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王国には参謀が必要です!  作者: G-20
第1章 参謀試験
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プロローグ

 ここ、ブルン・ザーツベルでは美しい湖畔で名所と知られる村である。


 山の麓には民家や商店が建ち並び、

 商業地区としても活気のあることで王国を支えてきたのだ。


 村のシンボルでもある透き通るほど美しい湖と、

 食料品の保存に効く塩の産地として賑わっていた。


 しかし、今や見る影もない。


 激しい戦闘があったのか、辺り一面に火が回り、民家が燃え上がっている。

 所々から助けを求める声、死を目の当たりにした悲鳴が街に響く。


 観光のメインスポットであった湖は血で赤く染まり、住民の亡骸が見える。

 浮かび上がった遺体の多くは損傷が激しく、原型をとどめていない様子だ。


 どこからか爆発音が鳴り響く。

 音の方向は中央の広場のようだ。


 今しがた二つの影がぶつかり合う。

 どうやら、ここで戦闘が繰り広げられているようだ。


 一人は少女を抱えて庇うように戦っている。

 服装は黒く、王国の制服を着用している。


 金色の徽章が見える。

 あの形状からすると恐らく参謀だろう。


 戦闘中の為か、息が切れており表情も険しく余裕がないことが見て取れる。

 普段であれば、温厚で穏やかな壮年者として部下からの士気も高いだろう。


 その部下たちの姿は見えない。

 参謀は、たった一人で少女を守っている。


 参謀と言えば、本来は戦略に長けるのみで、

 戦闘に関しては身を守る程度の者と思われがちだ。


 しかし、この王国では知力も戦闘力も並々ならぬエリートである。

 その戦闘力は、訓練された兵士100人に相当すると言われている。


 現在、その王国のエリートですら苦戦を強いられている。


 身体中に傷が多々見られ、額からは血が滴れている。

 限界が近いのか膝をつき、ふらついているのがわかる。


 放っておけば、今にも倒れてしまうだろう。


 なぜ、彼ほどの人間がここまでの傷を負っているのか?

 なぜ、逃げずに戦っているのだろうか?


 答えは、彼の目の先に映る男が原因だろう。


 男は参謀を見つめて笑みをこぼしていた。


 男の身長は成人男性よりやや高めであり、

 顔も非常に整っている。


 このような惨状を起こした男であるが、

 どこか人を惹きつける魅力を備えているように見える。


 人を魅了するにはいくつかの要素が必要だ。

 例えば、顔だ。


 聞いた話では、整った顔の者の方が便宜を受けることが多いとされている。

 同じことをしてもらうにも、何かとイケメンや美女の方がいいだろう。


 声も同じだ。


 透き通るような甘い声で愛を語られるのと、

 クソクイバッタの囀り声にも似た声で語れるのでは天と地ほどの差だ。


 話はずれてしまったが、

 あの男には、そこに存在するだけで魅了してしまう何かを持ち合わせている。


 参謀は、その男に魅了されつつあった。

 必死に唇を噛み、我に戻る。


「はぁはぁ……何故だ、なぜお前が……?!」


 参謀は時間を稼ぎたい様子だ。

 男に問いかける。


「王国に刃向かっては、只ではすまないぞ!!」


「……」


 男は黙って手を構えて、

 参謀へ向けて魔法を放つ。


 放たれた魔法は参謀の眉間に向かって命中するかに見えた。


 しかし、間一髪のところで参謀は残りある僅かな力を振り絞って攻撃を避ける。


 放たれた魔法はそのまま参謀の肩をかすめて、そのまま建物へあたった。

 金属がすれる嫌な音が鳴ると同時に巨大な火柱が立ち上がった。


 直撃したら、確実に死んでいた……。


 熱風がここまで伝わる。あんな魔法を食らったら、二人とも塵も残らなかっただろう。

 圧倒的な戦闘力を見せつけられ、手も足も出ない状況に参謀は死を覚悟する。

 

 自分たちは、もう助からない。

 時間を稼いだところで救援は来ない。


 頭では理解できても、抵抗せずに死ぬことは出来ない。

 最後まで王国の為に悪と戦う。


 それに、彼に魅了されないのも、少女に絶望してほしくなかったからだ。


 参謀は自身の持つ全ての力を振り絞り、魔法を解き放つ。


「うおおおおお!! アル・ブリザードォォオオオ!!」


 魔法を放つと、熱を帯びていた大気は瞬時に凍く。

 火の手が上がっていたが、一面が白銀の世界へと広がった。


 魔法は中央広場から湖まで凍りつき、

 その白い冷気が触れるものは、あらゆる物質を停止させて凍結させる。


 参謀は自身と少女にあらかじめ冷気への魔法耐性を付与していたが、それでも息が白くなる。


「はぁはぁ……」


 呼吸をすると肺が恐ろしいほど痛い。


 白い冷気によって視界が悪くなり、男の姿が確認できない。

 倒すことは出来ないにしても、ほんの少しだけ時間を稼ぐことが出来たのではないだろうか。


 死にたくない。

 生きたい。


 参謀は本能的に死を実感していたが、生きることだけを考えていた。

 死ぬのは確実だが、一秒でも一分でも長く、少しでも長く生きたいのだ。

 

 死ぬのが怖くてたまらない。


 心の底から死に対する恐怖によって身体は震えていた。


 視界から白い霧が徐々に消えていく。


 くそ……化け物め……


 黒い男の影が見える。

 あれほどの魔法を受けても表情をひとつ変えていない。


 男はゆっくりと参謀の前へ歩み寄る。


 王国の中でも最上位に位置する魔法を受けても外傷が見られない。

 本当に何者なのだろうか。


 男は参謀の前で魔法を詠唱する。

 手からは禍々しい魔法陣が展開されていく。


 絶対なる死に対する恐怖を押し殺し、参謀は少女に向かって優しく笑みを浮かべた。


「大丈夫だ怖くない、私がそばにいる」


 少女はその言葉を聞くと、震えながらも、ゆっくりと目を瞑り、ありがとうと言った。


 参謀は瞳から涙をこぼして少女を抱きしめて、少女を庇うように男に背を向けた。


 男から展開された魔法陣は人間に対する憎悪を表すかの如く、辺りに闇が漂い生者を囲い込む。

 

 男は参謀に向かって何かを呟くと、魔法を放った。


「ダーク・アビス……」


 魔法が放たれると大地は大きく震え、恐怖を覚えるようだ。

 地面はやがて、漆黒に染まり出すと怒りや憎しみなどを具現化したかのような漆黒に染まった巨大な手腕が現れる。


 漆黒に参謀と少女を包まれて、そのまま消えてゆく。

 しかし、見えなくともどうなったか理解はできる。


 肉が抉られ、骨が砕かれる音がすれば、耳を閉じたくもなろう。

 

 静けさが戻り、二人がいた場所に残るには、真っ赤に染まった肉片が所々無残にも散らばっていた。

 原型が辛うじて残っていると部位には、異なる者同士の肉片が、ねじり合わさるように一つの大きなオブジェクトとなっている。

 一見して、それを人だとは想像できないだろう。


 男は、その肉塊に向かって笑いかけた。


「楽しみだ……」


 男は目的を果たしたのか、ゆっくりと背を向けて歩き始めた。


 後に、参謀と少女の遺体が最も酷い姿で発見された。

 この、村に生存者は一人もおらず、どの遺体も損傷が激しく、凄惨な事件として語り継がれることとなった。


 そして、これの事件を契機に後の王国を大きく動かすことになるとは知る由もなかった。

 プロローグをつくりました!

 よろしくお願いします。

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