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〜 混沌への前奏曲 〜 第九話

 ◆GATE9 決断する者、迷う者


 金属剥き出しの壁が通路を造っている中、シオンは頭を巡らせていた。通路の幅は割りの広く時折、窓と思われる透明な壁から外の景色を覗かせていた。

 

 壁は緩やかにシオンの進行方向に丸みを描きカーブになっている。NOAと言うモノの中央部なのか分からなかったが途中、縦横四方へと繋がる通路が無数に奔っている。

 部屋を出る前に、HSSMとか言う、大きなリーシャの言葉が無性に気になる。



 レクリェーションルームの前まで来ると扉は、キュィンと静かな音を僅かに立て左右の壁の中へと吸い込まれ通路への道を開く。


「おわっ! 触ってもないのに扉が開いた……」

「すぅごーい! なに今の? ねぇねぇねぇねぇてだぁシオン。 魔法使ってよね?」

 シオンと小さなリーシャは驚きの声を上げた。


「個人の身体の情報と体内に埋め込まれたMICを読み取りNOAの艦内外の扉は開きます。一般認識コードの部屋です。このルームの認識と体内のMIC認識コードが一致すれば自動的に扉は開きます。無論一般認識コードでは開かない扉もありますが、非検体四零零五、SION。貴方なら艦内九十パーセントの扉が開くでしょう」

 大きなリーシャは言葉を紡いだ。

「記憶は何時か戻ります。お急ぎであれば直にでも処置を施し戻す事も出来ますが、悩まれているのなら艦内を回り、御自分の過ごされたNOA艦内を御覧になってみてはいかがでしょうか? 自然に戻って来る記憶もあるかも知れません」


「俺が……過ごした所? この金属の塊の船の中でか?」

 

「ええ、そうです。NOA艦内に貴方のプライベートルームが存在し貴方と一握りの非験体は、NOA内で寝食を共にしNOAプロジェクトの重要媒介者ミディショナリーとして管理されていました」


「媒介者? 魔法……か、何かか? “鬼神”プロジェクトってなんなんだ!」

 

「貴方は現時点に置いて記憶の回復を拒否しています。記憶に関わる情報を聞けば思い出し、その事で戸惑い、もしかすると落胆、失望するかも知れませんが……」

 大きなリーシャは顔色一つ変える事無くシオンの問いに答えていく。


 シオンが記憶に関する事を思い出す事を戸惑ってしまうのは今の現状の生活。ギルドの仲間達との命を共に預け、困難なんな依頼をこなして行く達成感と依頼達成後に待っている依頼主の笑顔を見る事が嬉しかった。

 仲間達と分け合え共有出来る喜びの数々。

 そして……何よりアイナの事が気に掛かると言う事実。


「つ、続けてくれ」

 シオンは一度部屋を退室しようとしたがソファに戻り呟いた。

 

 大きなリーシャは静かに口を開いた。


「正確に申し上げますと我らの時間軸でもNOAに関する情報は少ないのです。現行NOA(KISIN及び、DORAGON専用運用高速戦闘艦)が何で出来ていて何処の時間軸で何時から存在しているのか分かっていません。現状のNOAに改装される前は言わば大きな船の形をした資料、博物館と呼ぶべきでしょうか。NOAは膨大な情報を積んだ保管庫でもあった様です。その中には我らの世界では空想の生物でしかなかった生命体等も保管されていたそうです」

 

「保管庫? 資料室? NOA、KISINって媒介者(ミディショナリー)って非研体って……なんなんだよ? 俺は一体何者なんだ!」


「非研体四零零五、SION。貴方は件に残された碑文により世界の崩壊を回避する為、人の手により創られた人間です。ただ襲来する敵を討つ為に戦闘戦術に特化させた人間であり、その中からKISINの媒介者になる為、更に選び抜かれた人工生命。キリングチルドレン=レクイエムの一人です。そして、後に貴方達が媒介者となり敵を討つ為に開発された鬼神。貴方の肩口に乗っている者のが、我らの時間軸でNOAに保管されていた人型サンプルから科学を集結し創り出したKISIN本体そのものです」


「リーシャが…鬼神? どう言う事なんだ! リーシャ! お前は知っていたのか?」 


 シオンの耳たぶを掴み無邪気に見える小さなリーシャは、気まずそうに視線を逸らせた。

「ごめんね……シオン。貴方がこの時間軸にNOAと共に堕ちて来た時から……」


「リーシャはこれに乗ってなかったのか? 話の筋だとそうだろ? NOAとか言うこの船とやらに! これはお前を運ぶ為の運用艦なんだろ?」


「そう……だぉ。私とシオンはNOAと共に打ち出された異時空航行中のトラブルでそれぞれ散り散りに違う時間軸に散らばったの。私はたぶん、シオンより遠い時間軸に飛ばされたのね? 目覚めた時からNOAが、この時間軸に堕ちるまで……シオンとあの時出会うまで私にも自分の存在とその意義と使命を忘れていたんだもの……」

