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重装兵と闖入と魔王

 正面の木の扉と背後の幔幕から次々と入り込んできた重装兵たちは、部屋の中央で勇者シュータと対峙するように立っている有角有翼の壮年男を見定めるや、横一列に並び、携えていたボウガンを構えた。


「おい待て。お前ら、邪魔す――」

「放て――ッ!」


 咄嗟にシュータが上げた制止の声は、重装兵の指揮官の号令と、無数のボウガンの発射音で掻き消される。

 一斉に放たれた無数の矢が、鏃を銀色に光らせながら、黒ローブの壮年男――魔王ギャレマス目がけて飛んでいく。


「――ッ!」


 突然の襲来に、一瞬虚を衝かれたギャレマスだったが、咄嗟に身を翻し、背中の黒翼を大きく伸長させた。

 そして、


「ハァーッ!」


 と気合の籠もった声を上げながら、黒翼を大きく羽搏かせる。

 同時に巻き上がった凄まじい風により、飛来してきた無数の矢は、その全てが大きく軌道をずらされたり、あらぬ方向へ吹き上げられたり、または黒翼によって地面に叩き落とされた。


「ぐぬぬ……! ええい、第二射、構えぃ――」

「おい、やめろって言ってるだろうが! 俺もいるんだぞ! 危ねえだろうがッ!」


 すかさず追撃を命じようとした指揮官だったが、紅い魔法陣を盾のように前面に展開したシュータが上げた怒声にハッとする。

 そして、慌てて配下にボウガンを下ろさせると、鋭い目で睨みつけるシュータに向かって、おずおずと言った。


「こ……これは勇者殿……失礼いたしました。で、ですが、ちゃんと魔王だけに狙いを絞っておりますゆえ、ご安心を……」

「実際、三本くらい俺の方に流れ矢が飛んできたんだよボケ! テメエの部下どもは、敵と味方の区別も付けられねえのか、それとも単なるヘタクソなだけか? それともその両方なのか、アァンッ?」


 そう、指揮官を怒鳴りつけたシュータは、クルリと背を向けると、今度はギャレマスの事を睨みつける。


「テメエもテメエだ、クソ魔王! 矢を防ぐんだったら、もっと上手くやれ! テメエが弾いた矢が七本も俺の方に飛んできたぞボケ!」

「……あの一瞬で、数まで数えておったのか、お主は……」

「アァ? まずはゴメンナサイだろうがコラ! いい歳こいて、常識もねえのかよ!」

「あ、いや……ご、ゴメンナサイ」


 勇者に怒鳴りつけられ、素直にぺこりと頭を下げる魔王。

 その奇妙な光景に一瞬呆気に取られた重装兵たちと指揮官だったが、すぐに我に返る。


「な、ならば、接近戦で! 総員、抜剣せよ!」


 指揮官の声に、夥しい鞘走りの音が一斉に上がり、部屋に響き渡る。


「……ちっ!」


 その音を聞いたシュータは、密かに舌打ちをすると、素早く中空に新たな魔法陣を描いた。

 そして、物質錬成の魔法陣から伸びてきた剣の柄を掴むと一気に引き抜き、そのまま一足飛びで魔王の方へと肉薄する。


「――うぉっ?」


 思わぬシュータの急襲に上ずった声を上げたギャレマスだったが、すぐに掌に呪力を集め、


「――真空刃剣呪術(ダ・イソン)


 たちまちのうちに青く光る真空の刃の直刀を創り出し、シュータの兇刃を受け止めた。


「くっ……! シュータ、いきなり何を――」

「――魔王ッ!」

「む――ッ!」


 当惑の声を上げかけたギャレマスだったが、シュータからのアイコンタクトに気付き、すぐにその意図を察した。

 そして、背中の黒翼を再び大きく展張させる。


「ジェレミィア! お前も来いッ!」

「え? あ、う、うん!」

「スウィッシュよ! 弾かれぬよう、余の元に参れ!」

「は、はいっ!」


 シュータとギャレマスの呼びかけに応え、ジェレミィアとスウィッシュもふたりの元に駆け寄った。


「――よしっ!」


 全員が安全圏内に入った事を確認したギャレマスは、背中の黒翼を大きく羽搏かせた。

 黒翼に煽られた室内の空気がたちまち轟風となり、ギャレマスを中心にして、渦のように吹き荒ぶ。


「う……うおおおおおわあああっ!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!」

「くううううぅぅぅぅぅっ……!」


 手にした剣を振り上げて、今まさにギャレマスに飛びかかろうとしていた重装兵たちは、突然巻き起こった轟風に驚愕と恐懼の入り混じった悲鳴を上げた。

 魔王たちを中心にして吹き荒れる猛風は、まさに風の壁となって彼らの前に立ち塞がり、その行く手を阻んだのだった――。




 「……よし」


 轟風の壁の内側から、風の勢いで足止めされて、外側を右往左往している兵たちの姿を見たシュータは、満足げに頷いた。


「これで、余計な邪魔が入らずに、さっきの話の続きが出来るぜ」

「うむ……やはり、先ほどの目配せは、そういう意図だったのだな」


 シュータの言葉に、ギャレマスも頷く。

 そして、険しい表情を浮かべると、シュータに尋ねた。


「それで――どうすればサリアの行方を追う事が出来るというのだ?」

「……さっきも途中まで言ったけどよ。“いずこでも(ドア)”には、オリジナルよりも劣った、ある欠点があるんだ。“有効距離”っていう、な」

「ゆ……有効距離? それが……弱点なの?」

「ああ」


 シュータは怪訝な表情を浮かべるスウィッシュにニヤリと笑いかけると、言葉を継ぐ。


「オリジナルは、その名に違わず、どこでも――どんなに離れた場所でも移動できるんだけど、こっちの“いずこでも(ドア)”には有効距離が存在する。しかも、かなり狭い。せいぜい、半径三キロ足らず……ああ、ここの単位だと“ケイム”だっけか? ――ってトコだ」


 そう言うと、彼は皮肉げに薄笑みながら肩を竦めた。


「まあ、所詮は二十二世紀の秘密道具のまがい物だからな。いくら異世界転移者がチート能力を込めたとしても、たかが知れてるって事だ。だけど……今回はそれが幸いした」

「幸い……だと?」


 シュータの言葉に訝しげな声を上げたのは、ギャレマスだった。

 彼は、眉間に皺を寄せながら、苛立ちを押さえられぬ様子で声で荒げる。


「半径三ケイムだぞ? そのような広大な範囲の中から、何の手がかりも無い状態で、どうやってサリアの居所を見つけるというのだッ?」

「だから……方法ならあるって言ってんだろうが」

「なにッ?」


 あっさりと言い切ったシュータに驚愕するギャレマス。

 そんな彼にニヤリと笑いかけながら、シュータは言葉を継ぐ。


「まあ……俺やお前らじゃ到底無理な方法だけどな。だが……ひとりだけ、それが可能な奴が居るんだよ」


 彼はそう言うと、自分の傍らでポカンとした顔をして立っていた人物の肩をポンと叩いた。


「――なっ、ジェレミィア?」

「……へっ? アタシ?」


 シュータに名指しされた女狼獣人は、キョトンとした表情を浮かべて、目をパチクリとさせるのだった――。

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