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〜 混沌への前奏曲 〜 第四話

 ◆GATE4 言葉に出来ない


 不気味に開く地下鉱脈に続く縦穴が吹き上げる冷えた空気が身を突き刺す。

 ミルとレイグは鉱脈の入り口を覗いたが、特に変わった事はない様に思えた。

「どうする? 調査を続けるか?」


「そうね……」

 ミルが、暫らく考えると難しい表情で口を開いた。

「一度、ログの村に帰ってシオンと合流してからにしましょう」


「それが懸命だ」


 鉱脈の内は枝分かれした通路で構造も解らない。ミルとレイグのアビリティーは狭い坑道になっているだろう、場所では不向きだ。

 ミルの得意とする召喚魔法は特殊魔法。

 魔法の基本とされる理論魔法とは根本的に違う。

 ミルは、四系統の理論魔法を使える。しかし、最大の武器となるのは召喚魔法。

 召喚士のミルが狭い場所で呼び出せる強力なモノは限られる。


 一方、炎の魔剣を操るレイグは狭い坑道や空気の流れの悪い場所でそれを使う事は自殺行為に等しい。

 空気の薄い場所で強力な炎の魔剣や火系列の魔法を使えば、自分達の周囲に漂う少ない酸素を一瞬にして奪ってしまう。


 村で再調査し坑道図を探し鉱脈がどの様な坑道になっているか解れば何より幸いと考えた。

 万が一図面が残されて無くてもログに鉱脈について知る者が居るかも知れない。



 昼食を終えたシオンは、自分の倒れていたラウル湖の辺に来て湖をぼんやりと眺めていた。

 アイナとランスに命を助けて貰った場所である。

 記憶の戻ってない今のシオンにとって、ここは新たな始まりの場所なのだ。


 ここにアイナと記憶の手掛かりを探してた時の光景を思い出しと思わす顔が緩んだ事に気付く。

「アイナの絞りたての“乳”から作った特性バターですぅ」と無邪気に微笑むアイナの姿。

 あいつを護りたいという思いに嘘はない。

 アイナはシオンの一言を待っている。


 『好きだ』と言うたった一言を。


 シオンは、その事に気付いている。

 ただ、それだけの言葉が思う様に言えない。

 素直に言えないというか言っていいのか迷いがある。


 それと同時にランスにティアナ、ギルドの仲間達も自分には守りたいと思う大切な人達に感じる『好き』だと思う気持ちが入り混じる。

 ラウル湖を見つめていたシオンの目は、何時しか遠くを見つめていた。

 自分は一体何処から来たのだろう? そこには自分を待つ者達がいるのだろうか? 想いを寄せた人物がいたのだろうか? 大切な人達が……。


 シオンの胸の何処かでその気持ちがアイナに『好きだ』と伝える事を想いを伝える事を拒ませている。


 シオンは胸の何処かで気付いていた。

 もし伝えてしまってから、記憶が戻ったとしたら……自分はどうするのだろうか。

 以前、思わずアイナを奪ってしまいたいと思う衝動にも駆られたが、何処かに迷いがあるシオンは思い止まった。

 年頃の少年であるシオンが、異性に興味を示すのは人間の持つ本能だ。


 シオンは、ふと首に掛けられた指輪に目をやる。

 ダルベスの話していた秘宝に纏わる話を思い出し、うそ臭い話だなと思う。

 指輪は露店で買ったもで錬金物だと言っていた。


 アイナの手紙の内容も激しく気になる。

 いきなり婚約者だのと話が出てくるしアイナらしいと言えばそうなのだが、ダルベスのアイナやランスに対する呼び方も気になっていた。

 何せ“様”付きで呼ぶのだから。

 ランスは兎も角、口の悪いアイナにはお嬢様は似合わない。

 思わず笑ってしまいそうになる。


 そんな事を思いながら、ぼんやりと湖を眺めるシオンの後ろの草むらの中から、ガサァと草を揺らす物音がした。

 その物音に反応したシオンは剣の柄を素早く握った。



 その頃、ローゼアールヴァルの酒場には、ある人物が訪れていた。

「ここがシオンの所属するギルドなんだ」と顔を綻ばせている。

「こんにちは」

 その人物が酒場の扉に向かい呼び掛けた。

 

