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〜 混沌への前奏曲 〜 第十二話

 ◆GETA12 帰還


 静寂の包む空気が肌を冷たい刃に変え切り刻まれている様に感じる時間が流れた。


「俺は何処の国から来たんだ?そこに家族は居たのか? 仲間は? 大切な人は待ってるのか?」


「話してもいいのですか?」

 リーシャは静かに問い直した。


 シオンはリーシャと向き合っていた。

「俺の事を知っているて事は、お前は……リ、リーシャは俺達は何処から来たんだ? この艦は? この国のものじゃない。いや、この世のモノじゃない様に思えるんだ」


「それは……」


「それは?」

 シオンは自分が何者なのか、何処かの国から来たのか知りたいと思った。

 その思いとは裏腹になんとも言えない不安な気持ちも広がってくる。

 

 そんなシオンの様子に気付いたリーシャがゆっくり口を開いた。

「私にも分からない現状NOAと件のKISINには謎が多過ぎます。貴方の国はと聞かれましたら『ここ』ですと答えます。ですが、貴方の質問に答えるべきかリーシャは悩みます。何処から来たのかと言う問いに」

 無表情、無感情だと思われた、このリーシャが眉を顰め悲しげな表情を作りだしている。


「わーったよ! 俺の心拍と脳波を察知して気を使ってくれてるんだろ?」


「私はその様な感情を持ち合わせてはいません。私が答えれば、貴方の最初の問いから深い所まで入り込んでしまいます」


「いやな……今、苦しそうな表情をしたからな。多少の感情とか、有るのかと思ってさ」

 シオンは、そう言うとやわらかい笑みを作ってリーシャに見せた。

「リーシャはさ……あっ! 小さいリーシャの方な! あいつはさ……何時もこんな風に微笑むんだ。都合のいい時や甘える時だけ『お兄ちゃん』て言ってさ」


「私にもそうしろと仰るのですね」


「違う! お前、リーシャは何処からどう見ても人間と変わらない。外見だけだけどな……なんつーか笑ったり泣いたり怒ったりしそうなんだよな! てか、覚えろよ、人間の作る表情とかさ……何言ってんだ俺、はぁはぁ」


「お優しくなられなしたね? シオン」


「そうか? わかんねぇーよ……それよりこれ動くのか?」


「いいえ、現状の状態では動きません。自己修復を行って大分回復してはいますが、ケイオスとの干渉時に大破した船体ですから不時着時に衝撃吸収ダンパーに最大限に全システムを回しましたから、内部の衝撃までは吸収し切れずメインエンジンとグラビィティーコントロールシステムに甚大な被害が残っています」


「よくわかんねけど、アイナ達が俺を見つけた夜。静かだったのはそのせいか?」


「ええ、そう考えて頂いても良いと思われます」


「現時点で何が出来るんだ? このNOAって船は」


「現在NOAのシステムは完全ではありません。この周辺の調査もままならない状態です。この世界が何処なのかNOAのシステム復旧を急ぎ完了後、本格的に調査を始めます。が、ここに至るまでの海上を降下中にラボと思われる信号を受信した記録が残ってます。急ぎ答えを出すのは危険だと思われますが、恐らくケイオスの崩壊時、我らの世界の一部もこの世界に飛ばされたと思われます。それが何処の時間軸に堕ちたのかまでは解りかねますが」

 言葉が途切れ暫しの間を置きリーシャの言葉が続いた。


 リーシャの表情を見て話を逸らせたシオンは、落ち着かない気持ちを呑み込む様に大きく息を吸い込んだ。


「シオン個人の記憶は貴方の中に眠っています。時が経てば追々思い出すでしょう。必要になれば思い出す事もあるかも知れません。宜しければ貴方がこれまで過ごした経緯を情報として収集したいと思いますので話して頂けますか?」


