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〜 混沌への前奏曲 〜 第八話

 ◆GATE8 記憶の眠る場所


 シオンは卵型容器の溶液の中で暫し現状の生活と失われた記憶について考えを巡らせていたが、リーシャと名乗る赤髪の若い女性の声で我に返る。


「生命維持装置、正常に稼動中。お帰りなさい。SION」


「うおっ!! 誰かいる? さっきの女の人か……てか、なんで俺の名前知ってんだ?」


「艦内気圧、酸素濃度共に基準値です。結界を解きブリッジへどうぞ」


 ――無視ですか?


 混沌としていた意識の中、深く考えていなかったが閉じ込められている容器の様なものの中には、生暖かいジェル状の液体でもたされている。


 改めてはっきりとした意識の中で考えてみると、急激に呼吸出来ているのか不安に駆られた。

 シオンは恐る恐る結界を解き息を吸い込む。


「呼吸できる? ブリッジ?」

 呟くとシオンの脳裏にノイズが走りフィルター越しに映像を見ている様な感覚が脳裏を駆け巡る。

「う、うわぁー!」

 激しい頭痛にシオンが襲う中、脳裏にはっきりしない映像が流れる。

「はぁ、はぁ、はぁ…なんだ今の……」

 溶液の中でも感じる、額に嫌な汗が噴出す感覚。

 

 容器の中で息を切らしているシオンに女性の声が届く。

「気分が優れない様ですね」


「大丈夫……それよりここから出してくれないか?」


「分かりました」

 赤髪の女性が、遺跡で良く見掛ける操作モニタに映る文字の羅列が不規則に並ぶ文字が示されているキーに向い両手の細い指先で、その文字を叩く様に打ち込んでいる。

「メディカルシェルター解放します。おチビさんシェルターから離れて下さい」


「おチビ!」

 小さなリーシャは、その言葉に頬を膨らませ抗議の意を表した。


 赤髪の女性がそう言い最後の操作を行う。

 シオンの入れられている卵型シェルターは、プシュゥーと空気の抜ける様な音の後、シュパッと音を立て容器の中程から半分上が上方向に持ち上がり開く。

 中の溶液は、開く前にシェルターの中から吸い出されてのか、見る見る内に無くなって行った。

 

 シオンは卵型シェルターから身を起し床に立ち上がった。


「おわっ!」

 歩き出そうとして卵型シェルターに繋がれている無数のチュブに躓き足を取られ倒れそうになる。


「こちらへ。ブリッジに案内いたします。……それともプレイルームに御案内いたしましょうか?」

 赤髪の女性がシオンに尋ねる。


「ブリッジね。少しゆっくりシャワーでも浴びたい気分だ。……て? 俺……裸じゃん!」


「シオンー! なんかぶら下がってるぅー」

 小さなリーシャがシオンの股間を指さした。


「それでは、先にそちらに御案内致します。こちらへ」

 そう言うと赤髪の女性はシオンに背を向け、この部屋に隣接しているドアの前で立ち止まった。

「こちらです」


「どおーも」

 シオンは短く礼の言葉を口にしドアを開けた。


 ――案内されたプレイルーム。


 どうやら、この部屋は“NOA”の乗組員達が軽い飲食やリラックスしたりするレクレェーションを楽しむ。憩いの場の様である。


 赤髪の女性が案内も途中、NOAとやらの現状を説明してくれたが、今のシオンには所々理解できる事と全く分からない事が入り混じり、妙に疲れた。

 プレールームに据えられたソファに腰掛ける様促され暫くすると赤髪の女性がティーカップを見た覚えのない素材のトレーにのせ運んでくるとシオンと小さなリーシャの前に差し出し続きを話し出した。


