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魔王と台本とタイトル

 「ち……チキチキ……?」

「な……何だ、その奇妙な作戦名は……?」


 ギャレマスが読み上げた“台本”のタイトルを聞いたスウィッシュとアルトゥーは、額に数十本の縦線を浮かべながら、当惑の声を上げる。

 その一方で、


「おお! 言葉の意味は良く分かんないけど、とにかくすごいタイトルじゃん!」

「……はぁ。相変わらず、無駄に長いだけで欠片もセンスが無いだっっさい題名ですこと……」


 目を輝かせるジェレミィアと、ジト目で頬を引き攣らせるエラルティス。

 そんな様々な反応を前に、シュータは一仕事終えた様なドヤ顔で胸を張っていた。

 と、


「……というか……」


 自分の手にある台本の表紙を眺めながら、ぼそりと呟いたのはアルトゥー。

 彼は目を眇めながら、表紙に記された曲線と直線で形成された何かを見つめていたが、怪訝そうに首を傾げた。

 そして、「なあ、王よ……」と、ギャレマスに向かって尋ねかける。


「そもそも……王は、なぜこの奇妙な表記を、そんなにスラスラと読む事が出来たんだ? 己の目からだと、これが『文字』であるという事実すら、にわかには受け入れ難いのだが……」

「え……?」


 アルトゥーの問いに、内心でギクリとするギャレマス。

 すると、彼の隣で眉をひそめていたスウィッシュも深く頷いた。


「確かに……! よーく見たら、辛うじて読めなくもなさそうな感じだけど、パッと見、小さな子どもの落書きにしか見えない……」

「う……」

「……陛下は、何でこんなひどい文字が読めたんですか?」

「そ……それは……」


 スウィッシュに紫色の瞳で見つめられたギャレマスは、思わず答えに窮する。

 彼女の問いへの答えは、ハッキリしている。

 『普段から見慣れていたから』だ。

 だが、そう言ってしまうと、今度は「何で、宿敵のシュータの書く文字を、そんなに見慣れているんですか?」という疑問が飛んで来るのは火を見るよりも明らか……。

 さすがに、バカ正直に「実は、今までのシュータとの戦いは全部芝居で、事前にこっそり台本を渡されていた」……と答える訳にはいかない。


「そ……それは……その……」


 ギャレマスは言い淀みながら、脳味噌をフル回転してスウィッシュの問いへの回答を考え、その結果、口からついて出てきたのは、


「そ、それはな……よ、余は……普段から、気の遠くなるような昔から伝わる古文書や呪術本を読んでおるからな……。こ、このくらいの乱筆なら、読む事など容易いのだ!」


 ――と、いうものであった。


「……ブプッ!」

「……」


 耐え切れずにエラルティスが吹き出す声が聞こえたが、無視する。

 だが、幸い、スウィッシュには聞こえなかったようで、彼女はその紫瞳を輝かせた。


「なるほど……! さすが、古代からの書物にも明るい陛下です! こんな死にかけたオークが書き遺したダイイングメッセージみたいな文字も読めるなんて凄いです!」

「そ、そうであろうそうであろう! ハーッハッハッハッ!」


 シュータが上げた「……て、おい! 誰の文字が化け物のダイイングメッセージだとコラ!」という怒声を遮るように高笑いしてみせるギャレマス。

 そして、顔を背けて必死で笑いをこらえているエラルティスを恨めしげに一瞥してから、場を誤魔化すようにゴホンと大きな咳払いをする。


「え、えー、ゴホンッ! と、とにかく、そんな事はどうでも良い。話を先に進めようぞ!」

「え? あ、は、はい……」


 ギャレマスの言葉に、一瞬唖然とした表情を浮かべたスウィッシュだったが、彼の言葉の勢いに圧されるようにコクンと頷いた。

 相変わらずの不審顔のアルトゥーが、訝しみながらもちょこんと頭を下げたのを見たギャレマスは、シュータに向かって言う。


「じゃあ……シュータ、説明を頼む」

「あ、おう……」


 まだ先ほどのスウィッシュの一言を気にしているのか、ブスッとした顔のままのシュータだったが、気を取り直すように髪の毛を指でわしゃわしゃと搔くと、一同の顔を見回しながら口を開いた。


「じゃあ、これから台本の読み合わせをしながら、作戦の説明をするぜ。いいな……」


 ◆ ◆ ◆ ◆


 「……っていうのが、今回の作戦の概要だ。何か質問はあるか?」

「いや……質問ていうか……」


 一通り説明を終えたシュータに対し、頬を引き攣らせたスウィッシュが声を上げる。


「ツッコミどころと不満しかないんだけど……」

「んだよ、何か文句でもあるのかよ?」

「文句だらけよ!」


 不機嫌そうに眉を顰めたシュータに、思わず声を荒げるスウィッシュ。

 彼女は、手元の台本をバンバンと叩きながら叫ぶ。


「まず! そもそも、作戦のタイトルが気に食わないッ!」

「タイトルぅ?」


 スウィッシュの抗議に、片眉を上げながら首を傾げるシュータ。


「別に問題ねえだろ? 『空を見ろ! アレは鳥か? ドラゴンか? いいや、クソ魔王だ! ~第一回・チキチキ! 最強最高の勇者シュータと愉快な仲間たちによるエルフ救出大作戦!』……まあ、ちょおおおっと長いけど、こんなの、今日びのネット小説のタイトルに比べればまだ――」

「タイトルの長さもアレだけど! あたしが気に食わないのは別のところ!」


 そうスウィッシュは叫びながら、指を叩きつけるように台本のタイトルの一点を指さした。


「何よ、“クソ魔王”って! さっきから気になってたけど、あたしの大切な主である陛下の事を“クソ魔王”呼ばわりしないでよ!」

「うるせえなぁ。実際にクソ魔王なんだから、別にいいじゃねえかよ」

「あーっ、また言ったわね! あなたなんかに陛下の何が解るっていうのよッ? どんなに素晴らしい方かも知らないクセに! 凍らせるわよ!」

「あぁ? やってみろや、()()()()()()()()

「この……っ!」

「あら? 戦る気ですか? でしたら受けて立ちますわよ。元々、魔族なんかと手を組むのは反吐が出るくらい嫌でしたから、ちょうどいいですわ」

「え? あ、そうなっちゃうの? じゃあ……アタシも戦わないとじゃん。お腹空いてるんだけどなぁ……」


 今にも攻撃を仕掛けてきそうなスウィッシュの剣幕に、エラルティスとジェレミィアも、それぞれの得物に手を伸ばす。

 更に、それを見たアルトゥーが、無言で懐から飛刀を取り出し、スウィッシュとギャレマスを庇うように前に立つ。


「お、おい! 皆、止めるのだ! 今は互いにいがみ合っている時では――」


 やにわに殺気立つ四人の事を慌てて窘めるギャレマスだったが、完全に戦闘モードに移行した四人の耳には届かない……。

 睨み合う四人の間に張られた緊張の糸が、どんどんと張りつめていく――!

 ……と、


「あ、ごめんなさーい!」

「「「「――ッ?」」」」


 緊迫した場に全くそぐわない、朗らかな少女の声が部屋の中に響き、殺気を練り上げていた四人は虚を衝かれ、思わず力が抜けてしまう。

 部屋にいた全員の視線が、一斉に声が聞こえてきた扉の方に集まった。

 そこに立っていたのは――、


「えへへ。みんなのご飯を作ってたら遅れちゃいました~」


 長い赤髪を三角巾で纏め、フリルのついたピンクのエプロンを付けて、大きなお盆を捧げ持ったサリアだった。

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