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聖遺物とオリジナル版と相違点

 「い……“いずこでも(ドア)”……?」


 シュータの口から出た奇妙な名詞に、ギャレマスは訝しげな声を上げた。


「な……何だ、そのふざけた名前は……?」

「っていうか……ち、“ちーとあいてむ”って……何?」


 彼の傍らのスウィッシュも、狐につままれたような表情を浮かべながら首を傾げている。


「そっか……スッチーは魔族だから知らないんだね。“聖遺物(チートアイテム)”の事……」


 そんな彼女の疑問に答えたのは、ジェレミィアだった。

 だが、スウィッシュは別の事に対して驚き、目を丸くする。


「す……スッチー? それって……ひょっとして、あたしの事……?」

「うん、そう」


 顔を引き攣らせながら訊き返すスウィッシュに、あっさりと頷くジェレミィア。


「“スウィッシュ”ちゃんだから“スッチー”。いいでしょ?」

「えぇ~……」

「ま、それは置いといて」


 複雑な表情を浮かべるスウィッシュをそのままにして、ジェレミィアは言葉を継ぐ。


「“聖遺物(チートアイテム)”っていうのは、過去に造られ、様々な奇跡を起こした武器とか道具の事だよ。歴代の“聖人”たちが使ってたものが多いんだけどね」

「まあ……実際は“聖人”って言っても、そのほとんどが俺と同じような異世界転移者とか異世界転生者だったんだと思うぜ。大方、そいつらが使うチート能力の事を、まだ異世界転生転移者の事を知らない異世界(ここ)人間族(ヒューマー)たちが“奇跡の力”だと思って、崇め奉ってたってトコだろうな」


 ジェレミィアの言葉を引き継ぐようにして、シュータが口を挟んだ。


「んで……その“聖人”って呼ばれた異世界転移転生勇者どもが、自分のチート能力を注ぎ込んだ武器やら道具やらが、いわゆるひとつの“聖遺物(チートアイテム)”って呼ばれる代物になったって訳だ」

「なるほど……」


 シュータの説明に、ギャレマスは大きく頷き、シュータの背後に立つ大きな桃色の扉を指さす。


「じゃあ……その扉が、その伝説の“聖遺物(チートアイテム)”だというのか……?」

「ああ」


 ギャレマスの言葉に、シュータはあっさりと頷いた。

 だが、魔王は“いずこでも(ドア)”という間の抜けた名のついた聖遺物(チートアイテム)に疑惑の目を向ける。


「本当か……? 余の目には、何の変哲も無い張りぼての扉にしか見えぬが……」

「まあ……お前らの目にはそう見えちゃうかもな。でも、俺みたいな日本出身の奴が見たら一発で解るんだよ。こいつが自分と同じ世界からの来訪者の手によって造られたものだってな」


 シュータはそう答えると、“いずこでも(ドア)”の縁に手を添え、だみ声で叫ぶ。


「テッテレッテレ~♪ ど〇でもドア~ッ!」

「……は?」

「…………ふんっ!」

「ぶふぐげぇっ!」


 唐突なシュータの寸劇に、キョトンとした反応をしたギャレマスだったが、僅かに顔を赤らめた勇者が放った溜め無しのエネルギー弾を鳩尾に食らって、身体をくの字に折れ曲げた。


「ぐぅ……」

「へ、陛下、大丈夫ですかッ! ちょっと、いきなり何するのよ!」

「と……とにかくだッ!」


 腹を押さえて蹲るギャレマスを支えたスウィッシュが上げた抗議の声を、より大きな声を上げて誤魔化したシュータ。

 仄かに頬を染めた彼は、“いずこでも(ドア)”の事を掌でバンと叩くと、毅然と言葉を継ぐ。


「エラルティスの奴は、この扉を使ってこの部屋の中に侵入し、そして脱出したんだ! 間違いないッ!」

「そういえば……それって、どういう能力なの?」


 怪訝な表情を浮かべて尋ねたジェレミィアに、シュータは小さく頷いた。


「こいつはな……二枚で一組になってて、それぞれの扉の内側が亜空間法術で連結してるんだ。つまり、このドアを潜る事で、もうひとつのドアが設置された場所へ瞬時に移動できるって訳だ。ある程度の距離がある場所でもな」

