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王国には参謀が必要です!  作者: G-20
第1章 参謀試験
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【第10話】 参謀と擬似ダンジョン3層

 暗闇の中へ吸い込まれたと思うと、次には真っ白な光に包まれる。


 「……ッ?!」


 一瞬だけ激しい頭痛を感じる。

 しかし、痛みとともに徐々に視界も回復していく。


 3層に着いたのか……?


 どうやら、倒れて寝込んでしまっていたようだ。


 アルトは立ち上がると周囲を見渡した。

 どうやら、3層は屋敷の中のようで、屋敷を飾る一つ一つが値の張りそうな物ばかりであった。

 濃紅に染まるカーペットは廊下一面に敷かれて、いかにも権力者の屋敷であることがわかる。

 天井も非常に高く設計されており、王国でもここまでスケールは見たことがない。頑張れば馬車も通るだろう。所々に絵画が飾ってあるが、どれも高そうだ。

 窓からは光が差し込んでおり、日当たりは良好である。外は綺麗な庭園風景が広がり、室内にも関わらず少しだけバラの香りがする。


 そういえば、1層から他の受験者と一度も会っていない。


 ふと後ろ向いて確認をすると、扉は固く閉ざされていた。

 今更ではあるが、一人一人に擬似ダンジョンが用意されているのだろう。


 今は他の受験者を気にしている暇はない……


 アルトは右手にある扉を開けようとドアノブを触れた。


 ん……? 何か視線を感じる……


 アルトが振り返った先には、ここの屋敷の使用人なのか執事服を着用した人影が見える。

 擬似空間とはいえ、勝手に上がり込んで部屋を開けようとしていたのだ。アルトは申し訳ない気持ちになり、その場で謝罪しようかと人影に向いた。

 動作の一つ一つに無駄がなく、キビキビと動いている。それに爪先から襟まで身なりのいい服を着ている。


 あれ……? 何か肌白すぎないか??


 アルトは目を凝らしてよく見てみると、たしかに肌が白い。

 ……というか肉がついていない。骨だ。


 マジか?! スケルトンかいっ!!


 アルトは慌てて臨戦態勢をとる。

 しかし、スケルトンの方はアルトには目もくれずに、忙しそうに何かを探すように去ってしまった。


 何だったんだ……?


 確かに先ほど目が合った。普通なら襲いかかってくるのだが、それどころではないような様子で行ってしまったのだ。

 まぁ、戦闘にならずに済んだのはいいことだ。

 あの恰好、雰囲気といい、一筋縄ではいかない敵だろう。


 スケルトン・バトラーといったところかな。アイツには注意しよう。


 バトラーが何を探していたか気になるところではあるが、追って戦闘になると考えると、たまったものではない。

 それに、この扉も気になる。


 アルトがそっと、扉を押すと静かに開く。

 部屋が北側であるのか室内は薄暗く、辛うじて窓から差し込む光で物が見える程度であった。

 使われていない部屋なのか、何年も部屋に誰かが入った形跡はなく、屋敷のスケールと比較すると殺風景な部屋だ。


 ん? なんだあれ……? 宝箱……??


 部屋の真ん中には、高価な貴金属で装飾された宝箱がある。


 カタッ……


 物音がする。また、スケルトンなのだろうか。

 アルトが物音のした方へ確認すると、スケルトン・サーヴァントが机を拭いていた。

 机の染みが気になるのか、一生懸命に汚れを落とそうとする様は人間味に溢れていた。


 こいつはそこまで強いモンスターじゃない。早く始末して点数を稼ごう。


 背を向けている今なら、確実に仕留められる……


 しかし、アルトはどうして戦う気になれない。

 なんというか、無抵抗すぎる。

 いつもなら、アイツらから先に襲いかかってくるのだが、ここの階層はアルトに見向きもしないどころか、与えられた職務に全うしているようにさえ感じる。

 いくら、モンスターといえど、無抵抗の者に攻撃を仕掛けることはしたくない。

 こちらから仕掛けたら、それこそこっちがモンスターだ。

 どうせなら、1層のスケルトン・ナイトの様に問答無用で斬りかかって来てもらった方がいいように感じてしまう。


 そういえば、この屋敷の主ってまさかスケルトン・ロードとかか?


 もし、3層ボスがロードだとしたら、本当に笑えない冗談だ。

 全てのスケルトンを束ねる王。そして、それを護衛する数体のナイトと考えるだけで、明らかにⅡ種の試験を凌駕している難易度だ。

 それは、ない。ありえない。考えたくない。とアルトは呟きながら、うなだれた。


 うなだれているアルトに、何を思ったのかスケルトン・サーヴァントが近づく。


 なんだ、こいつ……?