「現在メインエンジン、エレメントリヤクター共に甚大な損害あり自己修復中、グラビィティーコントロールシステム制御不能、つまり航行不能であると言う事です」

 赤髪のリーシャは顔色一つ変えず淡々と話した。

「現状予備エンジンを直結し補助電源に切り替え生命維持装置等の機能を稼働させている状態です。予備エンジンを各スラスターに直結すれば、NOAを短時間なら浮かせる事は出来ます」


「ふむ? 解る様な? 解らない様な……」

 シオンは困ったという顔をして首を傾ける。


「SION? 貴方が失っている記憶はエピソード記憶とその他の約七十六パーセントのその他の記憶です。貴方はAMASに搭乗しオペレートしたと言ってましたね? それは残りの記憶。つまり、手記記憶、知識等が残っているから出来たのです。手記記憶とは言わば体験や経験を重ねて覚える“慣れ”です。また知識も想い出等とは違う部分で記憶しています。貴方の記憶が完全に失われているのは、想い出等のエピソード記憶なのです。記憶喪失になった人が言語まで忘れないのは、記憶を司そるそれぞれの部屋がるとお考え下さい」


「それで記憶は戻せるのか?」


「ええ、貴方がNOAを離れるまでの記憶は全てNOAのデータベースに蓄積されていますし元々スプリガンチルドレンとして創り出された貴方達は、記憶を植え付けられ様々な戦闘、戦略知識を刷り込む装置によって植え付けられていましたから、戦闘データ等をその記憶から取り出す事も容易な事です。無論想い出等も吸い出しデータバンクに保存されています」


「記憶は、何時でも戻さるのか?」

 シオンは表情のない顔のまま俯きティーカップに入れられた紅茶色の液体を見つめ尋ねた。


「ええ、貴方が望むなら今直ぐにでも戻せます。何十日かの日数は掛かると思われますが」


 暫く考え苦笑いを浮かべて答えた。


「記憶は……戻したい。でも……今は、もう暫くの間このままで居たい」

 そう言い残すとレクリェーシンルームを後にした。 


 

「突然消えた村人と発掘団……巧妙に隠された魔法陣の緻密さ。魔法陣を発動しようとした4直後でなければ、空にいた僕でも巨大魔法陣を見つける事は出来なかったよ」

 コバカムが得意そうな顔をして言った。


 巨大魔法陣は、坑道の縦穴の周囲には巨大でいて緻密な魔法陣が描かれたいる。

 相当な時間を費やして描かれたと思われた。


「僕は、この件を詳しく王宮に報告しに行くよ。ミルさんはギルドに戻ったからマスターに報告してるだろうしね。レイグとコバカムの二人は直ちに、これの解除に当りってくれるよね?」

 アイスマンが真剣に物事を考え判断する時の顔は、何時も何処か氷の様に冷徹で、やわらかに口調度は正反対の冷やかな空気が辺りに流れる。


「これを二人でか?」


「シオンを待てばいい。なら三人だろ?」


「そうだな。俺らなら二日も費やせば解除出きないだろうが……媒介を処理するだけならできるだろうさ」


「二人で先行して事の当たれば二日も掛かならないよ」

 アイスマンの感情を浮かべない冷たい表情がレイグに向けられる。


「不眠不休でやればな」

 レイグは、やれやれと言った感じで呟いた。


「僕が居るから心配ない! 僕は理論魔法の解除は得意だよ。僕に任せて――」

 コバカムの言葉を遮る様にレイグがアイスマンに注文をつける。

 

「増援寄越せよアイスマン。セイン……あいつは術式得意だからな! 三人、シオンを入れて俺達四人なら一日、二日で事は済む。不眠不休で当たらなくてもな」


「そうだね。しかし、シオンはどちらに転ぶか分からないよ。不安定な割に強力な魔力、自分の力に怯えている様にも見えるし無意識の内にリミッターが働いている様にも見える」


