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勇者と癒撥将と初対面

 「四天王……?」


 自らの事をマッツコーと名乗った長身の若い男 (?)に、シュータは訝しげに訊き返した。


「そうよぉん」


 そんな彼に、マッツコーは大きく頷き返す。

 そして、緩やかにウェーブを描きながら背中まで伸び、広場に吹く風によってそよそよと靡いている長髪を手櫛で梳いて片耳がけにしながら、気だるげに言葉を紡ぐ。


「一応、癒撥将(ゆうはつしょう)っていう二つ名もあるけど、な~んかおカタいから、あんまり好きじゃないの。だから、フレンドリーに“マッちゃん”とか“マーちゃん”って呼んでくれてもいいわよん。ねっ、()()()()()♪」

「殺すぞ、クソオカマ」


 品を作りながら馴れ馴れしく言うマッツコーにあからさまな嫌悪が浮かんだ顔を向けながら、シュータは彼の顔と姿を改めて観察しようと目を据えた。

 見たところ、彼はまだ青年と言っていい年齢のようだ。

 シュータよりも優に頭一つ分は背が高い上に、足には細長いピンヒールを履いているせいで、より一層背が高く見える。

 その上、彼の身体はぴったりとフィットしたボンテージスーツのせいで、程よく筋肉が付いた均整の取れた体格が見て取れ、まるで細身の直刀のような鋭さを、見る者に感じさせた。

 そして、その貌は――、


「うわぁ、もったいないなぁ……」


 シュータの傍らで、思わずジェレミィアが嘆声を上げた。

 まあ……面食いな彼女が嘆くのも分からないではない。

 マッツコーの貌は“美男”といって良いレベルで端正なのに、その美しい顔立ちが、彼自身が施している分厚い化粧のせいで台無しになってしまっているからだ。

 額から大きな一本角が生えている彼の顔面には、元の肌の色が分からないくらいに白粉が塗りたくられ、切れ長の目の周囲には真っ青なアイシャドーを過剰と言っていいくらいに引いていた。

 もちろん、唇にも鮮やかな深紅の口紅を差しており、その様はまるで鮮血を飲み干してきたかのよう。

 普通なら、その極端に極端を合わせた化粧は、道化(ピエロ)のメイクのようにグロテスクなものになるところだ。

 だが、世の男の顔面平均値をはるかに超える彼の地顔(イケ面)によって、辛うじて噴き出さずに見れるレベルに留まっている。

 まあ……逆に言えば、彼の美貌は、その化粧によって大幅に負補正(デバフ)をかけられているという事でもあるのだが……。

 そんなマッツコーの姿を一通り見終えたシュータは、不機嫌そうに眉を顰めると、吐き捨てるように言った。


「……信じられねえな。テメエのような、出来の良いバカ殿様みてえな奴に『自分が四天王です』と言われてもよ」

「あらあらぁ」


 シュータの言葉に、マッツコーは苦笑を浮かべながら首を傾げ、それからどこか愉快げな口調で言う。


人間族(ヒューマー)の間には、『他人(ひと)を見た目で判断するのはやめましょう』っていう教訓は無いのかしら? それとも、アナタの目が節穴なのかしらん? 案外、大した事ないのかもねぇ、勇者ちゃんって言ってもさ」

「なに……?」


 挑発めいたマッツコーの言葉に、シュータは思わず気色ばむ。

 ……と、そんな彼の目を指さしながら、マッツコーは言った。


「嘘だと思うのなら、アナタの持ってる“ちーと能力”とかナントカで、ワタシの能力を見てみなさいな。陛下ちゃんから聞いてるわよん。“すてーたす”でしたっけ? 見えるんでしょ、アナタには?」


 そう言うと、マッツコーはおもむろに着ていたボンテージスーツの襟元に指をかける。


「あ、ひょっとして、服を着てない方が見やすいのかしらん? いいわよん♪ 特別に見せてあげる。一糸纏わぬワタシのス・ベ・テ・を――!」

「止めろバカ! 気色悪ぃ!」


 シュータは、高らかに叫びながらボンテージスーツを脱ぎ出そうとしたマッツコーの事を慌てて止めた。

 彼は辟易としながら、脱衣を止められた事に何故か不満げなマッツコーに向けて横に手を振る。


「分かった分かった! お前の言う事を信じてやるよ、四天王サマ!」

「うふふ、別に恥ずかしがらなくてもいいのに。ウブなのねぇん。……ひょっとしてドーテー?」

「……ッ! ど、どどどどドーテーちゃうわ!」

「うふふ、図星を指されてムキになっちゃって。かーわいい~」

「殺す! 今すぐ殺す!」


 手の甲を口に当ててくすくすと笑うマッツコーに、シュータが激昂と恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら吠えた。


「はいはい、どーどー! 落ち着きなよ、シュータ!」


 そんな彼の事を、ジェレミィアが後ろから羽交い絞めにして押さえる。

 その瞬間、シュータの動きがピタリと止まった。


「こ……これは……! この、背中に当たるふたつの柔らかな感触は……!」

「……」


 ジェレミィアの豊満な双丘の柔らかさを、鎧越しにもかかわらず敏感に感じ取るシュータに、『ドーテー丸出しじゃん……』とツッコみかけたジェレミィアだったが、禁句(ドーテー)を耳にした彼に再び暴れられるのも面倒と考え、グッと言葉を呑み込む。

 そして、その代わりに、マッツコーの方に目を遣り、警戒を露わにしながら尋ねた。


「……で、四天王のアンタは何しにアタシたちの前に出てきたのさ? シュータをからかう為だけじゃないよね?」

「もちろん、そうよぉん」


 彼女の問いかけに、マッツコーは妖艶な薄笑みを浮かべながら小さく頷いてみせる。

 そんな彼の答えを聞いたジェレミィアが、ふっと表情を険しくさせた。


「……じゃあやっぱり、アタシたちと戦う為――」

「ううん、違うわよぉん」


 今度は、首を横に振るマッツコー。

 彼は、両手を横に広げ、わざとらしく肩を竦める。


「以前に、ここで勇者ちゃんたちが暴れ回った時の事は直接見てないけど、その強さはよ~く聞いてるわよん。アナタだけが相手ならともかく、あの雷王ちゃんと互角に戦り合ったような化け物勇者ちゃんが相手じゃ、ワタシひとりじゃ分が悪いわよ。だから、戦うのはナシ!」

「じゃあ、何で……?」

「んなの、決まってんじゃん」


 と、真意を計りかねて当惑の表情を浮かべたジェレミィアに、マッツコーはパチリと片目を瞑ってみせると、


「ねえ、勇者ちゃん……」


 と、シュータの顔に熱を帯びた視線を向けながら、甘い声で囁きかけるのだった。


「アナタ……転職とかに興味ないかしら?」

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