【第4話】 クレイゴーレム討伐
道中に現れるモンスターはほとんど一瞬でノエルが倒していた。
ノエルは強かったのだ。アルトの想像を遥かに越えていた。さすが、魔道書士なる資格を持っているだけある。
ゴブリン
「キッキキ!!」
ノエルは手をモンスターに向けて無詠唱で魔法を放つ。
ノエル
(ブリザー!!)
美しい氷の結晶が地面に連なって行き、ゴブリンを凍りつかせた、後にバラバラに砕けた。
アルトはノエルの魔法を見とれていた。
下級の魔法ですら、アルトが放つ魔法とノエルが放つのとで、威力に大きく差が見られたのだ。さらに、ノエルの魔法は鮮やかであり美しかった。これはエネルギーの分散がなく、効率よく魔法を放っていることを意味している。しかし、なぜノエルは初級冒険者の自分とパーティーを組んだのか? アルトはそれに疑問を感じていた。
ノエルの実力は少なくとも中級冒険者としてソロでも十分活動できる。そのくらいのレベルであれば、普通はクレイゴーレムごときの相手なんざしないのだが、わざわざ初級冒険者のアルトと組んでクレイゴーレムの討伐を引受けた。
アルトはノエルが自分に同情してパーティーを組んでいるのではないかと考えていた。
ノエル
「さあ、この子らも片付いたし、先へ進もう?」
依頼者
「さっすがー!! 姉さんかっこいいすっわ!!」
ノエル
「えへへ」
照れているノエルにアルトが話しかける。アルトが突然見つめてきたため、ノエルは顔を赤面して視線を逸らす。
ノエル
「な、なにかな......? アルト?」
ノエルはドキドキしている。
アルト
「ノエルが俺をパーティーに誘ったのって、もしかして、この前の話に同情したからなの?」
ノエル
「......?」
ポカンとしている。
ノエルとしては純粋に依頼の人手が欲しかったことと、アルトととの仲を深めるために誘ったつもりであったのだ。
アルト
「あ、違うならいいんだ」
アルトは自分を恥じた。考えすぎだと反省した。なんか気まずい空気になる。
アルト
(思ってしまうことをすぐに口にする癖を直さないといけないな......)
ノエルが急に立ち止まり、考え込んでいるアルトに伏せるように合図をする。
ノエル
「アルト、頭下げて」
アルト
「......? ああ、わかった......?」
突然のお願いに戸惑いつつ頭を下げる。
ノエル
「ウル・ファイアー!」
ノエルは火系統の魔法を手から放つ。放たれた火炎は放射状に広がり、アルトを真上から襲おうとしたゴブリンを焼き殺した。
アルト
「あ......ありがとう」
ノエル
「どういたしまして」
えっへん! としたポーズをしている。
アルト
「ところで、強い魔法が使えるのなら、一人で依頼を受けた方がよくなかったか?」
また、思ったことを直ぐに口にするアルトである。
ふふっと笑ってノエルが答える。
ノエル
「新しい魔道書の素材にクレイゴーレムの核が必要なのよ、それでその回収が一人だけだと大変だから、お願いしたのよ」
なるほど、とアルトは納得した。しかし、そんなに核を回収するのは難しいものなのだろうか?クレイゴーレムを倒せば普通に手に入りそうなものだが......。ノエルの魔法の威力が強すぎて、破壊してしまうのだろうか? などと考えていると依頼者から声がかかる。
依頼者
「アルトさん、ノエル姉さん、着きやしたっす!」
着いた場所は平坦で広々とした場所であったが、辺りはひどく荒れていた。奥の方にクレイゴーレムが5体暴れまわっているのが確認できる。彼らは何かを索敵しているようにも見えるが......。
アルト
「行こう!」
ノエル
「うん」
アルトとノエルは走り出した。後ろから頑張ってくれー!!と依頼者が手を振る。
クレイゴーレムは体長5m程で横にでかく、埴輪のような見た目をしている。頭や肩には草や花が這えており、なんだか無害そうにも見える。
彼らは近くにある白っぽい岩を破壊してまわっていた。
ノエル
「イル・バインド!!」
ノエルが拘束の魔法を放つと、金色に光る縄が、クレイゴーレム達を大の字で縛り上げる。身動き一つとれていない。
ノエル
「アルト、私が彼らを縛り上げている間に彼らの核をくりぬいてくれる?」
アルト
「ああ、わかった」
アルトはクレイゴーレムの胸の中心部に埋め込まれている赤いガラス玉のような物を最近習得した”マジック・ソード”で丁寧にくりぬき始めた。
クレイゴーレムの核抜きは意外にも時間がかかる。赤色の核を取り除くとクレイゴーレムは体が崩れて土塊に戻った。アルトは繊細な作業は苦手であるのだ。”マジック・ソード”の出力を微調整しつつ、核に傷をつけないように、額に汗を垂らしながら慎重に作業を続けるのであった。
ノエル
「そうそう、いい感じね!」
ノエルはそれを見て、その調子と言わんばかりに褒める。
確かに、ゴーレムを拘束しつつ、この作業を一人でやるのは難しい。アルトには絶対にできない。パーティーを組みたくなる気持ちがよく分かったのだ。
アルト
「こいつで最後......。よっし、終わった!」
最後のクレイゴーレムから核を取り除き終わり、ノエルに手渡す。
ノエル
「助かったわ!」
ノエルは礼をして嬉しそうにクレイゴーレムの核を眺める。クレイゴーレムを全て討伐したことで依頼者も喜んでおり、マジで、パネ~! っと感嘆している。あとは無事にギルドへ戻り報酬を貰うだけなのだが......