「ああ」

 シオンは短く頷くと自分がアイナ達に助けられラナ・ラウル王国での生活が始まった事を話し出した。

 シオンが話し終えるとリーシャがシオンに尋ねた。


「そろそろ戻られますか?」


「そうだなぁー戻るか。廃村の事も気になるし遅くなるとあいつがギャ−ギャ−うるさいから」


「これ以上、貴方の事を話さなくて良いみたいですね?」


「ああ、話していて思ったんだ。俺、もう少し今のままでいたいんだ。今、俺の居場所はここにあるからさ」

 シオンは嬉しそうにリーシャに微笑み掛けた。


「地上までお送ります」

 リーシャがそう言うとシオンを促し扉の前にシオンを立たせ扉を開いた。

 水はチューブ上の光に遮られている。

 どうやら水面に向って延びている様だ。


「ここは?」


「大きな湖の湖底です。今はそれしか」


「ラウル湖……」


「ラウル湖ですか?」


「分からないけど、俺が倒れていた場所は大きな湖の畔だったんだとさ、その湖の名がラウル湖て言うんだ。近くに小さな村と廃村があれば、ビンゴだぜ」


「その二項は現状把握の中に確認されています」


「なら、送り先は廃村の近くに頼む」


「分かりましたではそちらに」


 去り際にリーシャがシオンに言った。

「困った時、必要な時が来たら何時でもいらしてください。いいえ、用がなくても貴方の来たい時にいらしてください。ここもまた貴方の居場所なのだから」


「ありがとう。リーシャ」

 シオンは嬉しそうに短く答えた。

「こちらこそ、ありがとうございました。エロエロ? いえ、いろいろですね」

「また寄るよ。その時はメンテしてやっからな」

 顔を赤らめシオンは、地上に向う光のチューブの中に足を踏み入れた。

 光のチューブはその身を流れに乗せるかの様にシオンを地上へと移動させ始めた。



 その頃、陸上ではレイグとコバカムの二人が顔を見合わせ最後の術式も終盤に差し掛かり安堵の笑みが零れそうになった時、新たな巨大魔法陣が姿を新たに姿を浮かび上がらせた。


