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ハーフエルフとエルフ族解放作戦とその後

 「……さて、どこから話そうか」


 と、目の前で爆ぜ燃える焚き火に枯れ枝をくべながら、ファミィは呟いた。

 彼女の呟きを聞いたギャレマスは、息せききった様子で、


「で……では、サリ――」


 と言いかけたが、途中で口を噤む。

 そして、微かに首を左右に振ると、改めて言い直した。


「……まず最初に、三日前――いや、半年前に決行した“エルフ族解放作戦”の成否について確認したい。――あの作戦は、成功したのか?」

「……意外だな」


 ギャレマスの問いかけに、ファミィは形のいい眉を上げる。


「てっきり、いの一番に自分の娘の安否を尋ねてくると思ったが……」

「……そりゃもちろん、父親としては、サリアが無事かどうかは気になる」


 そう、ファミィの言葉に答えたギャレマスは、「だがな……」と言葉を継いだ。


「……余は、サリアの父親である以前に、真誓魔王国の王だ。その名に賭けて、お主とエルフ族の者たちに達成を約束した“エルフ族解放作戦”の結果の方が、余にとっては優先事項だ」

「陛下……!」


 凛として言い切ったギャレマスに向け、スウィッシュが感嘆の声を上げる。

 一方のファミィも、彼の言葉に少なからず心を動かされた様子で頻りに目を瞬かせ、微かに声を震わせながら言った。


「……安心しろ。作戦は無事成功した」

「おお、そうか……!」

「良かった……」


 ファミィの答えを聞いたギャレマスとスウィッシュは、安堵の表情を浮かべる。

 そんなふたりに微笑み返しながら、ファミィは穏やかな声で言葉を継いだ。


「お前たちがアヴァーシで派手に暴れている間に、こっそり組んでいた筏に乗ってメヒナ渓谷の強制収容所から脱出した私たちは、かねてからの計画通りにホカァタ川を下り、そのまま草原地帯の南端から森の中に入って、人間族(ヒューマー)軍からの追っ手を振り切った。そこから十数日かけてウンダロース山脈を抜け、無事に魔王国領内に入る事が出来たんだ」

「そうだったのか……」


 ファミィの説明を聞いたギャレマスは、小さく息を吐きながら頷いたが、それから眉を顰めながら問いかけた。


「道中、大丈夫だったのか? エルフ族の民全員を引き連れての山越え……さぞや大変だっただろう?」

「まあな。――でも」


 魔王の問いに、ファミィは小さく頷き、それからニコリと微笑んで話を続ける。


「山を越えるまで、ヴァートス様がいっしょについてきてくれたからな。あの方が操る強力な炎の精霊術のおかげで、だいぶ助けられた。雪狼の群れに襲われた時も、猛吹雪でみんなが凍え死にしかけた時もな」

「ヴァートス殿か……」


 ギャレマスの脳裏に、食えないエルフ族の老人の姿が脳裏に浮かんだ。……もっとも、正確には、燦然と光り輝く老人の禿げ頭だったが。


「あ、いや……」


 慌てて頭を左右に振って、ヴァートスが知ったら激怒しそうな、無礼極まる“本人画像”を脳裏から追い払ったギャレマスは、


「その……ヴァ、ヴァートス殿は息災か?」


 と、誤魔化すようにファミィに尋ねる。

 そんな魔王の心中など知る由もないファミィは、僅かに訝しげな顔をしながらも、こくんと頷いた。


「……あ、ああ。エルフ族(わたしたち)を魔王国領まで送り届けた後、また山を越えて帰っていったよ。今は元通り、半人族(ハーフヒューマー)村長(むらおさ)をしている」

「元気ねぇ、あの人……。もう、三百歳をとうに超えているはずなのに……」


 スウィッシュが、呆れ交じりの声を上げる。だが、その顔には苦笑いが浮かんでいる。

 ギャレマスも、彼女の言葉に失笑すると、ファミィに問いを重ねた。


「それで……魔王国領に入った後は、どうなったのだ?」

「ああ……」


 ファミィは、ギャレマスの問いかけに答える。


「その後も、概ね計画通りに事が進んだ。報せを送ってから数日で、魔王城から四天王のひとりがやって来て……」

「ああ、イータツ様ね……」

「その名を聞くのも、随分と久しぶりのような気がするな……」


 スウィッシュの呟きに、ギャレマスも苦笑を浮かべた。魔王城を発ってから(ギャレマスとスウィッシュの体感的には)まだ二か月弱ほどしか経っていないのに、もう一年三ヶ月ほどが経過しているような錯覚に陥る。

 ――だが、


「……いや。それが違ったんだ」


 ファミィが、首を左右に振った。


「……なに?」

「違った……?」


 ギャレマスとスウィッシュは、ファミィの言葉に思わず首を傾げる。


「いや、だって……魔王城で留守番していた四天王は、イータツ様だけだし……」

「……もう一人いるだろうが? だって、お前たちは“四天王”なんだから」

「……なに?」


 ファミィの言葉を聞いたギャレマスは、ハッとした表情を浮かべ、それから激しく首を左右に振った。


「いや……あ奴が来る事はあり得ぬ! なぜなら、あのおと……おん……と、とにかく! ()()は、魔王である余の赦しが無ければ、未だ外を歩けぬ身のはずだぞ!」

「あ奴って……もしかして……!」


 ギャレマスの言葉に、スウィッシュもハッと目を見開き、驚きの表情を浮かべる。


「あのオカ……お方ですか? ニューハーフ将……じゃなくって、癒撥将(ゆうはつしょう)・マッツコー……様!」

「ああ、確かにそんな名前だった」


 スウィッシュの上ずった声に、ファミィは得たりと指をさす。

 それを見たギャレマスが険しい表情を浮かべた。


「な……なんだと? そ、それは(まこと)か? 誰かがマッツコーの重謹慎を解いたというのか? 余の……魔王の赦しも無しに……?」

「それは――」


 激昂するギャレマスに対し、ファミィは気まずそうに答える。


「その……『魔王の赦しがあったから』らしい……」

「はあ?」


 ファミィの答えに、今度はスウィッシュが眉間に皺を寄せた。


「何言ってんのよ、アンタ? 陛下の赦しがあったなんて嘘に決まってるでしょ? だって……陛下はあたしと一緒に異世界に――」

「いや、だから――」


 怒りを隠せない様子のスウィッシュにたじたじとなりながらも、ファミィは声を上げる。

 そして、スウィッシュの横で困惑顔をしているギャレマスをチラリと見てから、おずおずと言葉を続けた。


「その……マッツコーとやらの謹慎解除を赦したのは、お前じゃない。()()()()()()()()の方だ……」

「な……?」

「も……もうひとりの……魔王?」


 躊躇いがちに告げられたファミィの言葉に、ギャレマスとスウィッシュは、困惑のあまり言葉を失う。

 そんなふたりに複雑な感情の籠もった視線を注ぎながら、ファミィは「その“魔王”というのはな……」と、極めて言いづらそうな様子で、静かに事実を告げた。


「……昨冬に、人間族(ヒューマー)領のアヴァーシで()()()()先王イラ・ギャレマスの跡を継いだ直系の王女――つまり、お前の実の娘・サリアだ……!」

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