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姫と肉餅挟み込みパンと勇者

 「……って」


 満面の笑みを浮かべながら、手に持った盆を傾けないよう慎重に部屋の中へと入って来たサリアは、臨戦態勢を取っている四人の姿を見て、キョトンとした表情を浮かべた。


「えっと……みんな、どうしたの? ケンカ?」

「あ……いや……」


 訝しげな表情を浮かべて尋ねたサリアに、苦笑いを浮かべながらギャレマスが答える。


「別に大した事ではないのだが……少し、話し合いが白熱してしまってな……」

「大した事ですよ、陛下! よりにもよって、陛下の事を……元々敵対している相手だとはいえ、いくら何でも許せません!」

「いや、余は別に、そこまで気にはしておらんから……」

「あっ、ふーん……」


 シュータの顔を指さし、鋭い目で睨みつけるスウィッシュと、辟易しながら彼女の事を宥めるギャレマスの姿を見たサリアが、何かを察した様子でニヤリと笑った。


「要するに、スーちゃんは、シューくんに()()()()お父様の事を悪く言われて激おこなんだねぇ」

「ひゃいっ?」


 サリアの言葉に、虚を衝かれた様子で目を丸くしたスウィッシュの顔が、たちまち真っ赤になる。


「い! いや……そそそそうじゃなくて……いや! ち、違わないんですけど、その……言い方ぁ!」

「はいはい」


 赤面を縦に振ったり横に振ったりしているスウィッシュを、ニヤニヤ笑いを浮かべて適当にあしらいながら、サリアは持っていた盆をテーブルの上にドンと置いた。


「みんなお腹が空いちゃってるから、気が短くなっちゃってるんじゃないかなぁ? だから、まずはご飯を食べて、お腹をいっぱいにしちゃうのがいいよー」


 彼女は、そう言いながらお盆の上に乗った白い布をパッと取り除けた。

 全員の注目が、布の下から姿を現したものに集まる。

 それは、中に何かが挟まった八個の丸パンだった。


「じゃーん! シューくんたちは始めて見るよね? これが、サリア特製の“肉餅挟み込みパン”でーす!」

「うわぁ、美味しそ~!」


 ジェレミィアがキラキラと目を輝かせながら、声を弾ませる。


「コレだよコレ! さっき一階で嗅いだいい匂い!」


 彼女は、クンクンと鼻を動かし、口の端から零れ落ちそうになる涎を手の甲で拭いながら叫んだ。

 その様子を見たサリアが、満足げに顔を綻ばせる。


「ありがと~! 遠慮なく食べて~。ええと……」

「あ。そういえば、ちゃんと話すのは初めてだったね。アタシはジェレミィア。ヨロシクね!」

「じぇれみぃあ……じゃあ、ミィちゃんで!」


 サリアはパッと顔を輝かせると、ジェレミィアが差し出してきた手を握り返す。


「サリアだよ~。よろしくね、ミィちゃん!」

「ミィちゃんか……悪くないね!」


 屈託の無い笑顔を浮かべるサリアを前に、ジェレミィアは照れ笑いを浮かべながら大きく頷いた。


「じゃあ、アタシは……サッちゃんって呼ぶよ。いいかな?」

「えへへ、もちろん~!」


 僅か数分で、すっかり打ち解けるジェレミィアとサリア。

 そんなふたりの事を、エラルティスは渋い顔で見ていた。


「ちょっと……ジェレミィア! なに、魔王の娘なんかと仲良くなっているんですの? この娘は、わらわたちの敵ですわよ!」

「いや、今は仲間じゃん」

「な、仲間なんかじゃありませんわよ、魔族なんか! あくまで今は、魔王から莫大な報酬をもらえるっていうから、いやいやいやいや手を貸してやろうとしてるだけで……」

「――ていうか、もうお腹が鳴って我慢が出来ないよ。サッちゃん、早速食べていい?」

「もちろん! 遠慮なく食べてー!」

「やった~! いっただきま~す!」

「ちょ! 人の話をお聞きなさい、この狼女!」


 エラルティスの怒声もまったく意に介さぬ様子で、ジェレミィアは皿の上に手を伸ばし、“肉餅挟み込みパン”をひとつ手に取るや、豪快にかぶりついた。

 それを見たエラルティスが、思わず顔を引き攣らせる。


「ひ……! ナイフやフォークも使わないで、直接手で持って食べるなんて、何て野蛮な食べ方なのでしょう……!」

「ううん。これでいいんだよー」


 エラルティスの言葉に、サリアが首を横に振りながら微笑んだ。


「食器を使わないで気軽に食べられるのが、この“肉餅挟み込みパン”のいいところだからね。エッちゃんも食べてみて―」

「だ! 誰が“エッちゃん”ですって!」

「え? エラルティスちゃんだから、エッちゃんだよ?」

「だーかーらっ! ま、魔族に……しかも、魔王の娘なんかに、そんな風に気安く呼ばれる筋合いはありませんわよ!」


 キョトンとしたサリアに、思い切り眉根を顰めてみせたエラルティスは、ぷいっと顔を背けると、傍らに立っていたシュータに同意を求める。


「……まったく、手で持って食べるなんて、まるでケダモノの食べ方じゃないですか。そう思いませんか、シュータ殿?」

「……い、いや。あれは、あの食い方でいいんだよ……」

「……へ?」


 エラルティスは、彼から返って来た答えが思っていたものと違った事に当惑の声を上げた。

 そして、ちらりと彼の横顔を見上げて、呆気に取られる。


「ちょ……どうしましたの、シュータ殿? そんなビックリしたような顔をして……」

「……」


 シュータは、エラルティスの問いかけも聞こえぬ様子で、呆然とした表情を浮かべたまま、ずかずかとテーブルの前に進み出た。

 そして、皿の上の“肉餅挟み込みパン”をひとつ手に取り、まるで観察するようにしげしげと見てから、大きく口を開けてがぶりと齧りついた。


「ちょっと! シュータ殿まで、そんなはしたない食べ方を――」

「……嘘だろ、オイ」


 思わず声を上げるエラルティスの声を遮るように、掠れた声で呟くシュータ。

 彼は、もう一口“肉餅挟み込みパン”を齧り、もしゃもしゃと咀嚼する。

 そして、ゴクリと飲み込むと、半分程になった“肉餅挟み込みパン”を、まるで信じられないものを見たかのように凝視した。

 そして、呆然とした顔で口を開く。


「この甘辛いタレの味……この香り……。間違いねえ、コイツは――“照り焼きバーガー”だ……!」

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