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~ 混沌への前奏曲 ~ 第十四話

 ◆GATEー14 悲しみの咆哮


 冷えが増したラウル湖の沿道をやさしく月明かりが照らしている中を一人歩いている少年がいた。


 NOAから水面に延びた光のチューブに抜けシオンはログの村に近い湖の辺に出ていた。

 シオンは、ランスの身に起きた出来事を告げにナタアーリアの家に向った。

 

 依頼の事を済ませてナタアーリアにランスが何者かにさらわれた事を話さなければならない。

 ナアターリア気持ちを考えるとどうにも気が重いが伝え詫びなければならない。

 


 シオンは、大きく呼吸をし頬を両手で叩き気合いを入れ顔を上げた。

 シオンの視界には、ラナ・ラウルに流れ着いて間もない時、自分の記憶探しに廃村からログに帰った日の事を思い出す。


 今歩いているこの道はアイナと二人で歩いた道だ。


 シオンが初めてこの世界で戦闘、オークを倒し未だにシオンの中に眠る“ちから”の片鱗が目覚めた。

 魔法の扱いは未だに持て余し強力な魔法は上手くコントロール出来ないでいるが、あの時よりも強くなっている。

 確かな手ごたえもある。

 

 あの日、シオンはこの道の途中までアイナをお姫様抱っこして帰った。廃村でオークの気配に気付けずアイナに恐い想いをさせ危険な状況を作ってしまった。


 思えば、あの時から……。

 

 アイナを守りたかったのかも知れない。

 その時は、まだ助けて貰ったお礼くらいの気持ちだった。


 だけど今はなんだかそれだけではない感情が確かにある事に気付いている。その感情が何なのかまだ良く解らないでいるのも確かだった。


 シオンはぽつりと呟く。

「なんだろうな? この気持ち……あいつと居ると何だか力が漲ってくる気がするんだよなぁー」


 廃村でオークの群れにアイナが襲われそうになった時も小さなリーシャの創り出したゴーレムと戦った時にアイナが木の葉の様に宙に舞い上げられた時も傭兵ギルドにアイナが誘拐されハーフエルフの魔法と魔槍の使い手と対峙した時も信じられない程の力が出た。


 ガーディアンになっり依頼を受けそれなりに強い相手と対峙してきたが、それらの時程の様にを出せた事がない。

 いや、出せない。

「なんだろなぁ?」


 考えながら歩いているうちに廃村に辿り着いていた。

 シオンは廃村の坑道のある辺りに着くとそこにはレイグとコバカム、二人の姿が月明かりの中に見える。


 なんだか深刻な空気を二人から読み取れた。

「終わったのかぁー!」

 シオンは二人に声を掛けるが返事は返ってこなかった。

 返事代わりに返ってきたのはレイグの怒りに満ちた怒鳴り声だった。

「ふざけるな! それしか方法はないのか?」


 シオンは縦に掘られた坑道が掘られた場所に飛び降り二人に駆け寄った。

「そうだよ。それしか方法はない。直ぐに何とかなるものでもない」


「何時、発動するか分からないんだぞ? このまま待つしかないのか? しかもその方法で解除だとふざけるな!」


「レイグさん落ち着いて僕に当っても仕方ないだろ? 魔法陣の術式の解読に時間が掛かる。それに使われているの触媒が人間の血である以上、同じ触媒で術式を解除するしかないんだ。冷静になれよ! それに人柱を使っている可能性もあるんだ」


