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〜 混沌への前奏曲 〜 第二話

 ◆GATE2 穏やかな日に


 華やかに街並みは様相を変え今日から始まる『聖誕祭』を迎える。


 街外れ薔薇妖精の酒場のある、守護者ギルドローゼアールヴァルは夜からの開店に合せ準備と依頼を請けてないガーディアン達で昼間からお祭り騒ぎとなっていた。


「皆さん! 今夜からお店は大変忙しくなります! 酒場の女の子、ギルドの従業員、ガーディアン問わず手の空いた人は酒場のお客様のお相手と厨房の方のお手伝いをして貰うわよん」

 何時もの口調と様子でモルドールが皆に告げた。


「は――い。ママ」

 気合いの入った声が揃う。


 今夜からの九日間、客は増えるという事は貰えるチップも増えるのである。


 気合が入るのは至極当然の事。


 通常営業時より際どい衣装に身に着けている事も気にもならない。


 アイナも普段酒場が忙しいと手伝わされる事がある。

 しかし、今日の衣装はどうにも恥かしい。

「こんな格好で給仕なんて無理ですぅ」

 アイナが呟た。


 ティアナは高貴な生まれにも関わらず堅苦しい公爵の娘である事からの開放感と好奇心で何だか楽しげにはしゃいでいた。


「ねぇ! アイナ? どう私てば衣装似合い過ぎてない? 高貴な雰囲気とこの衣装の落差が余計に私の魅力を引き出してるわ。そう思わない?」


「ティアナは恥かしくないのですぅか?」

 はしゃぐティアナを目を細めて聞いてみたが、ティアナはもうその場にいなかった。


「そうだ!? シオンに見せに行こうと――」

 シオンの元に行こうとするティアナにアイナが言った。

「シオンなら依頼を請けて出てますぅよ」


「えっ! 聖誕祭で休みじゃないの? 誰かさんのせいで怪我してたじゃない」


「シオンの回復力は尋常じゃないですぅし新人ですから仕事押し付けられてましたですぅ」

 アイナが言うとティアナが、酒場に設けられた聖誕祭様のクリップボードを指差し言った。


「あの眼鏡の人も新人なのに居るじゃない。シオンばかりにみんな依頼を押し付けてるのよ。もう!」

 

 クリップボードの前に張り付くコバカムを含む数人がいる。


「ティアナはガーディアンライセンスの事をよく知らないのですぅからしゃねぇですが、Sクラスの依頼が昨夜遅くに舞い込んだのですぅ。何でも急を要する依頼だったのでギルドに住んでいるAクラスはシオンしか居なかったのですぅ」


「でもSクラスの依頼でしょ? シオンは、まだA級ランクでしょ?」


「ミルさんが一緒ですぅよ。ミルさん昨夜遅くまで衣装選びをしてましたですぅ」

 S級クラスのガーディアンが居ればAクラスのシオンも隊の一員としてSクラスの依頼を請ける事は出来た。


「怪我人のシオンに負担が掛かり過ぎだわ。あんた止めなかったの? それにモルドールちゃんも!」

 モルドールの方を、チラリと見てティアナが言った。


「アイナもマスターも止めたですぅ」

 アイナの顔に不安と心配の色が見える。


 ――シオンが無理を押して依頼を請けた理由。


「二人で行ったの?」

 ティアナの目を窄めた。


「レイグさんも一緒ですぅ。遅くまで酒場にいましたから借り出されたですぅよ」


「それはそれで問題ねぇ」


「なぜですぅかぁ?」


「決まってるじゃない。あれよ! あれ」

 ティアナが再びクリップボードを指差した。


「眼鏡野郎がどうかしたですぅかぁ?」

 アイナはクリップボードが酒場にある理由を知らなかった。


「眼鏡は兎も角。違うわよ。あんた……知らないの? クリップボードが酒場にある理由?」


 アイナがクリップボードをよく見ると紙切れが沢山貼り付けられている事に気付く。

 近くに行ってよく見るとローゼアールヴァルのガーディアン達の名前が書かれた用紙だった。

 シオンの名前も沢山貼られていた。

「なんですぅ? あの紙切れ」


「人気投票よ。あなた知ってる? フィクス・ルミナリスに伝わる言い伝えとクリップボードの関係」


「神樹の言い伝えは知ってましたですぅけど、フィクス・ルミナリスがその神樹だとシオンに教えてもらったですぅけど……何かあるのですぅ?」

 アイナが不思議そうに聞いた。

 言い伝えの事はアイナも知っているが、それとクリップボードとの繋がりが分からない。


「いい? クリップボードに目当てのガーディアンの名前を書いて貼るの。前日に抽選を行って、当選す者が決まるのよ。当選者はフィクス・ルミナリスが実のなる三日間の内一日、そのガーディアンと過ごせるの。現時点で、人気NO,ワンのレイグさんと人気NO,スリーのシオンが居ないのよ! それまでに依頼が終われば問題ないけど」


 アイナは再びボードに目をやる。

 シオンや他のガーディア達の名前が沢山貼られていた。

「シ、シオンは、こんな事に参加せんですぅ!」

 アイナは頬を膨らませた。


「あれも依頼として請ける事になるの! 無料だけれど……それにギルドイベントだから依頼に出て留守以外の者は請ける事になってるのマスターの強制だけどね」


「でも、でもシオンは依頼に出てますし心配いらんですぅ」


「はぁー、シオンが帰ってこないとあんたもシオンと過ごせないのよ。三日間あるとはいえ初日の指名が一番多いの、この意味が解る?」


 フィクス・ルミナリスが実をつける初日の前夜にもっとも盛り上がる。

 恋人達はその聖夜『誓約の神樹』に誓いを起てる。

 初日の夜に人気が集中するのは至極当然。


「私はシオンの名前書いて貼ったけどね。後は運」

 ティアナが肩を落とし力なく言った。

 