「な……何だと……?」


 シュータの説明を聞いたギャレマスは、驚きで目を丸くする。


「じゃ、じゃあ……サリアを連れ去ったエラルティスは、その扉を通って別の場所に行ったという事か!」

「そゆ事」


 ギャレマスの言葉に、シュータは小さく頷いた。

 それを見た魔王の金色の瞳がギラリと輝く。


「ならば……その扉を通れば、すぐ二人に追いつけるという事だなっ!」

「あ……ちょい待ち――」

「うおおおおおおおおおっ! 待ってろ、サリアあああああッ!」


 ギャレマスは雄々しく叫ぶと、シュータの制止も聞かずに扉へ突進すると、一気に扉を開け放ち、勢いよく扉の中へと飛び込――


 ボコォッ!


「あ(いだ)ぁあああっ!」


 ――もうとして、扉の裏面に張った虹色の壁へ、強かに顔面を打ちつけて悲鳴を上げた。


「あ~あ……だから止めたのに」


 顔面を押さえて悶絶するギャレマスの事を冷ややかに見下ろしながら、シュータは開いた扉の向こうに張られた、油膜のように七色に光る壁を拳で叩く。


「もう遅えよ。この“いずこでも(ドア)”は、オリジナル(ドラ〇もん)版とは違って、一往復分こっきりしか使えねえんだ。だから……今のコイツは、タダの張りぼての扉でしかねえんだよ」

「な……なんふぁほ(だと)……?」


 シュータの言葉に愕然とした表情を浮かべながら、ギャレマスは鼻頭を押さえて立ち上がる。


「で……では、この扉を使って逃げたエラルティスを追いかける事は、もう――」

「そ、そんな……」


 絶望と共に紡がれたギャレマスの言葉に、スウィッシュが顔面を蒼白にしてへたり込んだ。


「ああ……サリア様……! あたしが付いていながら……」


 床に手をついてガックリと項垂れたスウィッシュの頬から、涙がポタポタと数粒滴り落ちる。

 ギャレマスも呆然としたまま、虚空を仰ぐ。

 ――と、その時、


「――まあ。まだ、そう悲観する事も無えよ」

「「――ッ!」」


 シュータの言葉に、ギャレマスとスウィッシュの目に光が戻った。

 ギャレマスは、藁にもすがるような目でシュータを見つめながら声を上ずらせる。


「そ……それはどういう意味だ、シュータ! ま……まだ、サリアの行方を知る手掛かりが――」

「まあな。……つか、その目やめろ。オッサンに円らな瞳で見つめられて喜ぶ趣味はねえよ」

「ぐわあああっ!」


 心底嫌な顔をしたシュータが放った極小のエネルギー弾を両目に食らって。ギャレマスは悲鳴を上げた。

 ジタバタと悶絶する魔王に冷ややかな目を向けながら、シュータは言葉を継ぐ。


「――この“いずこでも(ドア)”には、さっき言った回数制限以外にも、オリジナル(ド〇えもん)版より劣ってる点があってな」

「お、劣ってる点……て?」

「それはな――」


 訊き返すスウィッシュに向かって、シュータが口を開こうとした――その時!

 突然、木の扉と背後の幔幕が勢いよく開け放たれた。

 そして――、


「ゆ、勇者シュータ様ぁッ! 加勢に参りましたぞぉっ!

「ま、魔王ギャレマスッ! 覚悟ォ――ッ!」


 という絶叫と共に、完全武装の重装兵たちが、一斉に部屋の中へと雪崩れ込んできたのだった――!

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