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勇者と姫とタイマン

 シュータは、不敵にほくそ笑むマッツコーの事を訝しげに睨んでいたが、気を取り直すように小さく息を吐いた。


「……まあいい」


 彼はそう呟くと、マッツコーとイータツに向けて、まるで犬でも追い払うかのようにしっしっと手を振った。


「今日のところは、お前たち三下どもにゃ用は無え。死にたくなかったら、おとなしくそこをどくんだな。今の攻撃で、テメエらじゃ到底俺には敵わないって事が良く解っただろ?」

「なっ……!」


 侮蔑混じりのシュータの言葉に、イータツは顔色を失う。


「ふ……ふざけるな! この轟炎将イータツが本気を出せば、さっきの攻撃程度、造作も無く捌き切れるわい!」

「おいおい」


 意気軒高なイータツを前にして、シュータは思わず失笑した。

 そして、彼は呆れ交じりの表情を浮かべながら、小首をかしげてみせる。


「……まさかテメエ、さっきの攻撃が俺の全力だなんて思っちゃいねえよな? あんなもん、ナイゼリアのランチセットのサラダ……いや、ドリンクバーみてえなモンだぜ。俺の本気(ガチ)の攻撃は……あんなお優しいモンじゃねえぞ」

「ぐ……!」

「それでも戦うってんだったら、かかってこい。そこの偽物(ツカサ)とは違って、テメエは原子レベルに分解しても全然支障無えからよ。心置きなく全殺しにしてやんよ」

「……ま、マッツコーッ!」


 シュータに睨みつけられ、顔面を強張らせたイータツは、戦斧を握り直しながら、背後に立つ同僚に向けて悲鳴に近い声で呼んだ。


「お……お主も協力せい! し、四天王ふたりがかりなら、いかに“伝説の四勇士”筆頭の勇者シュータが相手でも――」

()ーよ」

「……は?」


 にべもなく共闘を断られたイータツは、慌てて背後を振り返り、涼しい顔をしてるマッツコーを睨みつける。


「ま、マッツコー! お主、四天王のクセに、敵と戦うのが嫌だと……?」

「当ったり前でしょ」


 イータツの抗議の声に対し、キューティクルを気にするように前髪をいじりながら、マッツコーは呆れ顔で答えた。


「負けるのが分かり切ってる戦いに首を突っ込むほど、ワタシは無謀じゃないのよん。ましてや、アナタみたいなむっさいオッサンと一緒になんて、真っ平御免よん。ワタシ好みのイケメンちゃんならともかく、ね」

「き、貴様、それでも……」

「それに、元々ワタシの能力は直接戦闘向けじゃないのよん。おハゲちゃんも知ってるでしょ?」

「ぐ……」

「だから、おひとりで勝手にドーゾ。ワタシは、お化粧直しで忙しくなるからパス」


 そう一方的に言い放ったマッツコーは、おもむろに懐からコンパクトを取り出すと、鏡を覗き込みながら入念にメイクを直し始める。

 マッツコーの我関せずといった態度に唖然としたイータツだったが、今度は周囲を取り囲む兵たちに向けて怒鳴った。


「で……では、お主たちだ! 我が魔王国の精兵たちよ! ワシに続けて、勇者シュータたちに向けて一斉に攻撃をかけるのだ! これほどまでの多勢から一気に攻撃されれば、さしもの“伝説の四勇士”といえどひとたまりも――」

「ウチを差し置いて、勝手に命令してんじゃないよ、中間管理職!」

「ぎゃああああっ!」


 イータツの声は、鋭い声と共に落ちてきた雷の直撃を受けて悲鳴に変わる。


「お、おごごごご……」

「まったく……」


 ツカサは、手加減した舞烙魔雷術(ブ・ラークサン・ダー)を放った体勢のまま、ビクビクと全身を痙攣させて悶絶しているイータツの姿を睨みつけながら、大きな溜息を吐いた。


「……たとえ、アンタとここに居るメンツがまとめてかかっても、アイツには敵わないよ」


 そう言うと、彼女は一歩踏み出し、その紅い瞳でシュータの顔を見据えながら、口の端を吊り上げる。


「……同じ異世界チート持ちのウチ以外には、ね」

「ふん……」


 彼女の目を見返しながら、シュータもまた不敵な薄笑みを浮かべた。

 そして、ふたりは十歩ほどの距離を置いて対峙する。

 ――先に口を開いたのは、ツカサだった。


「久しぶりじゃん。アヴァーシで戦り合った時以来だね」

「……ちょうど半年ぶりだな、サリアの偽物」

「だから……ウチは偽物なんかじゃないってば」


 シュータの言葉を聞いて露骨に顔を顰めたツカサは、辟易しながら言う。


「半年前に、さんざん説明したじゃん。ウチは、前世のサリア(あの子)なんだって。だから、ウチとあの子は同じなんだよ。……ていうか、ウチよりサリアの方が後にできた人格なんだから、どっちかというと『サリアの方がウチの偽物』って言う方が正しいんだって――」

「うるせえな! んな事、関係ねえんだよ!」


 ツカサの説明を、シュータは荒げた声で遮った。


「前世はどうだか知らねえが、この世界で人生を過ごしていたのはサリアで、テメエはサリアの魂の()()でしかねえんだよ! とっくの昔に日本でおっ死んだ幽霊は、そのままおとなしく成仏しとけ!」


 彼は、伸ばした指をツカサの胸元に突きつけながら、激しい声を上げる。


「っつー事で、今日俺がテメエの人格を跡形も無く叩き潰す! そして、テメエのせいで表に出られなくなってるサリアの魂を引っ張り出して……それで元通りだ!」

「ふん……やってごらんよ。出来るもんならね」


 と、シュータの事を鋭い目で睨みつけたツカサ。

 彼女は羽織っていた特攻服の襟を正すと、シュータに言う。


「じゃあ……ここはひとつ、ウチとアンタのタイマンでカタを付けようじゃないか?」

「ああ……いいぜ。正直、テメエの前に、ここに居る全員をぶっ殺すのは面倒くせえと思ってたところだ」


 シュータはツカサの申し出に頷く。

 だが、


「ちょ……ちょっと、シュータ! あ、アタシも一緒に戦うよ!」

「さ、サリア姫、いけませぬ! 勇者シュータを相手に、おひとりで戦うなど……!」


 それを聞いたジェレミィアとイータツが、慌てて反対の声を上げた。

 だが、それに対し、シュータとツカサは同時に首を横に振って言う。


「「いや、足手纏いだからいいや」」

「「なっ……?」」


 シュータとツカサの声が偶然ハモり、ジェレミィアとイータツの呆気にとられた声が偶然ハモった。

 ――と、ツカサは、おもむろに空を指さす。


「せっかくだから、空の上で戦ろう。その方が、()()()()()が入らずに思いっきり戦えそうだからさ」

「……ああ、いいぜ」


 ツカサの提案をあっさりと呑んだシュータは、足元に紅い反重力(アン・グラヴィ)の魔法陣を展開すると、そのまま一気に上昇した。

 それを見たツカサも、背中の黒翼を展開し、彼の後を追うように空へ翔び上がる。

 そのままぐんぐんと加速し、地上にいる者たちが豆粒のように見えるくらいの高度まで達したふたりは、ようやく上昇を止めた。

 再び対峙し、睨み合う(メンチを切り合う)ふたり。

 そして――、


「「行くぞオラアアアアッ!」」


 ふたりは荒っぽい怒声をハモらせながら、激しい戦いを始めるのだった――!

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