 その事をアイナは知らなかったので、なだ書いてない。

 

 ギルドの仕事が忙しく、知らなかったが、聞いてしまうと嫉妬の様な感情が生まれてくる。

 大好きなシオンが、他の女の子と聖夜を過ごすなんて許せない。


「アイナも書いておかないと聖夜に他の女の子とシオンが過ごす事になるわよ。と言っても抽選だけどね……そこで当れば余計に運命を感じちゃうじゃない?」 

 ティアナが胸の前で手を重ね遠い目になった。

 

 アイナも書いておく事にしようと思うが、ティアナや皆の前で書くのも何だか恥かしく後で皆の隙を見て書く事にした。


「やあ! 君達、僕と聖夜を過ごしたいなら用紙に書いておいてくれたまえよ。現時点で人気NO,ツゥの僕のね。抽選だから当選しなくても許しておくれよ」

 前髪を掻き揚げる仕草でコバカムが言った。


 コバカムの人気も意外に高い。

 確かに美形であるが、つい最近まで隣国で人気の演劇舞台俳優『ルン』がオースティンの劇場に公演に来ておりラナ・ラウル王国でも人気の演劇俳優となってルン様ブームと大騒ぎになっている。

 その俳優ルンにコバカムは眼鏡を取るとそっくりだ。


「……」

 コバカムの言葉で酒場は一瞬、静まる。

「「眼鏡黙れ!」」

 二人は声を揃え言った。


「シオン……大丈夫かな? 聖夜までには帰るよね?」


「大丈夫ですぅ。きっと帰りますぅ」

 アイナは嫌な予感を感じていた。


 タイターンノーズの一件は元々ギルドが相手のSクラスの依頼だった。

 緊急時特例処置例に倣いマスター権限でモルドールがシオンに依頼を負かせ、自分の判断で請けた。


 全てではないが、通常は蛮族、魔物等を相手にする関連の依頼がSクラス依頼になり易い。


 シオンの回復力は知っている。

 昨夜の様に疲れ切ったシオンを見るのはアイナも初めての事だった。

 魔力の回復も未だだろう。それはミルもレイグも同じだ。

 ローゼアールヴァルで屈指の三人とはいえ、Sランクを連日請ける事になる。

 モルドールはそ、れを踏まえて対策をしていると言っていたが、もう一つ気になる事があった。


 その依頼がログの付近での事でログの村から出された依頼だった。

 ログにはアイナとランスの母ナタアーリアが住んでいる。

 シオンがその事を知り自分が行くと言って聞かなかった。

 蒼白になり飛び出そうとするアイナに「心配するな」と言いシオンは依頼について行った。


 オースティンからログの村まで馬車で三日程。

 ミルのワイバーン、レイグはグリフォンどちらも速い。

 後はシオンを信じるしか無い。

 アイナは、何時も自分の為に危険をシオンに冒させる事に心が痛めた。



 三人は夜が明けるとログの村に入り依頼内容を詳しく調査する為村長の下に向かった。

 ひと通りの概略を聞くと以前シオンとオークが戦った廃村に強力な魔法を使う蛮族が住み着いたらしいが、元々村が出した依頼は最近になって増えるオークの討伐願いだった。


 村にも何度かオークに襲われた様だが、ダルベス、ベリル、スクナ・メラが向かえ討ったらしい。

 オークだけではSクラスの依頼には、まずならない。


 観光名所であるラウル湖周辺は王軍直轄の警備にあたっているが、手に負えず何時の間にかSランクの依頼までになっていた。


「廃村に住み着いたオーク以外のモノの正体は解りませんか? 強力な魔法の使う蛮族と依頼書にはありますが」

 レイグが腑に落ちない面持ちで村長に尋ねた。


「村民は近寄りません。王軍の兵も何度か廃村に立ち入ったのですが、その度に全滅したのか帰る者はおりませんでした。一度だけ無傷で帰還した者がいたらしく。その者のが言うには魔法を使う羽根を背に持つ蛮族だったとかだけしか聞いておりません」

 村長が答えた。


「村を襲うのはオークの群ればかりです。そのモノが村を襲った事は無いのではっきりとした情報も入らないのです。噂と軍の者が帰らぬ事実しかログの村に情報は入ってきません」

 村民の一人が付け足し言った。


「羽根を持つ蛮族と言えば、ハーピィか」

 何処か疑問の残る口調でレイグが言った。

「ハーピィが精霊魔法を使うなんて聞いた事ないわ」

 ミルが言うとレイグが頷く。


 この場の誰もが天使の姿など誰も見たことはない。光の魔法系統が存在する以上、居るのかも知れないが、生誕の創造主とし“神”とその御使いとし言い伝え等で伝わる天使を本当に見た人間がいるのか怪しい。

 俄には信じ難い。


「なんにせよだ。光系統魔法は四系統とは根本的に違うし強力だ。厄介な相手になる」


「そうね。事実を調査の上で依頼の破棄も考えに入れて置くわ」


「廃村の現地調査だな。聞き込みをしても、これ以上の情報は集まらない」


「一箇所だけ寄ってもいいか」

 シオンがミルとレイグに言った。


「情報でも聞けるあてでもあるの? それとシオン? あなたは今日は休んでなさい。傷の回復しといてね。今回はバックアップに回って貰うわ」


「今日は一日調査に当てる。無理をする積もりも無いしオークだけなら俺とミルだけ十分だ」

 ミルとレイグがシオンを労う様に言った。


 二人が廃村に向かうとシオンは、ナタアーリアの住む家に向う。


 シオンが久しぶりに見た、ログの村の空は高く青く澄み渡っていた。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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