「開店は、夕方からですぅ。まだ準備中ですぅょ? 依頼ならぁ……」

 その人物は、扉の方から聞こえる透き通る声の持ち主に気付き言葉を掛けた。


「アイナ、元気だった」

 アイナの双子の弟。ランスだ。


 クラウス公爵が聖誕祭の式典に列席の為、王都まで共ををする従者の一人としてランスも同行してきたのだ。


「ランスぅ――ぅ、懐かしいですぅ」

 アイナがランスに飛びつくと最愛の弟との再会を喜んだ。

 二人が離れてから、まだ二月程しか経っていないが、物心つく前からどんな時も仲良く一緒だった姉弟には随分と長い時間、離れていた様に思えた。


「アイナ、元気にしてた? シオンは?」

 ランスが問い掛けた。


「元気でぇすぅ……シオンは、依頼に出てますぅ……」

 アイナの顔は曇り始める。


「聖誕祭なのに大変だね」

 ランスが言うとアイナの表情に気付く。

「どうしたの? 何かあった?」

 ランスが表情を曇らせたアイナに尋ねた。


「それが……シオンが受けた依頼が母様のいるログの村から出てるですぅ。母様が心配ですぅ……」

「それなら大丈夫、シオンが行ってくれたのなら、きっと大丈夫だよ。僕はそう信じてる」

 ランスが微笑んでアイナを諭す様に言った。


「でも、でも! シオンも心配ですぅ、シオンは傷を押して行ってるですぅ」

 アイナの顔は今だ曇りを残している。

「アイナちゃん? お客様なのー」

 モルドールの声が店の中から聞こえて来る。

 アイナがモルドールに自分の弟のランスが来たのだと告げると店内に入る様に促される。


 ランスがモルドールに挨拶をしていると店の衣装に身を包んだティアナが現れた。

「あら、ランス! お久しぶりね。お父様はお変わりなくて?」


「はい。お変わりございません。お久ぶりです……あの? お嬢様? そのお召し物は……公爵家の御令嬢であられるティアナお嬢様が、その様な街の酒場娘の様な衣装をお召しになられていると旦那様が見たら嘆かれますよ」

 ティアナが纏う衣装を見たランスが目のやり場を失くした。

 屋敷にいる時のティアナとは言葉使い、物腰がまるで別人だった。

 ティアナにしてみれば特に不満に思った事はない公爵家の娘という堅苦しく、窮屈な退屈な日々からの解放を楽しんでいるだけなのだが、ランスが戸惑うのは無理もないだ。


「お父様には内緒よ。それにアイナも同じ様な衣装着て夜はお店に出るのよ」

 ティアナが小悪魔的な笑みを浮かべた。


 御屋敷で執り行はれる舞踏会と違い。不特定多数の客相手に給仕なんてアイナに出来るのだろうか? 人見知りで恥かしがりのアイナが……しかもあの衣装で? 絶対無理だと思うランスだったが、未だに浮かない顔のアイナがそこにはいた。


