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甕星戦記  作者: pity
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泣いた赤鬼 其の弐

燃え盛る街は先程目にした活気ある姿の見る影もなく、私が放った炎によって、家屋が次々と焼け落ちていった。


しかしながら、炎が燃え広がる様は理解あるものが見ればたちまち違和感を抱くほどにゆったりとしたものだった。


当然のことだ。私は極限の集中を持って、街中に己の神経を張り巡らしていた。


豊布都の家門にあるものであれば、戦場の気配を拾いこぼすことは恥である。


私は街中のあらゆる気配を察知し、私が齎した火災により命を奪われることがないように炎界を制御した。


私が起こしたことは彼らの生活を奪うことだ。家屋には寝床も、食料も、生活していくうえでの不可欠のものがあっただろう。


それに加えて、命までもを奪ってしまっていい筈はない。


戯言であるとは理解していた。飢える苦しみも、雨風凌げぬ苦しみも、今後彼らに降りかかることだろう。


それによって、死んでしまう者も中にはいるだろう。


私は自らの過ちによって生まれる犠牲を先送りにしているに過ぎなかった。


けれど、それでも命を奪うことだけは躊躇われた。


如何に逃走において右に出る者がなかろうとも、下手人はあの豊布都カグチ、つまり父上の肉体を手に入れている。


そして、どうやら先程から感じているように、血縁者を滅ぼすために、血縁者の位置を特定するような呪術が掛けられているようであった。

間違いなく、今もなお背中に張り付いているこの気配はその呪いによるものだろう。


如何に私が逃亡において父さえ凌ぐ優れた才覚を持ち合わせようとも、サクヤ姫を抱えたままでは十全に発揮することはできない。場合によってはこちらに追いつかれてしまうだろう。それは考えられる最悪だった。


だからこそ、燃え広がるほどに呪力の勢いを増し、周囲にある呪いを僅かにかき乱すことができる炎界呪を用いる必要があった。


それにだ。相手はあの豊布都カグチなのだ。今の今までこの街が戦いの余波による被害を受けていないことは奇跡にも等しかった。


無論、彼に立ち向かうのは豊布都の武を背負いし者たちである。

当然優秀すぎるほどに優秀であり、あの豊布都カグチ相手でも時間を稼ぐ程度のことは難なくこなしてしまうだろう。


彼らが数人がかりであったのならば、被害を抑えて立ち回ることも不可能ではない。


今ここまでこの街が惨劇に見舞われなかったのは、奇跡のようで奇跡ではなく、武勇ある者が命をかけて生み出した必然だ。


けれど、どうであっても凌ぎ続けるのは困難だろう。いずれ限界が訪れるのは明白だ。


一人ずつ確実に戦えなくなっていくだろう。当たり前の現実だ。


わかっていてもなお彼らは戦うのだろう。臆病な私からすればなんとも羨ましいことだった。


ああ、しかし、とうとう均衡は崩れたようだった。


背後に何かが落ちてきたかのような轟音が響いた。


振り返ると屋敷の方から次々と瓦礫が飛び散っていくのが見えた。


もしも炎界呪を放っていなければ巻き添えになっていた人がいただろう。


私は少しだけ自らの行いが正しいものであったと安堵することができた。


だか.ここにまで戦いの余波が飛ぶようになったということは彼らの命の終わりも近いということであり、喜んでいる場合ではない。


おそらくは戦えるものが残っているとしても、あと数人がせいぜいというところだろう。父が相手では軍勢ですら物足りない。


どれほどの英傑を揃えたら父を殺すことができるのか想像もつかない。


規格外にも程があるのだ。


とはいえ、ここまで逃げることができれば絶対に追いつかれない自信があった。


町民たちが逃げ切れるかは少しだけ気がかりだが、サクヤ姫を守らなければならない上に彼らまでとなると、自分には荷が重い。


父の躯も町民にまで危害を加えようという意志もないだろうから、逃げさえすれば彼らの命は助かることだろう。


問題なのは何らかの術で居場所を悟られてしまう自分の方だった。


いくら炎界呪によって撹乱しているとはいえ、完全に遮断することは不可能だ。


父の術は人間とは思えないほどに底知れぬものが多かったが、それでも限界は当然にある。


父の術才を利用したものであろうと、それは変わらない。


有効距離は必ず存在しているのは間違いない。


既に1キロ程離れたはずだが、それでも尚補足されているという感覚は消えない。


自分の索敵術が4キロ以上は有効であることを鑑みれば、その程度の芸当は父は有に可能だろう。非常に厄介なことだ。



距離は一里とか考えるの面倒なのでkmに統一します。

違和感があるのはきのせいです。実際にknと使われているのではなく、翻訳するとkmになると考えれば問題ないと思います。

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