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魔王と娘と正体

 光の失せた部屋の真ん中に立っていたのは紛れもなく、先ほどエラルティスの“対魔完滅法術”によって浄滅されたものと思われていたサリア・ギャレマスだった。

 先ほどまで彼女を柱に縛りつけていた太縄と聖鎖は、なぜか細かく切り裂かれ、生地の薄いローブを纏っただけのサリアの身体にだらりと絡みついている。

 サリアは、自分の身体に絡みついていた太縄と聖鎖の切れ端を、無造作に投げ捨てた。

 振り払われ、床に落ちた聖鎖は、淡い光を放ちながら溶けるように消えていく。

 サリアは、光の鎖が淡雪のように消えていく様を、無表情で眺めていた。


「サリア…………様?」

「――サリアッ! お主、無事だったのかッ?」


 そんな彼女に向けて、スウィッシュは何故か語尾を半音上げた疑問形で呼びかけ、ギャレマスは歓喜に満ちた顔で叫ぶ。

 自分への呼びかけの声に気付いたサリアが、床に向けていた目を上げ、ふたりの事を見た。

 そして、ニヤリと笑うと、彼女の方にひらひらと手を振ってみせる。


「――よおっ! アンタら」

「「……ッ!」」

「たしか……()()()()()()と、それに()()()――だな」

「――ッ!」

「え……?」


 サリアの声を聞いたスウィッシュとギャレマスは、その言葉に激しい違和感を覚えて息を呑んだ。

 と、その時、


「良かった~! 無事だったんだね、サッちゃん!」


 ギャレマスたちから少し離れたところで嬉しそうな声が上がる。

 その声は、エラルティスの法術による呪縛が解けて、ようやく起き上がれたジェレミィアのものだった。

 彼女は、安堵で尻尾を千切れんばかりに振りながら、サリアに向かって笑いかける。


「エラリィの術が効かなかったんだね。本当に良かった……サッちゃんが消えちゃわな――」

「おおっ!」


 ジェレミィアの姿を見たサリアは、その目を輝かせると、突然駆け出し、勢いよくジェレミィアの身体に抱きついた。


「う、うわっ? な、なに? どうしたの、サッちゃん?」

「わあ~っ! すげえ! ホンモノの尻尾だ!」

「えっ? ちょ、ちょっ? なんでいきなりアタシの尻尾を……あっ、やめ……」

「マジふさふさしてる~! 昔、隣の家で飼ってたレトリバーのカンタが、丁度こんな感じだった!」

「あ……だ、ダメだって……そ……そんなにモフモフされたら……って、あふぅんっ!」


 必死でサリアを制止しようとするジェレミィアだったが、絶妙な手触りで尻尾をモフられた事に快感を覚え、思わず変な喘ぎ声を上げながら、その場にへたり込んでしまう。

 するとサリアは、おもむろにジェレミィアの頭についた、狼のような三角耳に手を触れた。

 耳に触れられたジェレミィアは、頬を更に上気させながらビクンと身体を震わせる。


「あんっ……や、やめてぇ……そこは……あっ」

「へ~。マジでケモミミじゃん! ゲームとかマンガとかで、結構ケモミミキャラ見てたけど、リアルだとこんな感じなんだな。意外としっかり動物の耳になってるっつーか……」

「み、耳に指入れないで……あんっ……そ、そこはらめぇええっ! あひゃぁんっ!」


 興味津々といった様子のサリアに好き勝手に耳の中をいじられ、頬を真っ赤に染めながら艶っぽい悲鳴を上げるジェレミィア。……どうやら、獣人族の耳の中にある快感のツボを刺激されてしまったようだ。


「あ、あのっ! その辺でやめてあげて下さいっ!」


 嬌声を上げるジェレミィアのあられもない姿を見せまいと、慌ててギャレマスの目を手で覆いながら、スウィッシュは上ずった声でサリアの事を窘める。

 その声を聞いたサリアは、苦笑いを浮かべながら、ようやくジェレミィアから離れた。

 そして、自分の足元にうずくまって身体をビクビクさせている狼獣人の事を見下ろしながら、バツ悪げに頭を掻く。


「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。ガキの頃にマンガやアニメで見てたケモミミ獣人をリアルで見れて、ついついはしゃいじまったよ」

「ま……まんが? あに……あにめ……?」

「あ……ひょっとして、そういうの存在しないカンジか? ()()()()って?」

「こ……()()()()……?」


 サリアが口にした言葉に、訝しげな表情を浮かべるスウィッシュ。


「……さっきから、どうもおかしいと思っていたのだけれど――」


 彼女は、不安と警戒が綯い交ぜになった目でサリアの事を凝視しながら、おずおずと口を開く。


「あなた……()()()()()()()()()()()()?」

「……ふふ」


 スウィッシュの問いかけに、サリアは答えず、その代わりに含み笑いを漏らし、それからコクンと頷いた。


「……そうさ。()()()()

「半分……?」


 サリアの口から出た奇妙な答えに、思わず戸惑いの表情を浮かべたスウィッシュ。

 そんな彼女の反応に対し、サリアは愉快そうな笑い声を上げる。


「くっくっくっ! まあ、そんな顔になるのも無理ねえか。元があんなゆるふわ娘だったのが、いきなりウチみたいにガサツな女に変わっちまったら、そりゃビックリするよな!」

「――ッ!」


 サリアの言葉を聞いたギャレマスは、目隠しされていたスウィッシュの手を振りほどくと、不敵に嗤っている()()()()()()()()()()()に鋭い視線を向けながら声を荒げた。


「今……『変わっちまった』と申したな! ――やはり、お主はサリアではない! 何らかの力でサリアの身体を乗っ取った別人であろう!」

「ふふ……そんな事無いって。ウチは、紛れもなくアンタの娘だよ、()()()()()()、ね」

「……っ!」


 サリア――いや、サリアの顔をした何者かが口にしたフレーズを聞いた瞬間、ギャレマスはハッと気づいた。


「……『この世界では』……だと?」


 つい最近、同じ言葉を口にした者が居た。

 ――そう、


『ワシを()()()()に送り込んだのは、妖精王とやらでな』


 齢三百歳を超える、掴みどころのないエルフ族の老人・ヴァートスだ。

 そして、彼は自分の事を――。


「……そう、か」


 ギャレマスは、胸の中を黒雲のように暗澹たる気持ちが満ちてくるのを感じながら、沈んだ声で呟き、じっと娘の顔を見つめた。


「サリア……いや、お主――()()()()()()か」

「……さすが魔王様。察しがいいね」


 魔王が沈痛な表情を浮かべて口にした言葉に、彼女は薄笑みを浮かべる。


「ああ、そうだよ」


 サリアの顔をした何者かは、そう答えて頷くと、エヘンと言わんばかりに胸を張った。


「いかにも、ウチはいわゆる“異世界転生者”ってヤツさ。この世界に来る(死ぬ)前は、“刃瑠騎梨偉(ヴァルキリー)”って女暴走族(レディース)(ヘッド)を張ってたんだよ」

「ば……ばるきりー……? れでーす……?」

「へ、へっど……?」


 次々と出てくる聞き慣れぬ単語のラッシュに思考が追い付かず、当惑を隠せないギャレマスとスウィッシュ。

 そんなふたりの様子も意に介さず、サリアの顔をした“転生者”は、高らかに自分の名を名乗る。


「“門矢司(かどやつかさ)”――それが、ウチの前世の名さ。ヨロシクな、()()()()()()()()()

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