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人間族兵と増強と意図

 「まあ、良い」


 そう言って、ギャレマスは、話題を変える為に咳払いを一つした。

 そして、三人の顔を順々に見渡すと、厳かな声で口を開く。


「さて……アルトゥーの事は一先ず()くとして」

「……おい、王よ。人の事をさんざん好き勝手に言っておいて、更に勝手に()くな」


 自分へのあまりのぞんざいな扱いっぷりに愕然としたアルトゥーが上げた抗議の声も聞こえぬ様子で、すっくと立ち上がったギャレマスは、ローブの懐の隠しからパンパンに膨らんだ革袋を取り出した。

 そして、地図の広げられたテーブルの上に中身を空ける。ジャラジャラと、金属同士がぶつかり合う小気味のいい音が室内に響く。

 中に入っていたのは、人間族(ヒューマー)の世界で流通しているコインだった。

 ギャレマスは手元の紙束をペラペラと捲りながら、地図の上のあちこちにコインを次々と置いていく。

 そして、紙束を最後まで捲り終わり、最後のコインを地図の真ん中に置くと「……良し」と呟き、満足げに頷いた。


「ふむ……こんな感じか」

「お父様? これは、一体何なんですか?」


 地図の上のあちこちに積み上げられたコインを見ながら、サリアは首を傾げて魔王に訊ねる。

 その問いかけに、ギャレマスは手にした紙束を指さしながら答えた。


「これはな……アルトゥーが調べ上げた情報――人間族(ヒューマー)の砦の場所と規模と兵力を表したものだ」


 そう言うと、彼は地図の上に乗せたコインを一つ一つ指さしながら、更に言葉を継ぐ。


「コインを置いた所が、人間族(ヒューマー)の砦や拠点のある場所。積み重ねたコインの枚数が、その砦や拠点の戦力の大きさを示しておる」

「……なるほど。分かりやすいですね」


 地図を覗き込みながら、スウィッシュが感嘆の声を上げた。

 そして、その白魚のような指を伸ばし、コインの間をなぞりながら、小さく頷く。


「――やはり人間族(ヒューマー)たちは、大きな街道沿いの要所要所に拠点を設けているようですね」

「ああ」


 スウィッシュの言葉に答えたのは、アルトゥーだった。


「己が見てきた中でも、つい最近構築したらしい拠点がいくつもあったな。……まだ土塁と防壁くらいしか整備できていないような状態のものも少なくなかったし、既存の砦もその規模を拡張しようとしている節が見てとれた」

「それはつまり……」

「ああ。どうやら、各地で分割した兵たちをこの北東地方に集結させ、築造した拠点や拡張した砦に駐屯させようとしているようだな」

「……要するに」


 アルトゥーの言葉に、ギャレマスは顎髭を指で撫でながら呟く。


「アヴァーシ周辺の防備を厚くして、イワサミド鉱山が本格稼働を始めた際に、それを阻止せんとして侵攻してくるであろう魔王国軍(われら)を防ぎ退け、鉱山の操業を妨げられぬようにする為に……か」

「恐らく」


 ギャレマスの推測に、アルトゥーも賛意を示す。

 それを聞いたサリアの顔が曇った。


「えぇ……それじゃ急がないと、ここら辺が人間族(ヒューマー)の兵隊でいっぱいに……」

「……そうだな」


 サリアの言葉に、ギャレマスも苦い顔をして首肯する。


「さすがに、これ以上人間族(ヒューマー)の兵力が増強されるようでは、エルフ族全員を魔王国領まで連れて行くのは厳しくなるな」

「そうですよね……」


 顎に手を当てたスウィッシュが、眉根に皺を寄せながら頷いた。


「いかに陛下の御力が膨大だといえど、あまりの多勢の前では……もちろん、あたしもお助けしますが」

「いや」


 意外な事に、ギャレマスはスウィッシュの言葉に軽く首を横に振った。

 そして、ニヤリと薄笑みを浮かべながら言葉を継ぐ。


「余は別に、そっちの方で憂慮してはおらぬ。人間族(ヒューマー)兵如きがいくら束になってかかって来ようとも、この“雷王”の前には鼠の群れに等しいわ!」


 そう、胸を張って豪語したギャレマスだったが――、


「い! 痛ちちちち!」


 先ほど攣った右ふくらはぎが再発したらしく、ギャレマスは顔を歪めてその場で悶絶する。


「きゃあ! お父様、大丈夫ですかっ!」

「あぐぐぐぐ……おうふぅっ!」


 慌てて助け起こしたサリアの腕の中で、右脚を押さえて情けない悲鳴を上げる魔王。そんな彼の脚を押さえて、先ほどと同じ手順で足の攣りを治しながら、アルトゥーが呆れ顔で溜息を吐いた。


「……本当に大丈夫なのか、王よ。こんな体の状態で」

「そ、そうですよ、陛下。もういい御年なんですから、無理をなされては御身体に……」

「う、うぐぅ……だが……」


 ふたりの臣下の言葉に、悔しげに唸るギャレマス。

 と、サリアが父親を慰めるように声をかける。


「別に、お父様おひとりで頑張らなくても大丈夫ですよ! サリアやスーちゃんやアルくん……それに、ファミちゃんとヴァートスさんもいますから!」

「……ヴァートス?」


 サリアの言葉に訝しげな表情を浮かべたのは、アルトゥーだった。


「己は初めて聞く名だ。誰だそいつは?」


 そう言うと、彼は周囲を見回しながら首を傾げる。


「それに……そういえば、あのハーフエルフの姿も見えないようだが……どこに?」

「あぁ……そういえば、アルにはまだ詳しく話してなかったね」


 水を注いだ木椀をギャレマスに差し出しながら、スウィッシュが微かに笑みを浮かべる。


「じゃあ、今話すわね。――あのエッルフが今どこに居るのかと、あたし達があなたと離れている間に、森の中で出会った半人族(ハーフヒューマー)たちの長・ヴァートス様の事を、ね」

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