 コミュニケーションを図ろうとしているのかジェスチャーをしている。こちらに向かって、サーヴァントは手で何かを拭くようなジェスチャーをしている。


 「えっと……掃除を手伝えということ?」


 アルトが口を開くと、サーヴァントは口をカタカタと鳴らした。


 「カッカカカッカカ!!」


 不思議と笑っているように聞こえる。


 やはり、掃除を手伝えということなのか。


 アルトはモンスターと意思があることに関心を示した。


 ブフッ……!?


 アルトは突然の出来事に一瞬フリーズした。

 サーヴァントが投げた雑巾がアルトの顔面に直撃したのだ。


 前言撤回、なんて奴だ……こいつは始末しよう。


 「カッカッカ!!」


 今、こいつに笑われて様な気がする……


 スケルトン・サーヴァントは手をあげて、猿のような動きをして煽ってきた。


 あの、野郎、ふざけんな!


 サーヴァントはカタカタと笑うように腹を抱えて、アルトを小馬鹿にするような態度で手を振っている。


 「オル・ファイアー!!」


 サーヴァントへ火球が放たれる。

 サーヴァントは身動き一つしないで、放たれた炎をただ見つめている。

 まともに当たれば、ただでは済まない。


 抵抗しないのか……?


 火球がサーヴァントに着弾すると激しい爆発音が轟き、黒い煙が充満して辺りを覆う。


 奴の行動に異常はみられるけど、能力は他のモンスターと違いはないみたいだ。


 アルトが煙が晴れていくのを確認していると、煙の中から風を切って平然と立っているサーヴァントの姿が映った。

 サーヴァントは残り火を手の甲で軽く払うと、ジャケット内に仕込ませた投擲用ナイフを取る。


 「サンダー!」


 武器を所持しているように見えなかった。

 間一髪のところで一線の閃光がサーヴァントの腕に直撃すると、その反動で数本ナイフが落ちる。


 両者はそのままにらみ合いが始まり、一歩でも動けば攻撃態勢に入る状態である。


 アイツも普通のモンスターではない異常性が見られる……

 このダンジョンでは、ああいう奴が特に多い。


 確実に動きを封じて始末するに越したことはない。そうであれば、捕縛魔法から攻撃魔法へつなげるのが常套手段ではある。

 アルトが色々と策を練っていると、突然サーヴァントは何かを思い出したかのように我に返る。

 背を向けて扉へ走り出すサーヴァントに、アルトは急いで魔法を放った。


 「動くなっ!」


 縄状になった光が対象を捉えようと捕捉するが、サーヴァントはそれを華麗に躱す。

 この距離から魔法でさらに追撃するには無理がある。


 また、取り逃がしてしまった……


 アルトは追撃を断念すると、部屋には静寂が戻っていた。


 この階層の攻略のヒントが欲しい。もう、まぐれで進むのには限界があるだろう。


 アルトは部屋にある物を調査して、屋敷の情報を入手して有利に動こうと判断した。

 そして、部屋であからさまに目立っている宝箱に注目をした。

 

 箱の中には大量の人形と一枚の紙片が入っていた。人形は針金で作られたスケルトン人形である。どうやら一本の針金から形作られたようだ。

 紙片の方はモンスターを倒すと出てくるものと同じ素材のようで、巻物(スクロール)や護符の様に強い魔力や呪力を帯びているわけではないようだ。

 違う点といえば、その紙片には点数などが書いておらず、代わりに王冠の絵が描かれていることと、裏面には”はズレ”と書かれていた。


 他に目ぼしいものがないか、中身を取り出していくが、特に目ぼしいものはなかった。


 それから、部屋を漁ってみたはいいが、これといった収穫は得られなかった。 

 手元にはよくわからない紙片と針金人形、何かの役に立つかもしれないと思い回収した投擲用ナイフだ。

 アルトはそれらのガラクタをポーチにしまって部屋をあとにした。


 しかし、ここの層も1層と同じように一本道が続いているようだ。ほとんど一本道に近い。たまに左右に分かれていることもあるが、どちらか一方は行き止まりであることがわかるのも助かっている。

 それと、この屋敷の部屋は、ほとんど立ち入ることはできないようだ。

 擬似ダンジョンのスペック的な問題か試験的な設定のためかはわからないが、それのおかげで探索をスムーズに進めることが出来るのはありがたかった。


 アイツは!!


 アルトが探索をしていたところ、スケルトン・サーヴァントが横を通る。

 臨戦態勢をとるアルトだったが、近くで見ると先ほどの個体が身に着けていた物と違う。

 アルトは緊張を解く。その様子を見たサーヴァントも黙って一礼をした。


 なぜか、ここのモンスターからは敵意を感じられない。

 友好的とも言えないが……今のところ好戦的なモンスターはいないようだ。


 とは言え、これでは紙片集めが出来ずに点を稼ぐことが出来ない。


 どうすればいいか……

 何というか、一方的に彼らを討伐するのも何だか良心が痛むし、かと言って次の層でも紙片を集めることが出来なければ試験は不合格になってしまう。


 アルトの葛藤が勢いをます。


 そもそも、奴らはモンスターだ。ならば王国の為に倒すのが正しいことだ。奴らの実態がわからない異常放置するのは危険だ。よし、倒そう。

 いや、待て、本当に倒すべきか?

