エリートの思い出
―擬似ダンジョン試験監督本部―
午後3時。フリードリヒは空を見上げていた。今日は天気が良く、空が澄んでいる。風も穏やかで気持ちが良い。フリードリヒは遠い過去を思い出し、充実していた日々をなつか懐しむ。
それは、失踪した昔馴染み。いまだに彼が殉職したと信じられなかった。
―6年前―
城下街フリーマーケット
フリードリヒ
「クソッ...ここにもない!!」
フリードリヒは、お偉方の娘が身に付けていた宝石を探していた。娘は民がどのような生活をしているか知りたい!など抜かし、フリードリヒらを連れて買い物をしていた。その時に混雑をうまく利用されて、スリにあったのだ。フリードリヒは娘から目を離さないようにしていたが、ちょこまかうごきまと動く娘についていくのが精一杯だった。娘がさらわれなかっただけでも、上出来だ。娘の不注意で盗まれたのだが、我々の責任でもあると考えるのがフリードリヒだ。それを知ってか、普段から娘は顎でフリードリヒをこき使い回していた。
当時のフリードリヒも、エリート道を突き進もうと、何でも言うことの聞く国家の犬であった。上司の命令は絶対。忠実かつ迅速に業務を行うことから、お偉方のお気に入りだった。
フリードリヒ
「見つけた!! あの店か!!」
フリーマーケットを抜けて、スラム街の闇市のような場所まで来ていた。フリードリヒは鋭い眼で、ちょっと怪しい中古品店を捉えた。珍しそうな宝石が展示してある。
フリードリヒ
「これは、どこで手にいれた?!」
店主
「さっき、男から、購入したんだよ、いやーこんな高級品滅多に手に入らんからな!」
店主は自慢げに、はっはっはっ!!と笑う。どうやら、今日の目玉商品のようだ。その反応を見て、フリードリヒは溜息交じりに言う。
フリードリヒ
「それは、盗品だ。ある娘の大事なものだ。返してもらえないだろうか?」
店主は一瞬、固まった。しかし、次第に表情が変わる。盗品だとわかって購入したのだろう。フリードリヒに向かって怒鳴るように言う。
店主
「何バカなことを言っている!! これは、俺が金を払って、男から購入したものだ!! 返して欲しいのなら、お前が買い取れ!!」
フリードリヒは黙り考え込む。すでに、盗人は行方をくらましている。普通ならば王国市民令193条を主張すれば、宝石をこちらに返還するよう主張できる。
しかし、厄介なことにここはスラムの闇市。王国の勅令など守りやしない。最悪、王族貴族の特令で無理やり取り返すこともできなくもないが...しかし、あとで何をされるかわからない。お偉方の娘の身に危険が迫るのは避けるべきである。穏便に済ませようと口を開いた。
フリードリヒ
「わかった...。購入しよう。いくらだ?」
店主は斜め上を見ながら髭をさする。ニヤつきながらこう告げる。
店主
「そうだな...。100金貨だ!」
足元を見られたか、ぼったくる気だ。フリードリヒは反論する。
フリードリヒ
「...ッ?! ふざけるな!! 誰が払うか!! 相場をかなりこえている! 高くても、25金貨だ!」
店主はこれ見よがしに、いやいやと首を振る。
店主
「いやいや、絶対に100金貨だ。どうしても、負けてほしいってんなら土下座して靴を舐めてみろ!! そしたら90金貨に負けてやるよ!! ははははは!」
フリードリヒは拳に力が入る。ぶん殴ってやろうか...。
そんな時、1人の青年が現れた。そして、しれっと口を開く。
青年
「おっさん、これパチもんだぞ!」
突然の言いがかりに店主は驚く。フリードリヒはポカンとしている。そして、案の定、店主はキレる。
店主
「はあ?! 何だてめぇ?! 何言いがかりつけてんだ?! ああ?!」
店主の放った怒声を無視して、青年は続けて大きな声で叫ぶ。
青年
「ガーネットに良く似た見た目だが、こりゃインカローズとガラス材を混ぜたものだよ!」
宝石を素早く手に取り、空に掲げる。おっさんが、反論する前に続けて言い放つ。
青年
「おっさん、誰から買った? さっき怪しそうな男が走り去ってたけど、まさかそいつから?あちゃー! ついてないね...あいつはここらでよく見かける詐欺師さ! スラムの中でも最も質の悪い奴と出くわしたな!」
あちゃー! と、おでこを手で押さえている。いちいち、オーバーなリアクションだ。青年は笑いながら言う。
青年
「そこのメガネも、騙されないで良かったな! 俺はそんなのに5金貨も払わねーよ!! せいぜい、1金貨よ!! あはははははは!!!」
周囲に人が集まり始めた。店主に注目が集まる。店主は慌てて、フリードリヒに交渉する。
店主
「2金貨だ! これ以上は負けん!!」
フリードリヒはわかったと頷いて、財布から50銀貨を4枚取り出した。店主の手へ渡った瞬間に、青年が横から50銀貨を2枚、抜き取った。
店主
「何しやがんでい!!」
店主は青年を睨みつける。
青年
「いいじゃないか! パチもんが高値で売れたんだから! 本来なら1金貨よ? 50銀貨儲かったじゃない!!」
それからさも当然のように言い放つ。
青年
「そして、この50銀貨は俺への報酬さ! こんな目立つように展示してりゃ、目をつぶっても、質の悪いパチだってわかる!!」
青年はお前を救ってやったんだと言わんばかりに、舞台俳優のように立ち振る舞った。
店主
「わかった...! もういい! 商売の邪魔だ! 失せな!!」
青年
「はいはい、毎度ありー!!」
青年はスタスタ去って行く。フリードリヒもその場から離れると、周りにいた野次馬達も散っていく。それから数十分後、フリードリヒは闇市の外れにいた。先程の青年も外れに来ていた。
フリードリヒはその青年をよく知っていた。自分と同じ同期である。そして、任用試験ではフリードリヒと双璧をして、名を連ねる人物だったからだ。
青年
「どうだ?! すげーだろ?」
フリードリヒは呆れ気味に言う。
フリードリヒ
「相変わらずだな、ファイナー...。それと、これは本物のガーネットだ。」
青年は、へへん! 鼻に手をあて自慢げに言う。
ファイナー
「あいつが、ぼったくろうとしたのが悪い!」
そう言うと、2人は笑いながら、娘のところへ戻るのだった。その後に、彼らは数々の事件を解決する。突如ダンジョンに現れたスケルトン・ナイトの討伐。森で女性をさらい食らう蛇女。豪華な屋敷の大型ネズミの駆除。一日で村人を平らげる大男。
数え切れないほどの事件を解決し、のちに王国に名が残るほどの働きをした。
しかし、それはまた別のお話。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の話はフリードリヒの回想です。ダンジョン3層の続きは、明日か明後日頃に投稿する予定です。




