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~ 混沌への前奏曲 ~ 第十九話

 ◆GATEー19 手紙


 シオンは強盗でも入ったのかと思う程、散らかったアイナのチェストに気付く。

 余程、慌てて旅路の準備をしたのかランスを一刻でも早く連れ戻したい気持ちが逸らせ後固唾けも程々に荷物を纏めたのか、気付かれる事を裂けシオンが眠っている間に出て行ったのか定かではない。

 何れにせよ。アイナは自分の容態が落ち着くのを見計らい、急いでランスを探す旅路にでたのだろう。

 手紙に書かれた日付から三日が過ぎている。

 

 ギルドに戻って自室のベッドに寝かされ何度か目を覚ました。

 食事も軽食ながら摂った。

 その介護はアイナがしてくれた。


 アイナはルミナリスに向かう前か、ルミナリスの神樹から帰りシオンが寝ている間に手紙を密かに窘めたのだろう。


 何時の間に出て行ったのかは分からない。

 しかし、シオンが最後にアイナの顔を見たのは、昨日の夕方。

 シオンが眠りに落ちる前だった。

 出て行ったのは、シオンが寝付いて暫くしてからだと予想される。


 今は正午を回っている。

 シオンは食い入る様にアイナが残して行った手紙の文字を目で追った。



 Daer 


 シオン。


 ごめんねですぅ。


 ルミナリスの実にシオンの記憶が戻る様に願いを込めておいたですぅ。


 運良くアイナの前に転げて来た実で決して禁を破って、かっぱらって来たものじゃねぇですぅ。


 アイナはランスを探しに行くですぅ。


 いつも、シオンに甘えて怪我ばかりさせてごめんですぅ。


 ランスの事に責任を感じてくれるシオンに感謝と嬉しさを感じてるですぅ。


 けれど、シオンはガーディアンなのですぅから、アイナ一人だけを守ってくれるナイトじゃないのですぅよ。


 ガーディアンを、シオンの力を必要としている人が沢山いるのですぅ。


 本当は……。



 文章の途中、乱暴に掻き消された跡が残っている。


「ばかやろう……、何時もの様に毒づいてればいいものを……」



 アイナはシオンに甘えてばかり……、だから弟の不始末は姉であるアイナがランスの目的とその理想郷を確かめに行くですぅ。


 ろくでもない理想を唄うなら、アイナがひっぱたいてランスの目を覚ましてやるですぅよ。


 こう見えてもアイナの魔法は強力ですからぁー。心配はねぇですぅ。


 シオンは傷を治して早く元気になりやがれぇ! ですぅ。


 心配しないで……シオン?


 シオンの前では泣き虫だけどアイナは強い娘ですぅ。


 必ずシオンのところに帰るですぅから、それまで大人しく寝てやがれぇーですぅ!


 傷が治ったら、溜まった依頼をとっとと、こなしやがれぇですぅ! アイナが帰って依頼数が減って無かったらゆるさんですぅよ!


 その自慢の銀色の髪の毛ひん剥いて、チビ竜の餌にしてやるぅですぅよ!


 ごめんね……シオン。


 一人にしてしまうですけど、アイナはシオンを信じてるですぅ。


 だから、シオンもアイナを信じるて大人しくガーディアンの仕事を頑張るですぅ!


 そして記憶も戻して、シオンが帰るべき本当の場所にかえるですぅ。


 アイナは、アイナは……ぜーんぜん寂しくなんかないですぅー!


 ちょっとだけしか……寂しくなんかないですから。


 シオンを待っている人達の所に帰れるといいですぅね。


 アイナは、アイナは、そうなる事を心から願ってっるですぅ。


 だから、アイナは一人でランスを探しますぅ。


 絶対に追ってきてはだめですぅよ!


 雪が積もってますぅ。


 人通りもないこんな夜中に出て行くのですぅから寒いですぅ。きっとシオンの傷にひびくですぅから探すなですぅー!


 足跡追って来たら承知せんですぅよ! 


 アイナ。



 追伸。


 保安衛士隊の人が来たら適当にあしらっておくですぅよ。


 ルミナリスの実は、運良くアイナの近くに落ちて来たものだと言い張っておくですぅ。


 決して、禁を破って侵入不可の禁等区に入って、引き千切ってかっぱらって来たものじゃねぇですぅ。


 堂々としてるですぅ。


 決して疑われる事のない様に頼んだですぅ。



(……あいつ、かっぱらってきやがったな)


 シオンはベッドから這い出し一階へと拙い歩みで階段を下りて行く。


「シオンくん? どうしたの? まだ安静にしてないといけないわよん」

 ギルドの酒場でモルドールがシオンに気づき声を掛けた。


「アイナは……アイナは何時出て行きました?」

 シオンはモルドールに噛みつく様に問い掛けた。


「アイナちゃんがどうかしたの?」

 きょとんとゴツイ顔にウルウル、キラキラ興味深そうなモルドールの目が躍っている。


 興味津々と言った感じだ。


「いや……何でもありません」

 シオンはモルドールから顔を逸らした。


「ふぅーん! 聖誕際の夜dからって……シオンくん! アイナちゃんに良からぬ事を強要しようとしたはね? 自分が動けないからって無理やり。 ……それにしてもシオンくんも元気ねぇー! 年頃の男の子は! やだ! もうぅー! シオンくんたら」


(怖えぇよ……マスター。キモイって……)