 小さなリーシャは手の平に落ちた雪の結晶が消える時の様に儚い声で寂しそうに呟いた。


 シオンは、ただ呆けた顔をしていた。

 降って湧いた様な理解出来る筈のない話の数々に呆然とするしかなかった。


「これ以上、話す事は記憶を失っている貴方にとっては酷な事でしょう」


「まだ……あるのか?」


「ええ、山ほど」


「俺の回りには人達がいたのか?」


「はい」


「そうか……その中に俺が大切に思っていた者達はいたのか?」


「はい。この先の事もお耳に入れておきますか?」


 シオンはソファから、ふらりと立ち上がり扉の外に向い歩き出す。


「シオン」

 小さなリーシャが小さな声で寂しそうに呟き、退出していくシオンを見送った。



 その頃、ギルドの酒場は開店前にも関わらず列を成していた。


 男女それぞれの娯楽と欲求、目的の実現の扉が開く時を今か今かと待っている。

 扉が開かれるとテーブルは直ぐに満席となりその為、いつも己の技を磨き上げる修練場は臨時の野外ホールと化していた。


 所々に設けられた暖を取るための松明が用意され、その修練場を人が埋めるのに然程時間は掛からなかった。

 寒空の中だというのに松明と熱気で冷たい空気は熱せられていく。


 開店して暫らくするとミルとアイスマンが姿を現し店内を物色する様に辺りを見渡している、二人の誰かを探している様子の二人の姿にセインが気付き顔を伏せた。


 ミルとアイスマンがセインの姿を見付け近寄り声を掛けた。

「セイン! ちょっといいかしら?」


 何だか嫌な予感がセインの脳裏に走る、セインは先程まで傍らにいたガーディアンに肘を当て合図を送るが肘は空を切るばかりだ。

 逸早く二人に気付き、その場から姿を消していた。


「何か用かなぁ? 聖誕祭は酒場の人手が足りないから大変なんだよ?」

 セインは普段通りの顔に整えるとミルの方に振り返った。


「そうね。大変そうね」

 ミルが微笑んだ。


 セインの悪い予感が更に増してゆく。


「お願いがあるの。ログの依頼の件なんだけど……」


「お断りします」

 セインは笑顔で答える。


「まだ何も言ってないじゃない」


「言わなくても何となく分かる。ミルの言おうとする事はさ」

 依頼で面倒な事や時間が掛かりそうな事をミルは、よく他のガーディアンに押し付ける。


「なら、話が早いわねぇ」


「だから断るって言ってるでしょ。見ての通り忙しいんだよ!」


「お願いー! 助けてぇ」

 潤んだ瞳でミルが顔を覗き込んでくる。


「そんな顔をしても駄目だ。騙されねぇよ」

 セインの言う事等、気にも留めずにミルは甘える様に言葉を続けた。


「実はぁー、依頼場所でねぇー」

 甘えた歯がゆい声でミルはログでの事を話した。


「かわいい声出しても無理!」


「ちっ! ケチねぇ。術式魔法あんた得意でしょ!」

 ミルが舌を討ち鳴らし今までとは明らかに違う不貞腐れた態度でセインを睨みつける。


「自分も出来るだろ? 俺より得意じゃない?」


「やぁーよ! 面倒臭いもの。それに折角の聖誕祭なのに」


「まあ、まあ、そう言わない」

 近くで他のガーディアンの声がする。

「ミルも本音で言っている訳ではない。セインの術式解除の腕を信頼だろう?」


「お、俺達も俺達なりにギルドの事を思い聖誕祭の忙しい日に酒場で頑張ってるんだぜぇ」

 セインが小さな声でささやかな反撃を試みる。


「あんた達は何を頑張っているんだかねぇ」

 ミルが目を細めた。


「依頼を請けたのはミルだろ? 最後までやれよ。何時も面倒な事押し付けやがって」

 セインが巻くしたてるとミルは瞳を潤ませ声を張り上げる。


「だから、助けてて言ってるじゃないの。それなのに今回の術式は複層複合術式で、とても珍しいの…あなた達の勉強になると思って…私は言ったのに……あなた達を見込んで言ったのに…そんな言い方酷い」

 そう言い残すとミルがギルドの二階に駆け上がって行った。


 ちょっとした騒ぎになっていたので酒場の客達は、セインとミルの言い争いを静観していたが、ミルが駆け出して行った場をみてか、客達が、俄かにざわつき始める。


「さっきの女の人泣いてたわよ」

「何もあんないい方しなくてもなぁー」

 口々に非難の声が漏れ始めた。


(不味い俺の人気が! 一位の栄光が射程圏だというのに……)

 

 セインが思っているとすぐさま舞い戻ったミルが肩を叩いた。

「まったく、セインは短気なんだから……何時もの手に引っ掛かってさぁ、この落後者め!」

 ミルは不適な笑みを浮かべた。



 現時点でレイグが辛うじて一位をキープしているモノの二位のアイスマン、三位のセイン、四位コバカムの差は極僅かだ。

 ここは票の稼ぎ時、二人は顔を見合わせ思うのだった。

 この行動の真意を二人が知るのは抽選の当日になる。



 シオンは艦内の透明な壁の向こうに広がる光景を見ていた。

 

「記憶の復旧はどうされますか?」

 最後に問われた言葉に、シオンは悩んだ。


「なにか複雑な事に巻き込まれるんじゃねぇか? 記憶戻して……本当にいいのか?」

 シオンは、自問自答して呟いた。


 以前の生活の記憶を取り戻す。出来ればそうしたい。

 しかし、その後には必ず何らかの選択が待っているに違いない。

 シオンは無意識の内にアイナの顔を思い浮かべていた。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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