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~ 混沌への前奏曲 ~ 第十三話

 ◆GATEー13 もう一つの戦場


 ギルドの酒場は聖誕祭の週、連日の盛況ぶりは凄まじかった。

 いつも賑やかで精強なローゼアールヴァルのガーディアン達の戦場はギルドの酒場と仮設のホールと化した修練場だ。


 次から次にオーダーが入る。

 厨房を手伝うガーディアン、給仕をするガーディアン、積まれた皿とグラスの山と格闘している。

 ギルドの酒場給仕の女の子に交じり女性のガーディアンは、身を守る防具ではなく際どい衣装を身に纏っている。


 その中に、ログの村から一足先にギルドに戻っているミルの姿があった。


 客達はワイン、ジン、エールで酔いも程良く回っている。

 それに輪を掛けて男達はミルの妖艶な色気に酔った。

 高価な年代物のワインをミルの気を引く為、オーダーする貴族の客達もいた。


「なあ、君、私の屋敷に来ないかね」

 好色な笑顔を浮かべ貴族と思われる中年の男が言った。

 平民に向かい貴族が屋敷に誘う事は『夜の相手を務めろ』と言う意味だ。


「あら、屋敷で催す聖誕祭のダンスパーティーのお誘いかしら?」

 ミルがとぼけて答える。


「はぁはぁはぁ! その様な催しはない。この様な下々な酒場を止め、私の屋敷で働かんかね? 君の様な美しい女性は高貴な貴族の屋敷の方が似合うと思うのだがね。ダンスがお望みなら寝室でお相手しよう」

 ミルのとぼけた答えをあざ笑い好色な笑みを浮かべ中年の男が言った。

 貴族の方から屋敷に来いという場合の大半は“(めかけ)”つまりは“愛人”になれという意味。


 その事を勿論、ミルは知っている。

「私が美しい? 光栄ですわ。でも……美しい物にはトゲがありましてよ? ご存知かしら?」

 妖艶な笑みを浮かべたミルが返す。


「美しい物全てにトゲがある訳でもあるまい。そなたの様なか弱い女性、私は魔法に長けている。ここのガーディアン等話にならんよ。もし、屋敷に来てくれるならば、そなたの装飾している安物の宝石等ではなく高価な物を与えよう。どうだね?特別待遇で迎えるがね」


 ミルが身に着けている宝石は装飾類は安物ではない。


 この田舎貴族程度が買える代物ではない高価な物だ。


「大そうな目利きでいらっしゃいますのねぇ? 身に着けている宝石の値で旦那様のお屋敷が建ちますわ。それにガーディアンの実力をご存知かしら?」

 ミルはからかう様に言った。


「ガーディアン等、たかが騎士の真似事、最近少しばかり人気の職になったと思い調子に乗りよって、けしからん。依頼も難易度が高いものは王宮の親衛隊クラスの(つわもの)が事実、大半をこなしているではないかね」

 あざけ笑うように中年の貴族が鼻を鳴らし笑った。


 実際、まだガーディアンの多くが、殆ど単なる傭兵レベルの者が占めているのも間違いのない現状だった。

 まして高ランクの依頼をこなせるS級、又はA級クラスのガーディアンはまだまだ足りてない。

 高ランクの依頼は王軍を動かすよりコストが掛からない依頼か王軍の手に余る程の危険で困難な依頼が守護者ギルドに廻ってくる事になる。洗練された軍の損害を抑える為である。