「まぁ、頑張って下さいね。これの解除」

 そうと言うとアイスマンは飛翔の魔法を唱え飛び立たった。


 ――と思ったら引き返して来る。


「あ! レイグ! 夜は気をつけなよね。無数の魔法陣の中に生きた陣が残ってる。さっきのガーゴイルも手強い魔物だけど、もしかしたら、無傷の魔法陣からトロールやアンデットが転送されてくるかも! じゃ!」



 ――その頃。

 聖誕祭ウィーク二日目を迎えたギルドの酒場ではクエストボードに群がる女性の人だかりが出来たいた。


「どう思う?」

 セインが隣に居た仲間に尋ねる。


「何が」


「シオンは脱落だ。現時点で三位から急転落の八位。痛いな! それに普段余り酒場に顔を見せないからな。シオンは……あっはぁはぁはぁ」

 セインの顔は、高らかに笑っている。


「そりゃねぇー。アイナちゃんの監視が厳しいからだろ?」


「そう! 普段より女の子の客が多い酒場にシオンを通さないからにぃー! 今は依頼に出ている。その点ではレイグも同じ」


「だからなに?」

 セインの隣のいた仲間が半ば呆れ顔で聞き返す。


「その通り! 始めの順位。これはシオンを知っている店の女の子と従業員、昼間立ち寄るティアナ軍団の学生票だ。大人の時間……つまり夜に現れる大人の女性方の票は集まらない。現在辛うじて一位をキープしているが問題はレイグだ! こいつには固定客(ファンクラブ)が付いている。侮れん」


「まぁそうだねぇー」


「だろ?」


「それは間違いだね。毎年繰り広げられる開店から投票締め切りまでの一時間……もっとも票が動く。噂ではシオンは大人の女性からも「カワイイ」との黄色い声もある」


「そうか! そうだった。その時間からの壮絶なバトル。それまで互いに牽制して投票をしていない女達のバトルは火蓋を切る。もし依頼を終え帰ったシオンの顔を見るなりその票が一気に流れる」


「つまり今夜が……! 天王山!」

 セインが呪文の様に呟き、拳を硬くにぎりしめた、その直後に背中から殺気を感じる。


 振り向くと拳を握り締め唇をかみ締め、わなわな全身を震わせ鬼の形相でアイナが立っていた。

 アイナから放たれている、どす黒いオーラが、セインの目には実体化している様に見えた。


(鬼だ! 鬼がいる。いや、あれは地獄の門番だ)


「シオンが……得体の知れん奴と闘ってるかも知れんですのにぃ!」

 アイナの口元が吊りあがり引きつった笑みを浮かべる。


(違う! 鬼でも地獄の番人でもない。かわいい顔の天使だ。だが……あれは俺をあの世に導く天使)


「何のバトルしてるですぅ?」

 アイナが胸の前で手を指を組み合わせ、ポキッと間接を数回鳴らした。


「や、やぁ、ご機嫌斜めだねぇ」

 セインの背筋に冷たい物が走る。

「シオンも大変だ。聖誕祭に依頼なんてなぁ、僕も頑張らなきゃ!」

 セインは引き吊った声を喉から絞り出す。


「何を頑張るのですぅ?」

 アイナが再び、ポキッと指の間接を数回鳴らし二人に一歩近寄る。


 セインは、ご機嫌を伺おうと声を絞り出した。

「シオンは、依頼頑張ってるから僕は店を護らなきゃね。シオンも聖誕祭の時まで依頼請ける事ないのにね。……ほら、こんなにかわいい彼女放ってねぇ」


 アイナの眉がピクンと跳ね上がる。


「????」

 セインはハタと気付く。

 アイナの母親がログの村に居ると言う事。それを聞いてシオンが行った事、それをアイナが気にしている事を誰かが言っていたのを思い出した。


 アイナの眉が繰り返し数回、ピクンと跳ね上がる。


(地雷だ! 一つ、間違いなく地雷だ)


「なんの嫌味ですぅ? 彼女じゃないですぅ」


 この後、恋する乙女? の苛立ちの全てを受け止めた事は言うまでもない。

 

 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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