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治癒(ヒール)と理力(MP)と天啓(ギフト)

 「……“治癒(ヒール)”じゃと?」


 マッツコーの答えを聞いたヴァートスは、眉間の皺をますます深くしながら険しい声で呟くと、彼の横に立つサトーシュ・ギャレマスを一瞥すると、訝しげに首を傾げた。


「はて……“治癒(ヒール)”に、死者蘇生の効果もあったかのお?」

「……普通は無えよ」


 ヴァートスの疑問に応えたのは、金色に光らせた目でマッツコーを観察していたシュータだった。

 瞬きして、発動させていた“ステータス確認(スニーク・ア・ピーク)”を解除したシュータは、無造作に頭を掻く。


「……普通の“治癒(ヒール)”は、自分の体に宿る理力で、対象の()()()()()()()に働きかけて超再生を促す術だ。たくさん理力を注げば、切断された手足だって繋げる事が出来る。俺のチート能力“超回復(スーパーリカバリー)”もな。……だけど」


 そう言うと、彼は小さく(かぶり)を振った。


「あくまでそれは、()()()()()()()に対してだけだ。さすがの俺の“超回復(スーパーリカバリー)”でも、もう死んじまったモンの損傷を治したり……ましてや生き返らせる事なんて出来ねえよ」

「じゃ、じゃあ……なんで?」


 シュータの説明を聞いたジェレミィアが、微かに震える指でサートシュ・ギャレマスの事を指さす。


「どうして……死んだ人が生き返ってるのさ? “治癒(ヒール)”じゃ無理なんでしょ?」

「……『普通は無えよ』って言っただろうが」


 ジェレミィアの問いかけにそう答えたシュータは、大きな溜息を吐いてから、更に言葉を継いだ。


「要するに、アイツは尋常じゃない量の“治癒(ヒール)”を死体にかけ続けて、この世界の常識やら理力法則やら神が定めた設定やらをまとめて覆したんだよ。無理矢理にな」

「え――?」


 シュータの説明を聞いたジェレミィアは、愕然とするあまり、あんぐりと口を開ける。


「そ、そんな事……出来るの?」

「だから、『普通』じゃねえんだよ、あのクソオカマは……」


 そう、苦々しく言ったシュータは、ニヤニヤ笑っているマッツコーに向けて顎をしゃくってみせた。


「さっき、“ステータス確認(スニーク・ア・ピーク)”で確認したけどよ……。コイツのMP(理力)値は並外れた量なんだ。多分、生まれつきなんだろうけどな」

「つまり……理力が高いって事は、使える“治癒(ヒール)”の量も多いって事か……」

「それもあるけど……それだけじゃ無え」


 シュータは、ジェレミィアの言葉に(かぶり)を振ると、再び両目を金色に光らせながら、マッツコーの頭上を指さす。


「アイツは……“天啓(ギフト)”持ちだ」

「えっ?」


 ジェレミィアは、シュータの言葉に驚きの表情を浮かべ、マッツコーの顔を見返した。


「“天啓(ギフト)”って……エラリィと同じって事? じゃあ……あのオカマさんも“聖女”なの?」

「アホか」


 シュータは、ジェレミィアの言葉に呆れ顔を浮かべながら、首を左右に振る。


「魔族が、対魔族特化属性の“天啓(ギフト)”を持ってる訳がないだろうが。あのクソオカマが持ってるのは、“過剰投与(オーバードース)”の“天啓(ギフト)”だよ」

「お、おーばーどーすッ!」


 ジェレミィアは、驚愕の表情を浮かべながら、上ずった声で叫んだ……が、すぐに首を傾げた。


「……って、何?」

「知らねえクセに、大げさに驚くんじゃねえよ……」


 シュータは、ジェレミィアにジト目を向ける。

 ……と、


「はいはーい! 正直ワタシも良く知らないから、是非とも教えてほしいわぁん! お願いぃん!」

「いや、自分の“天啓(ギフト)”を良く知らないままで使ってたのかよ、テメエ……」


 人を食った態度で手を挙げたマッツコーが口にした言葉に、思わず呆れ顔を浮かべる。

 ……だが、素直に頼られた事に内心で気を良くした彼は、わざとらしく咳払いをして、「まあ……そんなに訊きたいのなら、教えてやらねえ事も無えけどよ……」と勿体ぶりながら言葉を継いだ。


「……“過剰投与(オーバードース)”っていうのはな、『対象の限界を遥かに超えた量の理力を無尽蔵に注ぎ込める』っていう能力だ」

「な、なるほど…………?」

「……お前(ジェレミィア)にも分かりやすいように喩えると、『相手の喉が詰まろうが胃袋がはち切れようがお構いなしで、口から食い物を延々と詰め込みまくれる能力』ってトコだ」

「なるほど! それなら良く分かった! …………って! それってめちゃくちゃヤバい能力じゃんッ!」


 シュータの説明を聞いてパッと顔を輝かせたジェレミィアだったが、すぐにハッと目を見開くと、みるみる顔を青ざめさせる。

 と、


「あぁ……そうだったのねん。ワタシに、そんな能力(ちから)があったとは知らなかったわん……」


 神妙な顔をしてしきりに頷いているのは、当の本人であるマッツコーだった。


「だから、ワタシが心を込めて“治癒(ヒール)”してあげればしてあげるほど、みんなバタバタと倒れていっちゃったのね……。何かおかしいとは思ってたけど、まさかその“ぎふと”とかいう能力(ちから)のせいだったなんて……」

「……いや、お前さんが知らん訳が無いじゃろうが」


 感慨にふけるマッツコーに向け、水を差すように声をかけたのは、ヴァートスだった。

 彼は、相変わらず険しい表情を浮かべたまま、先ほどから微動だにせず立ち続けているサトーシュ・ギャレマスの事を指さした。


「己の能力の事も知らんかったら、そもそもこんな大それた事を仕出かそうとは思わんじゃろうて。朽ちかけた死体に自分の“治癒(ヒール)”を限界越えで与え続ける事で肉体を蘇らせようなどという、罰当たり極まる所業をな……」

「うふふ……自分の能力(ちから)が“ぎふと”だったなんて知らなかったのは本当よん」


 責めるようなヴァートスの言葉に悪びれる様子も無く、クスクスと微笑(わら)って首を横に振ったマッツコーは、ペロリと真っ赤な舌を出しながら言葉を継ぐ。


「まあ……原理は分からなくても、相手の体がぶっ壊れるくらい過剰に“治癒(なお)()()()()事が出来ちゃうのは知ってたから、一度試してみたくなったのよね。――『生きてる相手だと受け止め切れない程の“治癒(ヒール)”を死体にかけたらどうなるのかな?』……って。それで()()()()()、この()――」


 マッツコーはそう言うと、サトーシュ・ギャレマスの頬を愛おしげに撫でながら、妖艶な薄笑みを浮かべた。


「――“イキビト”サトーシュ・ギャレマスちゃんよん♪」

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