二次試験に向けて その2
お昼の時間も終わり、学校に戻った。
アルトは既に育成学校の単位を全て履修済みであり、あとは二次試験に合格して卒業を待つだけの状態であった。そのため、アルトは先ほど店で購入した『マジック・ソード』の書を開いて自習し始めた。
魔法の習得はそれ程難しいものではないが、正しい方法で効率よく覚えなければ、いつまでたっても習得できない。従って、育成学校ではただ講義を行うだけでなく、正しい勉強方法も同時に教えて一人で魔法を習得していけるようにしていくのだ。
高度な魔法でなければ、習得は難しくない。まずは、一通り一読して魔法全体の体系や理論の流れを掴む。その後に、各論ごとの細かい内容を覚えていく。最後に文字に書いて知識の定着化を図っていく。この一連のインプットがしっかり出来ていないと、魔法がうまく発動しなかったりするのだ。この基礎を積み上げることが重要である。
一方で高度な魔法は理論が難しく、習得するのに手間がかかるのだ。難解な用語や複雑な理論を覚えて始めて魔法を発動することが出来るのだ。
そして、高度な魔法を覚えるよりもさきに、基本的な魔法を覚えるべきであるのだ。用語や根底にある理論は魔法を習得するうえで外せない。なぜならば、魔法の中にいくつも似たような理論構造が存在しており、一度、魔法理論を理解することで、他の魔法を習得する際にそれを生かすことができるのだ。それが、魔法の効率よく短時間で身に付けることができたりする利点でもある。故に魔法の座学は基礎を固める上では外せないのだ。
アルトはある程度理論を覚えたら、次は魔法を発動するために訓練所へ向かった。訓練所には実戦を想定した魔法や武術用の木人が設置してあり、アルトはそれをいつも利用している。
木人に近づき、アルトは手と手を合わせて魔法を唱える。そこから、ゆっくりと左手を離していくと右手には半透明な剣が形作られていく。
アルト
「マジック・ソード!」
半透明な剣を魔法で作成することに成功し、アルトはそのまま木人に斬りかかった。
ズシャ!!
マジック・ソードは普通の剣と同じくらいの威力であり、十分に殺傷能力がある。しかし、練習を重ねていないため、木人の切断面を見ると粗く切れ味はあまりよくない。また、魔法の維持が思っていたよりも難しい。形作られていた剣がぼやけていたり、剣先が歪み出したりしていた。
アルト
(んー...これは、難しいな......)
通常の魔法と異なり、近接系の魔法にはクセがある。発動するにはそれなりに練習を積む必要があるようだ。アルトはその後に何度か魔法を発動させて少しずつコツを掴んでいく。
アルト
「マジック・ソード!」
剣が大きめに作られるが、剣先がゆらゆら不安定な状態だ。
アルト
(これも、違うな。なんかこう、シュッとならないかな......?)
鋭く半透明に煌めくような剣がアルトの理想である。
――数日後――
あれから毎日、学校で理論を復習しては、訓練場に来て、魔法の剣を作成していた。そして、遂に......。
アルト
「よしっ! これで完璧だ」
見ると、魔法で作成した剣は、綺麗な半透明で形作られていた。ぼやけたり、歪んだりしておらず、しっかりと安定しており鋭い剣先を保っている。
アルトは試しに木人に斬り込んだ。
ズバッ!!
木人の腕が綺麗に斬れてボトッと地面に落っこちる。アルトは木人の腕を切り落とせるくらいには成長したようだ。
アルト
(これで剣を持ち歩かなくて済みそうだな)
剣は荷物になり、手入れや補修は大変なのだ。お金もかかるし......
アルトはそれを見て満足すると、背を伸ばしてストレッチを始めた。
それから、久々に自分の覚えた魔法を一から発動し始めた。
アルト
「ファイアー!」
木人に火球が炸裂して燃え上がる。ファイアーはこれまで何回も放ってきた魔法だ。理論も完璧に頭に入っている。そのため、質が良いのか威力を最大限に出せている。
アルト
「ブリザー!」「ウィンド!」「ストーン!!」
次々と魔法を発動させていく。
アルト
「オル・ファイアー!」「オル・ウィンド!」「オル・サンダー!!」
次第に威力の高い魔法を発動する。他の生徒はアルトの魔法を気にも留めていなかったが、技や音が派手になるにつれて徐々に注目し始める。
ウル系統の魔法を発動し始めた頃には、近くにいる生徒が集まりだしていたのだ。
そして、最後に大技を出す。辺りは暗くなり、アルトを中心に空気が渦巻く。
アルト
「古き盟約に従い、我が敵を滅せよ!! ウルツァイト・ブレイク!!」
アルトの覚えた魔法の中では、最強クラスの魔法である。
大きな揺れと同時に地面が隆起して、岩の槍が出現する。岩の槍はそのまま宙に浮いて、木人を四方に囲み、一斉に木人に目がけて突き刺さったのだ。
やがて、槍が炸裂して破片が飛び散ると、周囲から拍手やヒュー! という口笛が聴こえた。
アルトは我に返って、辺りを見渡す。周囲の生徒から見つめられている。少し照れる。
アルト
「あっ......どーも、ありがとうございます!」
アルトはちょっとテンパる。こんなに注目されるなんて思っていなかった。恥ずかしいのだろう。そこへ一人、相変わらずだなという表情で近づいてくる青年がいた。
同級生A
「相変わらず、魔法だけはよく出来るよな! いっそ魔道士でも目指せばどうだ?」
アルトの同級生Aが拍手をしながら近づいてきた。
アルト
「ははは、ありがとう! お世辞でも嬉しいよ、でも魔道士は次元が違うよ、俺なんか雑魚同然さ」
自虐的な発言をするアルトに、彼もふざけて話し始める。
同級生A
「まぁな...... それにしても魔道士はいいよなー、飯も金も女にも困らない。うはうはハーレム作り放題よ!」
それを聞いたアルトも激しく同意して、ふざける。
アルト
「ああ、本当だよ、羨ましい限りだよ!! ああーいいなー、ちくしょう!!」
同級生A
「本当にな......彼女がほしいよぉぉ、俺なんて、俺なんて......」
彼は落ち込み始めて、地面にしゃがみ込みブツブツ言い始める。それから、ハッ!と思い出したようにアルトに言う。
同級生A
「ああ! そういえば、お前の魔法に見とれてて忘れていたが、試験結果の通知もう郵送されているぞ?」
続けて、少し悔しい表情をして口を開く。その声からは泣きたいのを我慢しているのが伝わる。
同級A
「俺は......試験に落ちたよ。まぁ、また来年頑張るさ......!」
今にも溢れそうな涙目で、歯を噛みしめながら、笑顔を取り繕っている。そんな悲しそうな彼を見て、アルトは思わず、もらい泣きしてしまいそうになった。彼もアルトに負けないくらい努力をしていたのだ。それをアルトは間近で見ていたからだ。彼と共に勉強をして、夢などを語り合っていたのだ。
アルトは悲しい表情で彼を見ていると、彼はしんみりした空気を出したくなかったのか、アルトに優しく別れを告げた。
同級生A
「俺、もう行くよ......! ありがとうな! お前の魔法見てたら元気が出たんだ!」
彼は背を向けて、後ろから手を振る。
同級生A
「じゃあな!!」
アルトは黙って彼を見送っていた。なんて声をかければいいのかわからないでいた。それと、アルト自身も試験に落ちているのではないかと不安な気持ちでいたのだ。
夕暮れ時に、誰もいなくなった訓練場に砂ぼこりが舞うのであった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
これからも、頑張ります。