 この国のモノとは、違う術式の魔法陣は見たことのない魔法陣が描かれている。

 全貌が見えてくるに従い二人の驚きと戸惑いを隠せず、口をポカーンと開きお互いの顔を見ていた。


「見た事がない魔法陣だな。図式も術式も違う」

 レイグが呟いた。


「この魔法陣はラナ・ラウルで用いられている魔法陣じゃない。この大きさ本当に魔法陣なのかさえ疑わしい」

 コバカムが表情を引き締め真顔になり次いで苦々しく声を絞り出した。


 今二人は、レイグのグリフォンの乗り上空からその全貌を眺めている。


 解除中だった巨大魔法陣に巧妙複雑に重っていたもう一つの新たな魔法陣。


 二つの巨大魔法陣は、その大きさ故に全貌に気付かず、一つの巨大魔法陣の解除中その一部を見つけ違和感を感じたのだった。


 新たに現れた魔法陣も上空から見下ろさなければ全貌は見えなかった。

 しかし、微かな月明かりの中ではっきり見えない。

 微かな明かりを頼りに低く飛び、慎重に周囲を測る。


 廃村全土が歪な形状の魔法陣になっていたのである。


「これだけのモノを一体誰が、なんの目的で作ったんだ」

 レイグが独り言の様に呟いた。


「さあね? これだけの事を成すにはそれ相応の時間を掛けている筈だよね。御丁寧に僕達が解除した術式を(ブラフ)にしてる」


「これだけ大きな術式を用い魔法を行使すれば、それなりの触媒になる媒体が必要だろうな」

 レイグの言葉にコバカムが答える。


「御尤もだね。その触媒なんだけど……なんだか悪い予感がするんだけど……言っていいかい?」

 コバカムは一度、言葉を飲み込み躊躇しレイグに尋ねた。

 レイグも悪い予感に気付いている。

「悪い予感は、余り聞きたくはないけどな。試しに言ってみな」


「この魔法陣の触媒は……多くの人柱。……だと僕は考えている」

 コバカムの言葉にレイグは顔を顰める。


 知ってはいた気付いてはいた解ってはいたが、人を触媒に使う非道な魔法の陣。

 二人は、それでも苦い顔をするしか出来なかった。


 それでもコバカムが言葉を捻り出す。 

「ここから本題、僕達が最後に解除した術式は四系統ではなく召喚の術式だった。何らかの生命体を呼び出す為の術式。そして……その媒介に成り得るのは同じく生命体の情報または生命エネルギーそのものが必要になる」

 二人は自分達の頭の中を整理しながら話し出す。


 まず、レイグが状況をなぞる様に言葉を切り出した。

「俺達がここで戦ったガーゴイルの数、あれだけの数を一度にどうやってと思っていたが、この陣を使えば或いは可能か」


「恐らくあのガーゴイル達は魔術師が召喚したに違いない。この魔法陣を使ってね」

 そしてコバカムが媒介の推測を語った。


「ちょっと待て! 兵士達は」


「たぶん」


「だからその間、亜人や魔物の出現が抑えられていたんだよ。触媒の効力が弱かったから、もしそうじゃなかったらもっと強力なモノが多数召喚されていたかも知れない」


「結果オーライってやつてか……」


「この見慣れない魔法陣。一体どんな魔物が召喚されて来るのか見当がつかないな。それに必要な触媒はどれだけの人数になるんだ? 基礎が四系統の術式である事を願うな。しかし、発動すればどちらにしても膨大な被害が出る事になる」

 レイグは背中に冷たいものが流れるのを感じた。


 考えるだけでもおぞましい。

 四系統の術式ならば触媒である精霊石を排除すれば魔方陣の効力は失われるからだ。


 召喚の術式も同様だがその望みはコバカムの言葉で砕かれた。

「恐らく。願ってない方だよ」


「根拠は?」

 レイグは右手を顔に当て神妙な口調でコバカムに聞いた。


「第一に四系統の術式をこれほど長く維持させるには相当量の精霊石を必要とする。これだけ巨大な式を発動させるには貴重な精霊石を大量に使う。長い時間その場に潜ましておく事は、財宝を野山に置いておく行為に等しい。誰かが掘り出し取り出される恐れがあるからね。そして決定的とも言えるのが……」

 コバカムは腰を屈めて術式の描かれた地面の土を掴んだ。

 その土を鼻の先に寄せた。


「鉄臭いな」

 レイグが感じたままに言葉を発した。


「僅かだけどね。微かに感じるだろ?」

 レイグが素早く反応する。


「まさか!?」


「そのまさかだよ。この魔法陣そのものが人間の血で描かれているんだ」


「これだけの血を使っているのに、これまで誰にも感ずかれず作業出来たんだ! これだけの人がいなくなれば騒ぎになるだろ? 普通」


「なったさ。開拓村がオークに襲われ村は全滅したってね」


「開拓に来ていた人数だけでは、これだけの魔法陣を描けない。千人いや、それ以上必要だろ? この村の規模からして発掘者が住めるのは百人前後が限界だ」


「そうだろうね。でも長い時間を掛けて開拓していた。ここに来る労働者は数知れないだろ?」


「その割りに掘られた坑道は少なかった」


「つまり、本来の目的は魔法陣を描く為、開拓に雇われたのは市民権を持ってない最階級の者達、或いは不法入国者だとしたら大した騒ぎにならないさ」


「魔法陣の解除は? どうやればいい? 封印! これだけ複雑な魔法陣、ダメだ二人では……」

 レイグが頭を抱え込み必死に考えるが、この場で処理する方法は見つからない。


「打つ手無しだね」

 コバカムは両手を挙げ首を振った。


 術なく闇にたたずむ二人を月明かりがやさしく照らし出していた。


 To Be Continued

 

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もおたのしみに!

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