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勇者とアプローチと打算

 「大事な……話……」


 ギャレマスの言葉を口の中で反芻したシュータは、眉間に深い皺を刻み、首を横に振った。


「その“大事な話”っていうのが、さっき言ってた『俺がアンタに協力する』って話だったら、聞くまでもねえ。答えはさっきと同じで、ノーだ――」

「いや……それ以前の話だ」

「……何?」


 意外にも、自分の言葉をギャレマスに否定されたシュータは、怪訝な表情を浮かべる。


「それ以前……? それは、一体どういう――」

「シュータよ。先ほどのお主の言葉は、本心か?」

「は……?」


 ギャレマスの問いを聞いたシュータの表情が険しくなった。

 そんな彼の反応にも構わず、ギャレマスは更に言葉を継ぐ。


「――『ファミィの事など、生きてようが死んでようが知ったこっちゃない』と言っていたな。あれは本心からの言葉なのか、と聞いておる」

「……ああ、そうだよ!」


 シュータは、一瞬言葉を詰まらせた後、眉を吊り上げながら叫んだ。


「……あの高飛車女、せっかく俺が“伝説の四勇士”として取り立ててやったっていうのに、お高く止まって、俺がいくらアプローチをかけても全然靡かねえしよ! そのくせ、何かといや『エルフ族自治領実現の為、国王陛下へ口利きをお願いします』ってうるさく言ってきやがって!」

「ああ……そういえば、ヴァンゲリンの丘で、そのような事を言っていたな……」


 ギャレマスの脳裏に、シュータが空から落ちてきた古龍種に潰されたと勘違いしたファミィが、拳を地面に叩きつけながら悔しがっていた光景が過ぎる。

 その時、


「……というか」


 新しいグラスにワインを注ぎ込みながら、ヴァートスが口を挟んできた。

 彼は、ワインが満たされたグラスをゆっくりと回して芳香を楽しみながら、シュータに尋ねる。


「そもそも、お主はファミィさんに対して、どういう風にアプローチをかけておったんじゃ?」

「え?」


 ヴァートスの質問に、シュータはキョトンとした表情を浮かべ、顎に指を当てて思い出しながら、ぽつぽつと答える。


「そりゃ……街での買い出しの時に、さりげなくバラを一輪買って渡してやったりとか……アイツが欲しがってたアクセサリーを、俺が店員に掛け合って値引きさせてやったりとか、アイツに似合いそうな服を見繕ってやったりとか――」

「「「……何だそりゃ?」」」


 シュータの話を聞いた三人の声が、期せずしてハモった。

 そして、「「「はぁ~……」」」と、同時に大きな溜息を吐く。


「……バラの花束ならまだしも、たった一輪だけとか……キザにも程がある。そんな事をして女を落とせるのは、ごくごく限られた顔面エリートだけだぞ」

「う……」

「店員に掛け合って……って、それ絶対、“タメ口”“横柄”“無茶ぶり”のクソ厄介トリプルクレーマームーブで無理矢理店員に値引きさせたクチじゃろ? それ、ド〇キに週二で通うイキりチーマーと同じで、まともな神経の通った女子(おなご)が一番嫌がるヤツじゃぞ」

「ぐ……」

「相手の好みを無視して自分の嗜好を押し付けるのは、親切でも気が利いている訳でもない、タダの迷惑でしかないぞ」

「う……うるせえええええなっ!」


 三人からの容赦ないダメ出しに耐え切れなくなったシュータは、涙目になりながら怒鳴った。


「何だよテメエら! 言いたい放題言いやがって――!」

「いや……(おれ)もあまり他人の事は言えぬのだが、あまりにもダメダメ過ぎて……」

「て、テメエ、まだ言うか――」

「そりゃ、そんなアプローチじゃ、靡く訳が無いな……」

「う、うるせえって言ってんだろうが、クソ魔王……!」

「俺ツエー系ハーレムラノベの読み過ぎじゃ。童貞丸出しか」

「ぐ……ッ!」


 更に叩き込まれる追撃(ツッコミ)に、シュータは言い返す事も出来ずに歯噛みする。

 そんなシュータの様子に、ギャレマスはもう一度大きな溜息を吐いた。


「まあ、それはともかく……つまりは、ファミィが自分の思い通りにならぬから切り捨てた――お主はそう言うのだな?」

「……あ、ああ、そうだよ。――そ、それがどうした!」


 ギャレマスの言葉に一瞬口ごもったシュータだったが、すぐに忌々しげに顔を歪めながら声を荒げる。


「所詮、アイツは……俺の事なんか、『エルフ族の自治権獲得』っていう自分の望みを叶える為の、都合のいい駒くらいにしか思ってなかったんだよ! だから、俺は――」

「だったら、覆してやれば良いだろうが」

「……え?」


 あっさりと言い放ったギャレマスに、シュータは驚いた顔を向けた。

 そんな彼に、ギャレマスは顎髭を撫でながら言葉を継ぐ。


「ファミィにそう思われるのが嫌なのであれば、彼女が思わずお主を見直さざるを得なくなるような行動を取れば良いのだ。――例えば、ファミィが切望している『エルフ族に自由を取り戻す』という目的に対して真摯に協力する……とかな」

「……それは、つまり――」

「そうだ」


 ギャレマスは、シュータの声に大きく頷いた。


「此度のエルフ族解放作戦に参加するのだ、勇者シュータよ! そして、自分が“伝説の四勇士”の二つ名に恥じぬ、清い正義の心を持つ(つよ)き男だという事をファミィに見せてやるのだ! さすれば、あの娘はお主の事を見直すかもしれぬ……いや、必ずや見直す事であろう!」

「……!」


 拳を握りながらのギャレマスの熱弁に、シュータは目を大きく見開く。

 そして、血走った目をギャレマスに向けると、微かに震える声で問いかけた。


「って事は……俺がエルフ族解放作戦に加われば、あの高慢ちきなファミィの態度が一変して、『お願い、抱いてぇっ!』って叫びながら、あのスイカみたいな乳を思う存分揉ませてくれるって事か……ッ?」

「え……い、いや……それはファミィ次第だとは思うが、そこまではやっぱり無――」

「おう、当然じゃろう! 乳どころか、その先も思うままじゃぞい!」

「ちょ! ヴァ、ヴァートスど――」


 『やっぱり無理』と言いかけた自分の声を遮ったヴァートスを窘めようとしたギャレマスだったが、ヴァートスの目配せに気が付き、口を噤む。

 その目が、(ここが肝心じゃ! もう一押しでオチるぞ!)と訴えているのが分かったからだ。

 一方のシュータは、「ま……マジか……? そ……その先って、アレだろ? ナニをナニにナニしてナニしちゃう……アレだろ……?」とブツブツ呟きながら、難しい顔をして考え込んでいる。


「……」

「……」


 そんな彼の様子を、ギャレマスとアルトゥーは固唾を呑んで見守る。


「ヒョッヒョッヒョッ! この猪肉の燻製の程よい塩気が、蜂蜜酒の甘辛さとよく合うのぉ~!」


 その傍らで、ヴァートスはここぞとばかりに大いに飲み、大いに食っていた……。

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