 二人のやり取りが尋常じゃない事にシオンも急ぎ事情を二人に聞く。

「おい! 何があったんだ?」


「シオンか」

 レイグが短く言葉を発した。


 一通りの話を聞いたシオンも頭を抱えた。


「術式の解読はギルドのみんなで協力すればなんとかなるだろ? なるべく早く解読だけでもするべきだ」

 三人の中で一番冷静を保っているコバカムが言った。


「その間に強力なモノが召喚されたら、ここで使われた血以上の何の関わりもない人々の血が流れるんだぞ。また多くの人間の命を! 血を流すのか!」

 レイグの怒りは治まらない。

「誰がこんな事を考え実行しやがったんだ。まったく! 信じられない」


 シオンは冷静に考えてみた。何か他に方法はないのか。

 こんな時にコカトリスとの一戦の後の事を思い出す。


 コカトリスのブレスで枯れ果てた大地に瑞々しい花咲き誇る緑を取り戻した時の事だ。

 あの時、枯れ果てた大地を見て草花の生命が失われていく事にいたたまれなくなり悲しみ涙したアイナを見てシオンは何とかしてやりたくても出来ない悔しさがあった。


 たった一人の女の子の涙を悲しみを止められない自分がたまらなかった。

その時、剣がシオンの心の中に問い掛けて来たのだった。


 強い気持ちでアイナの悲しみを絶ちたいと思い訳も分からず剣の意志に自分の意志を重ねるイメージで剣に身を委ね剣を薙いだ。


 シオンは、あの時の現象がなんだったのか時々気になって気が付くと考えている時がある。

 今も考えているが、結論を導けないでいる。

 幾つかの仮説は立っているのだが、どれもこれも“神”の領域の様に思えるのだった。


 だが今は、それを考えている暇はない。

 いつ事が起きこの廃村から一番近いナタアーリア達のいるログの村がもっとも危険に曝される。

 それに多くの人間の血を……多くの人を人柱に描かれた魔法陣が許せない。


 シオンの目に強い力が漲り心の中に強い意志が芽生えた。

「今すぐ何とかなるかも知れない。賭けだけどな。試す価値はある。何もしないよりましだ。ただ上手く仕えるか分からないしあの時の現象が俺の推測と合っているなら……或いは可能かもな」


「シオンに賭けよう」

 コバカムが言う。


「お前に託そう……頼んだぞ。シオン」

 レイグが頷く。


「ああ、失敗しても小言はなしだぜ! 俺の意志だけでは使えないからな」

 シオンは自分の前の空間に魔法陣を作り出す。


「どういう意味だ?」

 レイグとコバカムは顔を見合わせた。


 シオンの目前の空間に光り輝く魔法陣が出現するとゆっくりと魔法陣から剣の柄が現れた。

 その柄をシオンが引き抜くと大きな大剣が現れる。


「絶ちたいか? 止めたいか?」

 あの時の声がシオンの頭の中、心の中に響く。

 その大剣に強い思いを込めてシオンは叫んだ。

「俺は絶ちたい。俺は止めたい!」


 鍔となる外観の真ん中に一筋の光が走り左右に開き光を放っている。

 その光は刃となり、刃は透き通り七色に輝いていた。

 シオンは剣を地面に描かれた魔法陣の中心につき立て自分の思いの全てをフィノメノンソードに込めた。


「この先の犠牲者を減らす為に今一度、俺に悲しみを断ち切る力を!」

 大剣の刃は更に輝きを増しその輝きは剣を中心に波紋の様に光が広がった。

「せめて安らかに魂の故郷に返れぇ!」

 光の波紋が魔法陣一面に広がり、やがて天に帰る様に光の粒に小さく分かれ立ち上りゆっくりと消えて行った。


「何とかなりそうだ」

 シオンが確信に満ちた言葉で答えた。

 光が消える頃にシオンは意識を失った。


「魔法陣が消え去っている」

 コバカムが呆気に取られている。


 それはレイグも同じだった。

 何が起こったのか理解できないでいる。


 暫らく呆然としていたレイグが唇を噛み魔法を詠唱し始めた。

 その魔法が地面を掘り起こしていく。

 大よそ十メール程、掘り下げた時掘り出されていく土の中に人の物と思われる白骨が交じっている事に気付く。

 コバカムも唇を噛み締め悔しさの交じる表情になり苦々しげに言った。

「魔法陣の術式、描かれていた図形は脳裏に焼き付けた。後で羊皮紙に写筆しておくよ。僕達に出来るのはここまでだ」


「ああ、同感だ。悔しいな」

 レイグが悔しそうに相槌を打った。


「納得いかねぇ!」

 意識を取り戻し二人の言葉を耳にしたシオンが怒りに満ち声を震わせた。


「同じ気持ちだがここから先は俺達ガーディアンの依頼の範囲を越えてる。後は王軍の…正規軍に任せよう」

 レイグが答える。

「それが納得いかねぇ!」


「納得するもしないもない。俺達は軍人じゃないガーディアンだ。依頼の性質上逮捕権を行使しなくてはならない時があるから形式上軍属ではあるが一般人なんだ俺達は! シオン」


「そう、これ程の人の命が失われ王宮保護区での鉱物発掘許可、観光地で名高いラウル湖は人の出入りも激しい。そんなところで何年もの月日を費やし、こんなもんが作られていた。お偉いさんの中に手引きした奴がいるかも知れない。いや、いると見るべきだろう。それにこの国のものではない魔方陣、最悪国際問題にまで発展しかねない。僕達はガーディアンだ……、剣や力を持っていても軍人じゃない。一般人が戦争の引き金になる訳にはいかないんだ」

コバカムはシオンをそう言ってなだめた。


「ちくしょ! 胸糞悪いぜぇ」

 シオンは唇を噛み小さな声で呟いた。


 ラウル湖には空の輝きが映り込み、その空には星達が輝きに満ちていた。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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