 アイナに再び、ランスが言う。

「大丈夫、シオンが母様を護ってくれるよ」


 ランスは、詳しい話をアイナから聞いた後、自分の言葉の無責任さを感じていた。

 アイナを安心させようと思っての言葉だったが、幾度も助けられその度にシオンが危険に曝され傷ついていく。


 アイナの気持ちは散り散りとなり複雑で深刻なものだと気付かされる。

「シオンは……昨日、アイナを助ける為に大怪我してるですぅ。いつも、いつもシオンに頼ってばかりですぅ。なのに……なにも……シ、シオンに……してやれんですぅ」

 アイナの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。



 姉の言葉で気づく、何時もシオンに頼っている。それはシオンを信頼しているから未知の力を目の当たりにして安心していた。

 シオンならと、シオンが居てくれるから大丈夫だと。

 シオンは、ランスを大切な友人と言ってくれる。ランスにとってもそうだシオンは大切な友人であり、大切な姉の……。


 ランスの中に強い思いが生まれる。

「僕はログに行くよ」


 ランスが意思を示すとその会話が聞いていたモルドールが口を挟んだ。

「ごめんなさいね。聞こえちゃったの。シオンくんは守護者として今回の依頼を請け仲間と共に出ているの。確かに、あなた達のお母様がいらっしゃるからなのかも知れないけど、あなた達が気に病む事ではないのよ。依頼を請けないという選択肢もシオンくんにはあったのだから、こんな事言ってもあなた達の気休めにならないのも分かるけどローゼアールヴァルの守護者に任せておきなさい」

 モルドールが柔らかな口調で諭した。


「僕は行きます。自分の護りたいものを護りに行くのです」

 ランスは強い思いを言葉に秘めた。


「……解ったわ。あなたの思いを誰にも止める権利はないわね」

 モルドールが言うと一人のガーディアンを呼んだ。

 馬を早駆けさせても一日は掛かる。デミ・ドラゴンを持つ者に送らせれば短時間でログに着ける。


「その代わりにと言ってはなんだけど村に帰ったらガーディアンの指示に絶対従う事、約束ね。アイナちゃんもお母様に逢いたいでしょうけど今回はお留守番してね」

 アイナは少し拗ねたが、店も忙しい仕方ない。

「お母様とシオンの無事を祈ってあげなさい。信じて上げる事も力を生むのよ」

 モルドールがアイナに言葉を送った。


 アイナの中に一瞬、ほっとしている気持ちも湧き上がった。

 自分まで行って、またシオンの足で纏いになりたくなかったからだ。

 ランスとアイナはその計らいをしてくれたモルドールに頭を下げた。


「いいのよ。今回の依頼は不可解な事が多いから依頼の様子を知りたいの。ついで事だから気にしないでいいの」

 モルドールが微笑む。

 デミ・ドラゴンにランスを乗せるとガーディアンと共にログの村に向かい飛び立った。



 シオンは辺りの様子を注意深く探る。

 何の気配を感じない。

 物音のした方向に向かったが何もない。

 気のせいかと思った瞬間。

「なんだ。たった一人か」

 後方から、まだ幼さの残る少年の声が聞こえた。

 シオンは焦った。

 先程、注意深く辺りを探ったが何も気配を感じなかった。

 それなりの経験も積んだつもりだったが、簡単に背後を取られた事等、一度もなかった。

 再び、後方から声が聞こえてくる。

「探し物かい?」

「誰だ!」

 振り返ると十代前半から半ば程の少年が立っていた。

 身に纏っている衣服は、ラナ・ナウル王国で見慣れない黒衣のローブだった。


「迷子にでもなったか?」 

 それともログから湖に来ているのかとシオンが思考を巡らせていると少年は薄い笑みを浮かべた。

 再び離していた手を柄に添えるが、相手は自分より少しばかり年下の少年だ。

 シオンが一瞬、戸惑っていると刹那。

 少年の姿が視界から消えた。


「大した事ないね。ラナ・ラウルも」

 無邪気な声がシオンの肩口で聞こえる。

 ただの少年とは思えない程の邪気を感じる。


「お前が王軍の兵士を消したのか?」


「王軍? さぁ知らないね。いっぱい人が来たけど」


「その人達をどうした? 殺したのか?」

「殺してないよ。でも……もう死んでるかも」

 少年が無邪気に答えた。

「なら、その人達を何処にやった」


「シオン!」

 廃村の調査を終えログに戻ったミル達が駆けつけた。


「その子、何者?」

 ミルが訝しげに尋ねる。


 シオンの背後に立つ少年の黒衣のローブには、カリュドス帝国と名乗り始めた国の紋章が縫い付けられていた。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいました誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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