「私、こう見えてもガーディアンですの? 宜しければ試しにお相手いたしますわ」


「はぁはぁはぁ! 本気かね? 君の様な女性がガーディアンかね? 冗談も程々にしたまえ。しかし、ベッドが戦場ならばお相手しよう」

 馬鹿にした様に男は笑った。


「先程……申し上げましたが美しい物にはトゲがあしましてよ」

 これまで酒場の客で貴族という事もあり冗談を交えのらりくらりと交わしながら話してきたミルだったが流石に頭に来ていた。


「そなたのトゲ等何の事はない。私のトゲがそなたの身体を貫くのだよ」

 下品な笑みが男の顔に浮かび上がった。


 ミルの気は決して長い方ではないが今日は聖誕祭でもある。

 何時もなら既に怒りで魔法を唱え決着が着いているだろう。無論、ミルの勝利での決着である。

 ミルにしてみれば特別におふざけに付き合ったに過ぎないのだ。 

 腹に据えかねたミルは、ワイングラスの液体を中年貴族の薄くなり掛けの頭上から飲ませた。


 男は屈辱を受け顔が歪み震えた声で言った。

「何の真似かね? 平民のガーディアン風情が調子に乗りおって」


「サービスですわ。グラスで足りないのでしたらボトルで飲ませて差し上げますわよ? 勿論お勘定はそちら持ちでね♡」

 ワインの入ったビンを手にミルが頭上で傾ける。


 ビンの中のワインが零れそうなった時、その手が遮られた。

 その手を遮ったのは、モルドールだった。


「危ない所だったわねぇ」

 何時もの声色でモルドールが言った。


 貴族の男は身体を小刻みに震わしている。


「貴族に対して、この様な無礼許されると思ってるのか。本来ならこの場で殺されても文句は言えないのだぞ。身分を弁えろ」

 男が憤り吼えた。


 屈辱と怒りで憤る貴族に向かい静かな声でモルドールが言う。

「そんなに吼えるなよ。危ない所を助けてやったんだから」


「なんだと。折角の聖誕祭だ。大目に見てやったら付け上がりおってガーディアン如きに王軍の軍歴がある。私に勝てるものか」


「勘違いするな! 軍歴が多少ある程度でこの娘に勝てると思うのか? 相手の力量も測れない奴に勝てる相手ではない。ミルにこの娘に勝てる兵等、この広い世にそうはいない」


 中年の貴族は、何時もの口調から変わったモルドールの迫力に押され背筋が凍りつく思いがしていた。


「ふん。聖誕祭に死人が出るのも縁起が悪い。この辺にしといてやる」

 中年の貴族は迫力に押されしぶしぶ引き下がった。


 モルドールの声色が何時もの口調に戻り貴族の男に言った。

「あらぁ、解って貰えればいいのよぉ! ここは楽しく飲む酒場、愛人探しは他であたってねぇ」



 他の給仕はオーダー、ホストに追われててんてこ舞い。

 そんな中に一人、何かを考え気が気でない人物がいた。

 アイナだ。


 アイナは落ち着かず周囲に気が配れない。 

 時折、給仕や客とぶつかったり注文を聞き落としたりと集中できない様子だった。

 騒がしい宴の中でも何も耳に入ってこない。

 ぼんやり歩いていると男性の客とぶつかりった。

「きゃぁ!」

 ぶつかった拍子にバランスを崩し椅子にぶつかりトレーにのせられた料理が座っていた男性客の頭上にぶちまけた。

 アイナに向かい、ぶつかった客と料理を頭の上にご馳走してしまった客に詰め寄る。

 二人は若い男性だった。


 そこいらによくいるちょい悪気取りの青年がアイナに文句をつけ始める。

「おい、何処見てるんだ」

「何してんだ」

 男たちの罵声もアイナには届いてない。

 いくら捲し立ててもアイナは上の空だ。

 アイナに悪気はないのだが、客にはその態度が余計に気に障る。

 一人の男がアイナを見て言った。

「へぇー!よく見ると結構かわいいじゃないか。俺好み。胸も俺好みのサイズかな」

 言が早いか触り始める。

 もう一人の椅子に座った客も便乗しお尻を撫で始める。


 そんな事をされたら何時ものアイナならたちまちぶち切れこの男たちは、この世とおさらばしているかも知れない。

 今やガーディアンのシオンを拳一つで眠りの世界に誘う程の隠れた実力者だ。


 アイナは、なんの反応も示さない。

 触りたい放題アイナに触れる手を遮る手が延び二人の手首を掴んだ。


 そこに立っていたのはティアナだった。

「あんたね! なにボーっとしてんのよ!」

 

 ティアナの声でアイナは、我を取り戻す。

「シオンと母様が……心配で……心配でぇ……」


「まったく! だからと言って黙って触られてるんじゃないわよ!」


「でも……」


「仕方ないわねぇー……こっちにいらっしゃい! ログの村に行かせてあげる。モルちゃんに見つかると止められるから、ログに向かう為の足は私が用立ててあげる」


「ティアナ……」


「私もシオンが心配……二人も酒場を抜けられないからアイナを行かせてあげるのよ! 母様の事も気になるだろうしね」


「ありがとですぅ……ティアナ」


「その代り! シオンの事頼んだわよ……アイナ貴方も無事で帰って来なさいよ! ……約束だかんね!」


「うん!……ですぅ」


 それぞれの聖誕祭が時を刻んで行く中、夜空は雲一つない空に楽しげに煌めいき星達は踊っている。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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