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勇者と協力と拒否

 「……は?」


 シュータの口から出た思いもかけない答えに、ギャレマスは唖然として目を大きく見開いた。


「断る……? 断ると言ったのか、お主は……?」

「ああ、そうだよ。耳が遠いのかよクソ魔王? “デビルイヤーは地獄耳”なんじゃねえのかよ、アァ?」

「で……でびるいやー……?」

「……ネタが古いのぉ」


 シュータの言葉にキョトンとする魔王と、その傍らで苦笑するヴァートス。

 彼は空になったグラスに蜂蜜酒を注ぎながら、シュータに尋ねる。


「何じゃお主。言動から察して、古くても2000年代くらいの日本からこっちに来たように思うとったが、ひょっとして、結構昔の時代から転移してきたんか? 1970年代くらいとか?」

「あ? んな訳ねえだろうが! 1970年なんて、生まれてもいねえよ!」


 ヴァートスの質問に対し、シュータは憤然と怒鳴った。


「俺は2001年生まれだ! そんで、ここに転移させられたのは2017年の事だよ!」

「ほ~、そうなのか。意外とワシと時代が近いのう」


 シュータの答えに感嘆の声を上げたヴァートスは、顔を綻ばせながら顎髭を撫でる。


「ワシャ、2021年の日本で死んで……()()()()()()()()()()から、こっちに転生してきたんじゃ」

「……マジか? 俺の四年後に?」


 シュータは目を丸くすると、老エルフの顔をしげしげと見つめた。


「その割には……メチャクチャ年取ってるけど……」

「ヒョッヒョッヒョッ! まあ、転移と転生の違いなのかもしれんし、日本(向こう)の時間軸と異世界(こっち)の時間軸の流れが、()()()()()()()()()()()()()()()()のかもしれんしのう。まあ、いくら考えようと、ワシらにゃ真相は分からんじゃろうて」

「何だか、頭痛くなってきた……」

「ちょ! ちょっと良いか!」


 ふたりが勝手に異世界転生転移談義を始めたせいで、すっかり話題の蚊帳の外に置かれてしまった形のギャレマスが、上ずった声で口を挟んだ。


「い、今はそんな話をしているところではない! 本題に戻るぞ!」

「本題……って、何だっけ?」

「忘れるなああああっ!」


 素で首を傾げるシュータに向かって、思わず声を荒げるギャレマス。

 彼は、顔を青ざめさせたり真っ赤にしたりしながら、早口で捲し立てる。


「余の立案した“エルフ族救出作戦”に、お主の協力を求めただろうが! その事だ!」

「あぁ~、その事ね」


 目の前の皿から、タム芋の素揚げを手づかみで取りながら、シュータは興味無さげに頷いた。

 そして、ギャレマスの顔をジロリと一瞥してから答える。


「だったら、ハッキリ断っただろうが。それで話は終わりだろ?」

「だ、だから! な、なぜ断るのだッ?」


 つれないシュータの返事に、ギャレマスは目を剥いて詰め寄る。


「ふぁ、ファミィは“伝説の四勇士”……つまり、お主にとってはかけがえのない仲間であろうが! そんな仲間が、自分のせいでエルフ族の同胞が迫害を受けようとしている事態に対し心を痛め、何とかしたいと思っておるのだぞ! 仲間の為……そして、虐げられている民の為に立ち上がり、力を尽くす事こそ、お主の標榜する“正義の味方”の在り方なのでは無いのか?」

「んな事、知らんがな」

「は――?」


 素っ気なく発せられたシュータの答えに愕然とするギャレマス。

 一方のシュータは、タム芋の素揚げを豪快に頬張り、木苺のジュースで喉の奥に流し込んでから口を開く。


「――つうかよぉ。そもそも、ファミィはもう俺の仲間なんかじゃねえ。戦力外通告済みなんだよ。――ヴァンゲリンの丘で、俺の命令に逆らって噴火に巻き込まれた時点で、な」

「は……?」

「その後で、アイツが死んでいようが生きていようが、()()()()()()()()()()()()知ったこっちゃねえ。どうぞ新天地で頑張って下さいってなもんだ」


 そう吐き捨てるように言うと、シュータは手酌でグラスに注いだ木苺のジュースを一気に飲み干した。

 そして、口元を手の甲で拭きながら、言葉を継ぐ。


「いや、いいんじゃねえの? あれだけ魔族を毛嫌いしてたアイツが、どんな気持ちの変化で魔王(テメエ)の協力を仰ぐようになったかは知らねえけどよ」

「……」

「俺は、もうアイツは死んだものと思うからよ。そっちで煮るなり焼くなり好きにしな。こっちは今まで通りに各地を回って、新しい“伝説の四勇士”をスカウトするからよ」


 そう言うと、シュータは「あ、そうだ……」と呟いて、ハタと手を打った。


「いっその事、四人なんてみみっちい事は言わねえで、もっと人数を増やすのもアリなんじゃねえか? そう――総勢48人くらいに増やして、“DUC(伝説の勇士)48”ってグループにしちゃうの……うん、結構アリかも……!」

「おいおい、各地に姉妹グループでも作るつもりかい。“何々坂46”的な」

「うん、それもいいな……ククク」


 ヴァートスのツッコミに、満更でもない顔で頷くシュータ。


「俺が総合プロデューサーになってさ、みんなで歌とか歌わせたりしちゃうの。元曲をコッチ向けに微妙に変えて、『ヘビーローテンション』とか『フライングドラゴン』とか『恋するフィーチャービスケット』みたいなタイトルにしてさ!」

「一時期は流行ってたのぉ……」


 ヴァートスは、遥か昔の記憶を思い出すように、遠い目をしながら呟いた。


「ワシャ、なっちゃんが好きじゃったなぁ」

「お、そっちか! 俺は断然おじなる派だったぜ!」

「ほほお、なかなか通じゃのう、お主……」

「そういうアンタもな」

「ヒョッヒョッヒョッ!」

「クックックッ」


 と、ヴァートスと一緒になって、日本に居た頃にファンだったアイドルグループの推しメン談義に興じ始めるシュータ。

 ……と、突然背後から肩をグワシと掴まれた。


「痛ッ……!」


 指が肩に食い込み、その痛みに思わず顔を顰めたシュータは、不機嫌そうな表情を浮かべて背後を振り返る。

 そして、


「何だよ、クソ魔王! 痛ぇじゃねぇか! 邪魔すんじゃねぇ――」


 と、自分の肩を強い力で掴むギャレマスに向かって怒鳴り声を上げようとした瞬間、


「この……()れ者めがあああああっ!」


 憤怒の表情を浮かべたギャレマスの放った鉄拳が、その右頬に炸裂した――!

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