ハ・バネーロ)!」


 赤熱化した戦斧の刃から噴き出した凄まじい勢いの炎が、石床を伝って真っ直ぐアルトゥーの元に向かう。


「クッ……!」


 口の端を歪めて舌打ちしたアルトゥーは、即座に横っ飛びに跳んで、襲い掛かる猛炎を避けた。

 だが――、


『――アサク・サメイブ・ツ』

「が……あああああああああっ!」


 彼がイータツの攻撃を避けた時に生じた一瞬の隙。

 その瞬間を見透かしたようにガシオが放った光球雷起呪術(アサク・サメイブ・ツ)が右脚に命中し、アルトゥーは苦しげな絶叫を上げながらその場で転がった。


「あ、アルトゥーッ!」


 それを見たファミィが、顔面を蒼白にしながら絶叫する。


「やめろ! お願い……やめてぇっ!」


 彼女は、激しく取り乱しながら懇願の声を上げた。

 だが、その声に耳を傾ける事無く、イータツは再び戦斧を振りかぶる。


「さらばだ! 陰密将……否、逆賊アルトゥーよっ! ――冥炎沸波呪術(ハ・バネーロ)ッ!」

「いやああああああっ!」


 蹲ったアルトゥー目がけて、轟々と音を立てながら燃え盛る炎波が迫るのを目の当たりにしたファミィが、絶望に満ちた悲鳴を上げた。

 哀れ、アルトゥーが炎に呑まれ、骨も残らず灼け落ちる――かに思えたその時、

 何者かが、蹲る彼の前に立ち塞がった。

 その後ろ姿を見上げたアルトゥーの目が驚きで見開かれる。


「お前は……氷牙将っ!」

「――球状氷壁魔術(ユ・キミダ・イフーク)ッ!」


 彼の驚愕の声を背に受けながら、スウィッシュは泣き腫らした目をカッと見開き、高らかに叫んだ。

 次の瞬間、凝集した空気中の水分が凍りついて出来た分厚い氷のドームが出現し、襲い掛かってきた冥炎沸波呪術(ハ・バネーロ)の轟炎を完全に防いだのだった――!

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