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魔王とエネルギー弾と邂逅

 「待たせたなぁっ!」


 と、ギャレマスが待つ上空に、反重力(アン・グラヴィ)で急上昇してきたシュータが、妙に低い声で嘯きながらニヒルな笑みを浮かべる。


「……用足しにしては、随分かかったな」


 そんな彼に渋い顔を向けながら、ギャレマスは呆れ顔を上げた。


「たっぷり、十五分は経っておるぞ……。もしや、小の方じゃなくて、大きい方――?」

「人聞きの悪い事を言うなよ。今のは、正真正銘のションベンだ」


 シュータは、水の滴る両手をプルプルと小刻みに振りながら、ギャレマスの言葉に頭を振った。

 そして、ジト目で魔王の顔を睨みながら言う。


「いくら何でも、魔王との戦いの真っ最中に、ウンコしに行く訳が無えだろうが。さすがにそこまで常識知らずじゃねえよ」

「い、いや……小の方でも、十二分に常識知らずだと思うのだが……」


 ギャレマスは、シュータの言葉に頬を引き攣らせた。

 そんな魔王の表情にも気付かぬ様子のシュータは、ニヤニヤと下品な薄笑みを浮かべながら言う。


「いや~、思ってた以上にめっちゃ溜まってたみたいでさ。まるで自分が噴水にでもなった気分だったぜ。なかなか止まらなくてビビったわー」

「……」


 あまり愉快ではない話を聞かされたギャレマスは、思わず顔を顰めた。

 と、その時、彼は先ほど耳にした音の事を思い出し、シュータに問い質す。


「そういえば……お主には聴こえなかったか? かなり甲高い……まるで笛のような音を。さっき、どこからか微かに聞こえたのだが……」

「笛の音……?」


 シュータは、ギャレマスの問いに対し、怪訝な表情を浮かべた。

 そして、小首を傾げながら答える。


「……いやぁ? 全然聞いてねえな」

「地上の人間族(ヒューマー)どもが、音の事で騒いでおったとかいう事は?」

「いや? 別にそういった様子はなかったけどな」

「そうか……」


 シュータの答えを聞いたギャレマスは、眉間に皺を寄せた。


「何となく……地上の方から聞こえてきたような気がしたのだが……。地上に居た人間族(ヒューマー)が誰ひとりとして気付かなかったという事は……」


 顎髭を指で撫でながら考え込むギャレマス。

 すると、ひとつの推測が頭に浮かんだ。


「……もしかすると、人間族(ヒューマー)の可聴域を超えた超高音だったという事か? ならば……あれは一体……?」


 なにか……何か、先ほど聞いた音に聞き覚えがあるような気がしてしょうがない。

 そして――それは、今の自分にとっては、非常に重要な事のような気がする。


(……以前に聴いたのは、何時の事だったか……?)


 ギャレマスは、何とか脳内の記憶を呼び覚まそうと、目を固く瞑って考え込む。

 ――そう、あれは確か……王宮の自室で……!


「……ん?」


 その時、何か不吉な気配が急激に近付いてくる気配を感じ、ギャレマスはハッと目を見開いた。

 彼の視界いっぱいに、真っ赤な光が満ちる。


「う――おぉぉぉっ?」


 ギャレマスは、本能的に顔を背けながら、咄嗟に上体を大きく反らした。

 その反応が功を奏し、空気を切り裂きつつ、ギャレマスの顔面目掛けて飛来してきた真っ赤な光のエネルギー弾は、彼の顎髭を掠めながら鼻先スレスレを通り過ぎる。


「な――ッ? いきなり何をする、シュータッ!」


 上体を起こしたギャレマスは振り返って、みるみる遠ざかっていく巨大なエネルギー弾を目で見送ると、シュータに向けて上ずった怒声を上げた。

 そんな彼に対し、シュータは身体の前に次々と紅い魔法陣を展開しながら怒鳴り返す。


「はあぁ? “いきなり”じゃねえよボケ! ちゃんと、撃つ前に『行くぞ』って声をかけたぞ俺は! ボーっとして、なにか考え事をしてて聞き逃したテメエが悪いだろうがボケェッ!」

「ファッ? そ、そうだったのか?」

「……まあ、声をかけたのは心の中でだけどな」

「はぁっ? そ……それでは余に聞こえる訳が無いであろうがッ! ちゃんと声に出せ声にッ!」

「うるせえなぁ! そこら辺は第六感だか第七感(セブンセンシズ)だかを使って察知しろや! 魔王だったら小宇宙(コスモ)を燃やせぇ!」

「こ……“こすも”って何だぁっ!」


 シュータが口走った単語の意味が解らず、当惑の声を上げる。

 だが、シュータはその質問を無視し、眼前に展開したいくつもの魔法陣から一斉にエネルギー弾を発射した。


「しゅ、シュータ! おまえ……またっ……!」

「うるせえなぁ! つべこべ言わずに何発か食らっとけ! あんまりテメエが俺の攻撃をチョコマカと躱すから、下の奴らに俺の実力(ちから)が疑われ始めてんだよ!」

「そ……それでかぁっ!」


 シュータが何も言わずに、不意打ちをしてきた理由を察したギャレマスは、呆れと焦りと怒りに満ちた声で叫びながら、次々と自分に向かって殺到するエネルギー弾を紙一重で躱す。

 標的を捉えそこなった紅いエネルギー弾は、一旦は遠く離れていくかに見えた。

 だが、エネルギー弾は夜空に大きく弧を描くように曲がると、再びギャレマス目がけて飛来してくる。

 それを見た魔王は、思わず驚愕の叫びを上げる。


「つ……追尾してくる……だとっ?」


 迎撃するには数が多すぎる。そう判断した彼は舌打ちすると、即座に身を翻し、黒翼を大きく羽搏かせた。

 そして、迫り来るエネルギー弾を振り切らんと、急加速をかけながらグングンと夜空を上昇する。

 エネルギー弾は、上昇するギャレマスを更に追尾するが、全速力の魔王のスピードにはついて来れず、徐々にその差は離れていく。

 そして、内包するエネルギーを使い切り、だんだんとその光を弱め、やがて儚く消えてしまった。


「ふう……」


 自分を追いかけてくる光球が全て消えたのを確認したギャレマスは、安堵の息を吐くと、背中の黒翼を大きく広げ、空気抵抗を利用して急減速をかける。

 そして、シュータのいる高度まで降下しようと身を翻すが――。


「――ッ!」


 突然目の前を横切るように現れた、象牙色に輝く巨大な物体に驚き、息を呑んだ。

 その、煌めく鱗に覆われ、ギャレマスよりも何倍も大きな白翼を広げた優雅な肢体には見覚えがある。


「こ……これ――い、いや、お主は……ポル――」

「ぶふうううううううううんっ!」

「ぐふぅえおわああああああああ~ッ!」


 目の前に現れた巨大な古龍種の名を呼ぼうとしたギャレマスだったが、空中での思いもかけぬ邂逅に驚いたポルン(古龍種)が威嚇の咆哮と共に繰り出した尻尾の打擲をまともに食らい、悲鳴を残して明後日の方向へ吹っ飛んでいったのだった――。

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