ゴゴゴゴゴ......
大きい振動と何かが崩れる音がした。
振動の方を見るとクレイゴーレム達が破壊してた白っぽい岩が崩れて洞穴が顔をだしていた。洞穴は見たところ深く、内部の側面にはネバネバした蜘蛛の糸のようなものが付着していた。
依頼者はなんだなんだと興味深々になり洞穴に近づいて行く。
依頼者
「これ、新しいダンジョンじゃね? マジやべー、何か甘い匂いするし、ちょっとだけ中へ見に行かないっすか?」
ノエル
「やめておいた方がいいわ。もう日は沈み始めているし、それに、何だか危険な感じがする......」
ノエルは依頼者を止めた。ダンジョンであれば、それなりの準備をしてから踏破した方が良いからだ。
アルトも洞穴の入口付近に近づいた。異様な甘い匂いがする。
それから、急にアルトは何かを思い出したようにな顔をして青ざめた。
そして、直ぐにノエルと依頼者の腕を掴んでその場から離れる。全力で走るアルトに引っ張られながら、岩山を下る。
ノエル
「ちょっアルト! 急にどうしたの?」
ノエルの言葉を無視して、二人を連れて全速力で走る。
やがて、依頼者の息が切れて止まった。そこは、洞穴からだいぶ離れたところであった。
依頼者は不満そうにアルトに問いただした。
依頼者
「もういい加減、離してくれよ! 急になんっすか?!」
アルトは周囲を警戒して辺りを見回す。気配がないこと確認すると、ゆっくりと二人に洞穴のことを話す。
アルト
「あれはアラクネの巣だ......」
ノエルは直ぐに事態の深刻さを理解した。
ノエル
「......!!」
依頼者
「アラクネって蜘蛛のモンスターの? そんなヤバイ奴なん??」
アルト
「ヤバいなんてレベルじゃない。直ぐにギルドへ報告した方がいい。国が動いてもおかしくないレベルだ」
アラクネは蜘蛛系モンスターの頂点に君臨するようなモンスターである。一匹討伐するだけでも多くの犠牲者が出るため、上級以上の冒険者や経験を王国の中でも選ばれた騎士などが討伐するのだ。
アルト
「そして、奴が狩りを行うときの特徴として、甘い香りや美しい美貌を上手く使って洞穴の内部に誘い込むんだ。それを知らずに入った人間は生きたまま喰われると言われている」
依頼者はそれを聞いて、顔が青ざめて、身体が震えだした。
依頼者
「やべー......マジやべー......俺、死ぬとこだったわ......」
アルト
「休んでいる暇はない。急いで戻ろう」
アルトがそう言うと、二人とも頷き、すぐさま岩山を下るのであった。
――岩山の洞穴――
洞穴の中から誰かの呟き声が聞こえる。綺麗な声であり、人を惹きつけるような声帯だ。
???
「チッ......あと少しだったのに......あの小僧め......」
青年の顔を思い出して女性は舌を舐める。
それから、溜息をついて、洞穴の奥を見た。
???
「ここも、そろそろ潮時か......」
視線の先は人間の腕や頭が転がっていた。
女性は散らばった肉塊の中から服を探した。
頭だけ喰らって放置していた婦人を見つけて、その死体から服を脱がした。薄暗い洞穴の奥で首のない婦人の肉塊を平らげると、下腹部をモゾモゾとしだす。やがて、下半身はみるみると小さくなり、胴を支えるための二足の脚が誕生した。
女性は洞穴から出て、月に向かって不気味な笑みを見せる。
???
「人間共め......必ず復讐をしてやる」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
アラウネは別作品でも紹介します。良かったらそちらも読んでください!




