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〜 混沌への前奏曲 〜 第十一話

 ◆GATE11 混迷


 艦内は常温を保っているのに体感より冷たい空気が重く苦しくシオンの心を押し潰す。

「リーシャ……」

 

「彼女は貴方と一つになれる道を選択したのです。貴方と共に在りたいと願いKISINのコアとなったのです。では、貴方の事について話しますが、その前に手伝ってほしい事があります」


「……分かった」

 シオンはリーシャを失くした悲しみとリーシャ自身が残した言葉に嬉しさを感じながら、震える唇をかんだ。



 今のシオンからすれば、初めて見る筈の艦内と知る筈のないブリッジの装置、器機類の操作が何処と無く解る自分自身に対する記憶への好奇と不安が押し寄せる。


 変わる事の無い表情で大きなリーシャが口を開いた。

「どの様な人間だったと言われましても困ります。もっと具体的な質問でお願いします」


「俺自身の回りにいた人達の事、俺を待っているであろう、人達の事を聞きたい」


 しかし、それを聞けば決断しなくてはならない。


 記憶の外にあるもう一つの自分とその世界。


 ラナ・ラウルでの生活とギルドの仲間達との日常とたぶん好意を抱いているだろう、アイナ。どちらかを選ばなければならなくなる。


(今は、それを選択できない。したくない)


「どうかしましたか? 何から話しましょうか? シオン」

 うかない顔つきをしているシオンに、大きなリーシャが様子を伺う。


「ああ、ごめん、そうだな……性格とか? 人格といいますか後、普段の行動とか」

 慎重に言葉を選びシオンは尋ねた。


「他の者達と比較し態度は不真面目、やる気が見れない。何時もピリピリとしていて怒っている様に見えました。模擬訓練の成績は最下位、基本戦闘能力は低く、精神力(魔力)も低い。そして不安定です」


「つまり落ち零れ? て事かな?」


 リーシャは、常にシオンの心拍と脳波を感じ取り他の記憶に触れない様に言葉を選んで答えている。

 

「そうですね」

 感情のない透き通る様で何処か曇る様に消える声で大きなリーシャが短く答えた。


「……即答かよ」

 ガーディアンズ研修を比類ない程の成績で終えたシオンは、何だか納得いかない。

 まるで違う自分だったが、確かに思い当たる所もある。

 シオンは複雑な表情を浮かべ、大きなリーシャに目をやった。


「しかし、知性、戦闘、戦術の植付け(記憶)に関しては他の者達と比べものにならない位に早く、記憶データ)の容量については底が見えな限界の淵が見えませんでした。それはまるで広大な砂漠の乾いた砂が水を吸収する如く。時折見せる潜在的な能力は計り知れないものでした。そしてそれ故にKISINとリンクする為の外部媒介に選ばれた優秀な個体です。貴方は」


「落ち零れで優秀? て意味わかんねぇ。俺って確かに怪我の治りは早いし時折、とんでもない事やらかしてるみたいだし不思議ていや、不思議だな? うん」

 シオンは、よく解らない内にヘンに納得をした。

 違う納得しようとしているのかも知れない。


「他の者達にも最低限の感情はありましたがそれに比べ、貴方はあらゆる感情の波が激しく不安定。それに貴方が他の者達と決定的に違っていた事があります」


「違っていた事?」


「その事を話してしまうとその後の生活に関する事になります。貴方の欲しがっている情報以外の事柄に底触しますが? 宜しければお話いたしますが?」


「生活に関する事になる?」

 大きなリーシャが、わざわざ問い直して来た事でシオンの中に大きな不安と恐れにも似た感情が再び押し寄せる。


(気になるけど……今はあいつの傍に居たい)


