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ハーフエルフと理解と不満

 「なるほどね……そういう事だったのか……」


 ヴァートスから事の顛末を聞かされたファミィは、小さく息を吐きながら言った。


「……それにしても」


 そして、呆れ顔半分といった表情を浮かべながら、ちょこんと首を傾げる。


「魔王が出かけた温泉に、敵であるシュータ様がやって来て鉢合わせするとは……何という偶然なんだ……」

「まあ……確かにのう」


 ファミィの言葉に、ヴァートスも苦笑を浮かべて頷いた。


「偶然にしては出来過ぎのような気がするが、実際に起こった事じゃからのう……。じゃが」


 と、彼は顎髭をしごきながら、言葉を継ぐ。


「単なる偶然か、宿命の神だか妖精だかの手による必然なのかは分からぬが、そのおかげで、あの転移勇者をこちら側につける事が出来たのじゃから上出来じゃろう。これで、ワシらの計画の成功率はグッと上がったはずじゃ」

「そこなんだよなぁ……」


 ヴァートスの言葉に、ファミィは訝しげな表情を浮かべた。

 そして、眉を顰めながらヴァートスに訊ねる。


「どうにも信じられないのだが……どうして、あのシュータ様が、天敵であるはずの魔王と手を結ぶ事に同意したんだ?」

「ん?」

「いや……」


 ファミィは、一瞬躊躇うように言い淀んだが、キュッと形の良い唇を噛むと、再び口を開いた。


「あの方とは“伝説の四勇士”に選ばれてからの付き合いだが、自分の利益を見いだせない事には一切関わろうとはしない方だったから……。なのに、どうして今回の“エルフ族解放作戦”に限っては手を貸してくれる気になったのかな……と」

「……」

「ぶっちゃけた話、エルフ族がどうなろうと、あの方には関係の無い事ではないかな? なのに、自分の……人間族(ヒューマー)の天敵である魔王と手を組むなんていう際どい事までして、作戦に協力してくれるなんて、一体どうして……?」

「あぁ……それはのう――」


 思わず『自分が知っている(と嘘をついた)“ハ〇ター〇ハ〇ター”のラストシーンを聞く為じゃ』と、本当の事が口から出かけたヴァートスだったが、さすがにマズいと口を噤んだ。

 そして、ゴホンと大げさな咳払いをして、言葉を継ぐ。


「それはもちろん……ファミィさんに対する罪滅ぼし的なアレなんじゃろうなぁ。――知らんけど」

「罪滅ぼし……ねぇ」


 ヴァートスの答えに、ファミィは胡散臭そうに顔を顰めた。


「あの方に、そんな殊勝な感情があるようには思えないんだけど……」

「何じゃ、仲間なのにひどい言い様じゃのう」

「まあ……な」


 葉に着せぬ物言いに思わず苦笑するヴァートスに、ファミィはしかめ顔を向けながら言葉を継ぐ。


「魔王征伐を目指して一緒に旅をしていた時に、あれほどエルフ族自治領実現の為への口添えをお願いしていたのに、空返事ばかりで全然動いてくれなかったからな……。正直、『何を今更』って感じ」

「ま……まあ、色々あったんじゃろう……多分」


 膨れ面で不満を漏らすファミィに、曖昧に頷きかけるヴァートス。

 と、ふとファミィは、何かに気付いたように目を見開いた。


「……と、いう事は……エラルティスとジェレミィアも――」

「ああ、何か、そやつらにも勇者が話を通しておくと言っておったわい」

「……そっか」

「何か不満かな?」

「あ、いや……」


 ヴァートスの問いかけに、ファミィは気まずげな表情を浮かべながら言い淀む。


「ジェレミィアはともかく……エラルティスの奴はどうなのかな……って思って。あの女は、一緒に旅をしていた頃から、私の事をあまり快く思ってないっぽかったから……」

「ほほう……そりゃまた何で?」

「知らん」


 興味津々なヴァートスの問いに、ファミィは素っ気なく言い捨てる。

 だが、すぐに気を取り直すように首を横に振った。


「まあ……考え過ぎだろう。あいつも仲間だしな。何も無いうちからああだこうだと言うのは良くないな」


 彼女は、半ば自分に言い聞かせるように呟いて大きく頷く。

 と、ヴァートスの顔を睨むと、ぷうと頬を膨らませた。


「……それにしても、酷いぞ、ヴァートス様」

「ん? 何がじゃ?」


 突然ファミィに咎められ、戸惑うヴァートス。

 ファミィは、彼の艶々の頬を指さした。


「私が、肌や髪の毛を冷たい川の水で洗うしかないっていうのに、あなたは呑気に温泉に浸かって、そんなにピチピチお肌になってるなんて……」


 彼女はそう愚痴ると、自分の荒れた頬を撫でた。


「ほら……昼間は変装で黒く染めてるから、それもあってこんなにパサパサになっちゃってる……。あーあ……温泉に行くって分かってたら、私も一緒についていったのに……」

「ヒョッヒョッヒョッ! それは済まなんだな」


 不満たらたらのファミィの様子に、ヴァートスは呵々大笑する。


「じゃったら、今回の作戦が終わったら、一緒に温泉にでも行くとしようかのぉ。魔王国にも温泉はあるじゃろうて。混浴ならなお良しじゃ」

「……このドスケベ変態モノノケ爺めが」


 いやらしい顔で締まりのない笑みを浮かべる老エルフの顔をジト目で睨みつけるファミィ。

 と、いたずら小僧のような表情を浮かべながら、ヴァートスは彼女の顔を覗き込む。


「じゃあ……ギャレの字と一緒ならどうかのう?」

「ふぁ、ファーッ?」


 ヴァートスの問いかけを聞いた瞬間、ファミィは目を飛び出さんばかりに見開き、たちまちその尖耳の先までが真っ赤に染まった。


「な……なななななんで、そこであの魔王の名前が出てくるんだ! か、関係無いだろうが、あの冴えない……“()王なのに()メな()ヤジ”……略して“マダオ”の事なんかッ!」

「やれやれ……あっちの氷のお姐ちゃんといい、アンタといい……今日びの娘っ子は色々と分かりやす過ぎじゃわい」


 目を白黒させながら取り乱すファミィの様子を白け顔で見ながら、ヴァートスは呆れ声を上げる。


「そ! そ、そんな事よりっ!」


 ファミィは、誤魔化すように声を張り上げた。


「く、くだらない事を言ってないで、もう寝るぞ! アヴァーシからここまで歩き通しで、あなたも疲れているだろうがっ!」

「ヒョッヒョッヒョッ。照れちゃって、お可愛いのう」

「うるさいっ!」


 ヴァートスのからかい声に怒鳴り返したファミィは、さっさとベッドの上に横たわり、薄いシーツを頭まで引っ被ろうとする。

 と、その時、


「……すまんが」

「――ッ!」


 突然聞こえてきた、自分のものでもヴァートスのものでもない若い男の声に驚き、ファミィは跳ね起きた。


「だ、誰だッ!」


 目を大きく見開いて周囲を見回すファミィ。

 と、部屋の片隅に真黒な影……いや、黒装束の黒髪の男が佇んでいるのに気が付いた。


「い――!」

「……今日は遅いので、ここに泊めてほしいのだが。あ、いや、己は床で寝るのでお構いなく。ただ、余っているシーツがあったら、一枚でいいから借りた――」

「いや、居たんかい、お前えええええっ!」


 ファミィは、気まずげに頭を掻いているアルトゥーに向け、渾身の声でツッコんだ。

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