「違いますよ、マスター。そんなんじゃなくて……はぁはぁ」

 シオンは苦笑を浮かべると、くねくね鍛え上げられた禁く質の身体を動かし頬に両手を当てて顔を赤らめるモルドールから逃げる様にシオンは酒場の出口へと急いだ。


 ギルドのシンボルディテールの施された酒場の扉を開いた。

 扉の外から薄暗い店内に差し込む白銀色の光が眩く思わず目を細める。


 扉のの外は一面の銀世界が広がっていた。

 早朝の街と路地に広がる銀世界。


「馬鹿野郎が……出て行くのが早すぎんだよ……これじゃ足跡追ねぇじゃねぇか! くそ……」

 シオンは小声で呟き、まだ誰の足跡もない白銀の野を見つめた。



 守護者ギルド。ローゼアルヴァルの遥か彼方の上空にまだ幼生の竜が白銀に染まった大地の下に見て頼りなく蝙蝠の様な翼を羽ばたかせ懸命に飛んでいる。


 空は昨日の天候が嘘の様に晴れ渡っていた。

 その竜の背中に動物の毛皮を這いで縫い合わされた厚手の防寒用のコートと耳当て付きの毛糸で紡がれた帽子を深々と被り、防寒用の手袋を摩りながら身を丸くして流れる冷たい風に耐えている金色髪と翡翠色の目が輝かしい少女が乗っている。


 シオンからガメて来た竜の角笛で呼び出された幼生の竜が金色髪の少女に尋ねた。

 

「ねぇー! 行先は?」


 竜の質問に翡翠色の瞳を尖らせ小ぶりの唇をアヒルの口ばしの様にしてつまらなそうに金色髪の少女が答える。

「知らんですぅー!」


「宛てもなく旅立ってきたの? 無計画!」

 人語を巧みに扱う幼生の竜は、人々が竜と呼ぶ獰猛な生物とは違う。眷族種。


「今考えてるですぅ! ランスは変な魔術師と何処に行ってた理想郷を創ろうとしているのか考えてるでっすぅ」


 寒空の中。乾いた音が、ぽかんと木霊した。


「考えて解る事なの? イタぁ! 何すんの!」


「えい! ですぅ!」


 ポカポカ、と厚手の手袋から、間抜けな音が続いて音を立てる。


「痛いー! 解るの? って聞いただけでしょ!」


「分かるですぅ! ランスとは何時も一緒に過ごした血の繋がった一卵性の双子なのですぅ! 双子の不思議をなめんなぁーですぅ! 兎に角西に飛んでりゃいいですぅ! チビ竜!」


「チ、チビって……貴方より数倍大きいよ? 私……、西に向って飛んでいるのには何か理由がある訳なのね!」


「旧カストロス王国戦場跡」

 アイナは寂しそうに雪の結晶が手の平で溶ける様に、ぽつりと呟いた。


 根拠などなかった。

 確信もない。

 ただアイナの感と思考が、現在カリュドス帝国領地の旧カストロス王国戦場跡に向かえと言っている気がした。


 満更、的外れではない事は、ちょっとした難関を乗り越えた後に判明する。


「そろそろ国境だよ? これから越える二つの王国は、ラナ・ラウル王国とは同盟を結んではいるけど、不法侵入の領空侵犯になるんでしょ? 人間の決めた約束事でしょ? ガーディアンのシオンちゃんでもいてくれたらなんとかなるかもしれないのに……何で置いてきちゃったの? イタァ」


「五月蠅いですねぇー! シオンには……シオンは怪我をしてるのですぅよ。連れてこれる筈がないですぅ……」


「何でブツの? 本当は一緒に来てほしかったくせに! わざわざ街の外まで雪の中を歩いて足後まで残して、兄さんの角笛じゃなく私の角笛だけ持ってきたくせに!」


「うるさいですぅー! シオンが追える様にデカ竜を連れて来なかった訳じゃないですぅ……」


「嘘吐き」


「なんですと! それは聞き捨てならんですぅ!」


「本来なら、私ではなく兄さんの角笛で兄さんを呼べば、戦闘力も速度も桁が違うに」


「シオンには、もうアイナの……アイナ達の為に怪我をしてほしくないですぅ……それにシオンニは記憶を戻してシオンのいるべき場所に帰って危険と離れた場所で過ごしてほしいですぅ」


「記憶が戻ってもシオンちゃんが帰る場所が平和な場所だとは限らないでしょ?」


「そりゃそうですけど……」


「見つかった! 来るよ! ドラグーンの騎士隊が騎乗は全部デミ・ドラゴンだけど、私より早いし大きいよ」


 眷族種の竜は、くるりと方向を変え優れた五感を生かし西に向いながらもドラグーン騎士隊を巧みに距離を取り絶妙に騎士隊達を避ける進路を取った。


「いくら同盟国とはいえ、得体の知れない竜に乗った人間を易々と通してくれるわけないよね……やっぱり、通行証や他になんの証明も持って来なかったし……」

 眷族のまだ幼生の竜が慌てた素ぶりで言葉を発した。


「じゃあ、どうするですぅ? このまま引き返すのはげせんですぅ! ……! 迂回して海にでるですぅよ! 海に長く延びた岬を迂回してカストロス旧王国に入るですぅ!」


「海に? 南に向かえばいいのね?」

 眷族の小ぶりな竜は、陽の光を反射したエメラルドの鱗を輝かせ南へと進路を取った。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださりまして誠にありがとうございます。


次回をお楽しみに!

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