 王国の為と、考えることを放棄していないだろうか?

 本当に王国の為というならば、彼らを利用する手はないだろうか?

 例えば、彼らは屋敷を管理できる知能を備えている。見た目はあれだが、身なりも品格もある。いっそ彼らに宮殿等の管理を任せてみてはどうだろうか?

 そうだ、だから、彼らに手を出すことは王国の利益を損ねる行為だ。

 いや、待て待て、これは試験だ。奴らは同情を誘っているに違いない。感情移入する前に排除すべきだ。

 

 アルトが頭を抱えて独り言をつぶやいていると、サーヴァントは突然、身体をこわばらせて委縮した。


 徐々に足音が近づいてくる。


 足音の正体は、巨大なネズミであった。

 恐らくジャイアント・マウスで間違いない。その真ん丸と太った巨体、人間の頭に位の大きさに相当する前歯、ナイフの様に鋭く尖った爪を備えている。


 ジャイアント・マウスはサーヴァントを見るや否や、いきなり殴り飛ばす。

 大きく仰け反るサーヴァントに続けて、蹴り倒して踏みつけている。


 一連の出来事にモンスターの小競り合いかと思われたが、サーヴァントは抵抗をせずに、その場にうずくまるように身をかがめていた。

 ジャイアント・マウスの執拗な暴力に、やがて骨が砕けて、サーヴァントは命乞いをする。

 アルトが立ち往生をしているとサーヴァントと目が合った。その様子はまるで、手をさし伸ばして、助けを求めているように見える。

 アルトがそれに気がついて、助けに入ろうとした時にはサーヴァントはバラバラになり、崩れてしまっていた。

 ジャイアントラットは最後にサーヴァントの頭を踏み砕くと下卑た笑みを浮かべ、新しい玩具を見るかのようにこちらを見た。

 爪を研ぎたてて、のそのそと迫ってくる。


 ジャイアント・ラット如きにやられはしないけど、こいつも特殊個体なのか?


 アルトの前に傲慢に立ちはばかる姿は通常の個体とはいえなかった。体型に似合わない高貴な服を着用している。

 さらに言うと、ジャイアント・ラット程度の戦闘力ならばサーヴァントでも張り合うことは出来たはずだ。


 相手の戦力がわからない以上、戦闘は避けたいが……


 しかし、あんなに無抵抗なサーヴァントに対して、執拗に暴力を振るう必要があるだろうか。己の欲望の為に力を振るうことが許されるだろうか。

 アルトに怒りがこみ上げる。


 俺は……そんな理不尽な世界を変えたい!

 力のない人たちを守る為に参謀になると決めたんだ!


 アルトは力を込めて魔法を放った。


「オル・ファイアー!!」


 火球がジャイアント・ラットの顔面に直撃すると爆発し炎が身体に燃え広がる。


「キィィィイイイイ!!」


 炎が全身を覆うと、ジャイアント・マウスは地面に、のたうち回り喚き散らす。


 アルトがとどめを刺しに、近づくと力量さに気がついたのか、慌ててその場を離れようと逃走を試みる。

 しかし、皮膚が床に引っ付いている。無理に剝がそうとしたためか、皮膚が爛れて血がにじみ出ている。


「キイイイイイイ!!! キイイイイイイイイ!!」


 ジャイアント・マウスはアルトに向かって威嚇をする。

 それは怒りのような憎しみのような叫びに近い金切声であった。

 ジャイアント・マウスからは明らかな殺意と報復を感じるような表情が伺える。


 仲間を呼ばれてしまったかもしれない。


 アルトは黙って、ジャイアント・マウスの眉間に狙いを定めて魔法放った。


 アルトの放った雷によって一瞬で眉間を貫かれて絶命した。


 こんな奴がまだたくさんいるのか……


 推測になるが、ここの屋敷はジャイアント・ラットに支配をされているのだろう。

 そして、何故かスケルトン達はジャイアント・ラットに従属している。それも玩具の様に己の欲望の為にこき使われているのだ。


 バラバラになったサーヴァントはすでに霧状に消え失せていた。


 アルトは一括りにモンスターを討伐対象であると認識していた。

 モンスター同士の上下関係や、小競合いなど人間には無関係だという考えであった。

 しかし、この層に来て友好的なモンスターも存在するのではないだろうかと、認識を改めたのだ。

 そして、人間、モンスター問わずに弱者を一方的に、なぶり殺すのは許すことができない。


 自分も2層で都合よくモンスターを利用しただろうと言われれば、反論はできないが、けれども、命乞いをしているのに、己の欲望の為になぶり殺したりするのは間違っている。


 そこの一線だけは越えたくない。


 アルトは拳を握りしめて、決意を固めた。


 必ず、親玉を探しだして討伐する。


 最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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