 よく解らないが、大きなリーシャが話した“創られた人間”と言う言葉を聞いた後、アイナ達と出逢い記憶を無くしてからの生活がとても心地よく大切に思えてくる。


 そして確かに芽生えてい事に気づく。


 その時の感情は記憶を失くす以前にあったのかも知れない、それを知る事が今は恐い。

 暫らく考え込んでシオンは答えた。

「それは何れまた、という事で」


「では、貴方の行動について、特にA・M。その他の兵器等を含む機械類を理解し修理、操作をする事、扱う事については誰よりも長けていました。その他エロエロです」


「エ、エロエロ? って、いろいろの間違いでは?」


「貴方の場合エロエロの方がシックリときます」

 今までとは違う意味で記憶が戻る日の来る事が怖くなる。


「そうですね。例えば、こういう風にです」

 大きなリーシャが答えると身に着けていた衣服(軍服)の上着にファスナーに手を掛け一気に下げた。

 軍服の中には、たわわに実った果実が二房! プルル〜ンと幻聴が聞こえそうな勢いでシオンの目の前に現れる。


 そう! 男に人間の雄にとって永遠の果実! “おっぱい”それは、やわらかく甘美な誘惑の香りと危険な香りが漂う禁断の果実。


 野に自然に実る果実の様に断りもなく採ってはいけない果実。


 その果実を頂くには、それなりの礼儀と努力を必要とする果実。


 “おっぱい”それは無造作に欲望のままに手を付けると、とっても痛い目を見る事になる禁断の果実が目の前に、たわわに実っている。

 しかも、それはリーシャが自ら差し出したもの。


 シオンの脳が瞬時に切り替わる。“本能”が異性に対しての興味にで支配されていくのである。

 少年から青年に向う年頃のシオンも例外ではない。

 先程までのもやもやしていた期待と不安と恐怖から来る感情は何処かに吹っ飛び、別のもやもやが生まれて来る。


 シオンには最早、果実の事しか頭にない。

 そんなシオンの鼓膜が振動を脳に言葉という形で伝える。


「私、この辺がとても熱いのです。シオン? 弄ってください。何時もしてくれていた様に」

 乳房を自ら持ち上げリーシャの透き通る感情の籠らない人形の様な肢体は声と同様にシオンの視覚と聴覚を震わせた。


 まさに魔法だった。

 それに加え白く透き通る様な肌。

 アイナのまだ所々に硬さの残る肢体とは違う決定的な部分。

 くびれた上半身から程よい弧を描き腰から、すらりと伸びた腿へと繋がっていく。


 程良い肉付きは丸みを帯び、しなやかで魅力的に見える。

 男にとって、否! 生き物全種の雄にとって何よりもリーシャの呪文と媒体であるその肢体は強烈な魔法効果を生み出している。


「弄ってください」


 どんな魔法より強力な桃色のルーンが、シオンの脳髄を瞬時にとろけさせる呪文が更に飛んでくる。


「このままでは私、おかしくなってしまいます。お願い弄ってください」

 シオンの両手の指先は、その果実の甘い香りに誘われ集まる虫の様に伸びた。


「お願いです」


「と言われましても」

 言葉ではそう言いながらシオンの手が二房の果実の届く。


(こんちくしょう! 弄れたってねぇー。困ったな! 俺はあいつが好きな筈だよな? でも目の前に……こんなねぇー。アイナ……ごめん!)


 既に触っていながら困ったもへったくれもないが、それに何がこんちくしょうだか訳の分からないけどシオンは心が呟く。


「早く。お願いします」


「……」

 シオンの手が、すーっと胸元から離れる。


「どうしたのですか?」


「出来ねぇよ」

 そう言うと口元を真一文字に結んだ。


「何故? 記憶を無くしていてもシオンなら出来ます。貴方達にとってこの行為は本能の様なものですから出来る筈です」


「出来ねぇよ。(今、本当の自分の気持ちに気付いた。ここでの生活が……ギルドの仲間達との今が、いや! あいつとの未来がある)俺には、す――」

 シオンの言葉を遮る様にリーシャの声が割って入る。


「そんな! 酷いです。昔はあんなにも優しく弄ってくれたじゃないですか?「ダメ」と言っても無理やり……夢中になって弄ったくせに」


「そ、その覚えてないけど……なんて言うか。ごめん」

 シオンは苦笑を浮かべた。


「謝らないでください。この身体を癒せるのはシオンだけのモノ、私の身体でシオンが見ていない、触っていないところなんて何処もないのに」


 リーシャは自らの手でシオンの手を胸の膨らみに、そっと導いた。

 やわらかな感触がシオンの手の平一杯に広がる。

 やわらかい香りが漂い鼻の奥を鋭く刺激する甘いよい香りがシオンの男、動物の雄としての本能に訴えかける。


「俺は」

 脳裏に浮かぶアイナの顔。

 理性が本能を押さえ込もうとする。


 リーシャは、シオンの手を胸元からそっと離すと僅かに顔を伏せた。


「あっ!」

 名残惜しく思わず声を上げた。


 自分が先程まで触れていたのやわらかな感触が手に残る。


 リーシャは、そのままシオンの手を引くとブリッジから出て歩き出した。

 その感触を思い出すと顔が僅かに緩み夢遊病者の様にふらふらリーシャに手を引かれついて行く。


 どれ程か艦内通路を歩いてリーシャが不意に立ち止まった。

 シオンが我に返る。

 そこは治療後目覚めた自分の部屋の前だった。


「俺の部屋? ここで何するんだ?」

 心の中で激しい葛藤が現れ格闘し始める。


「シオンの部屋でする事は一つです。私を弄る道具が貴方の部屋にあります」


 気付いた想いとこの部屋で行なわれる行為への期待が葛藤を始める。


「私は貴方だけのお人形です。貴方だけをサポートする為に生まれたシオンだけのお人形。身体を弄ってください。そしてこの身体の熱を癒してください。私のマスター(ご主人様)」


(人間じゃない機械だからな。俺にやましい気持ちはない。そう、断じてない。断じてない。絶対無い)


 シオンは、自分に言い聞かせる様に何度も呪文の様に心の中で呟いた。


「し、仕方ねぇなぁー! ちょっとだけな! お前がそんなに言うから仕方なくだからな」

 ついに本能が理性を完全に押さえ込んだ。


 何がちょっとだけなのか分からない。

 やる気満々の顔で分かり易い嘘を言葉にするダメな奴である。


 落ち着かないシオンは、そわそわしながら辺りにを見渡していた。

 ベッドの上に無造作に置かれている本に気が付く。

 

 その表紙の人物はリーシャだ。

 その中身はその人物の日常、仕草等を写した物を一冊にまとめた物らしい。

「これは? お前だよな?」


「違います。その方は私のモデルになった人物です」


「モデルねぇ」



 なんだか残念そうな顔でシオンはリーシャの胸元で指先を懸命に動かしている。


「流石。お上手ですね」


「そうか?」


「そろそろ中にも潤滑油が回って来た様です」


 シオンの手が胸元から下腹部に下がって行く。


「そこ! そこは……シオンにしか触らせない大切な場所だから大切に扱って下さいね」


「解ってる。ここはデリケートな部分だから優しく大切に扱うよ」


「お陰で嘘の様に身体が軽いです。関節の動きも、ほら! こんなに滑らかです」


 リーシャは身体のメンテナンスをシオンに頼んでいたのだ。


「そりゃどうも。はぁ……」

 シオンは軽い疲労感と遣る瀬無さに溜息を吐いた。


 To Be Continued

最後までお読みくださり誠にありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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