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〜 混沌への前奏曲 〜 第一話

†人形使いとゴーレムナイト† 第四弾!


世界が混沌へと向かう物語。


二つの物語が重なろうとしている。

 ◆GATE1 伝えたい気持ち


 王都オースティンの城下町は明日から迎える“聖誕祭”の準備で慌ただしい。


「シオンあのですねぇ?」

 アイナが何か言い難そうにベッドの上に正座で、もじもじと指をマットの上で捏ね繰り回し時折、腿の辺りに指を移しては、もじもじしながら言った。


 シオンは本日の戦いの傷と魔力の大解放の疲れでソファに倒れ込むとそのまま身動ぎもしない。

 シオンの回復力が人並み外れたものであっても、つい先程まで瀕死の状態だった。


 リーシャ達が出来る限り傷の治療に癒しの魔法を掛けたとはいえ、まだ少年のシオン身体が自身が持つ“眠れるちから”を引き出しシオンの身体自体が、その力を持て余している。


 アイナは自分を助ける為に命を掛け傷ついているシオンに複雑な思いを抱いていた。

 自分はシオンの為に何もしてない。

 何もしてやれない。

 せめてベッドで癒しの魔法で介抱してやりたいのだが、帰りのペガサスの上での事を思い出すとどうにも恥かしくなってしまう。


 シオンが歯の浮く様な演出をした上、アイナもそれに乗じ言わば自分からキスを求めた様なものである。


 シオンの状態は心配だが、こんな時も恥かしがるアイナ。


「シオンてばですぅ――あの、今日はありがとですぅ。その――」

 指を捏ね繰り回しながらアイナが言うとシオンが苦しそうに答えた。


「どうしたんだ? らしくねぇな」

 それはシオンが歯の浮く様な演出をしたせいだが……。


「シオンとアイナがぁ――、あの……ベッドでしてもいいですぅ」

 顔を赤らめアイナが甘たるい声で言った。


「な、何言ってんだ? 気持ち悪い声出しやがって」

 シオンは何をしてくれるんだか分からずに暫し考えた。

「気持ち悪いとは、ききずてならんですぅ――! たまにはこういう時もあるですぅ」

「で、何してくれるんだ?」

「そ、そのシオンが疲れてるならア、アイナがベッドでし、してやってもいいですぅ」

 しどろもどろにアイナが言った。


 シオンは初めアイナが何を言いたいのか解らなかった。


 ベッドの上で男と女がする事といえば……。


 傷はまだ痛むし疲れも激しい。

 しかし、女のアイナからの申し入れ恥をかかす訳にはいかない。


 ――据え膳喰わねば男の恥!!


 激しい勘違いに陥りながらアイナの傍まで来るとアイナの両肩を掴んだ。

 

 いきなり肩を掴まれたアイナが身体を強張らせている。

「べ、別にそのなんだ。助けた礼とかそんな積もりなら無理しなくていいんだぞ」

 シオンは思わず唾を飲み込んだ。


「そ、そんなんじゃないですぅ」

 アイナが躊躇いがちに顔を赤らめた。

 

 シオンがアイナをベッドに押し倒し「本当にいいんだな」と聞き返す。


「べ、別にかまわんですぅ……何度もアイナを助けてくれる。シオンに少しでも恩返しをしたいですぅ」

 アイナは、シオンのブルーの瞳から視線を外した。

 

 何時もは毒舌のアイナが、しおらしく恥じらう姿は、その落差も手伝い神懸かり的なまでに可愛く見える。


 シオンが言い掛け組み付こうとした時。

「始めますぅ! 横になって下さいですぅ」

 アイナの顔が優しい笑顔に満ちていた。


 アイナの言う通りにそわそわしながらシオンが横になるとアイナはシオンの傍にちょこんと座った。

 ついにこの時がと思った瞬間。

「癒しを司る精霊よ 汝、古の盟約に従い 我の力となり応えよ」

 アイナが治癒魔法を唱えた。


 アイナの治癒は優しく温かい魔法に思える「ああ! これはこいつの想いの籠った魔法なんだ」とそっと目を閉じシオンは思った。




 治癒魔法を終え、アイナはシオンの隣に潜り込みそっとシオンの肩に頭を乗せた。


 いよいよこの時が来た! アイナを抱きしめた。

「どこ触ってやがるですぅ」


「あれ?」

 なんとなく違う態度のアイナに戸惑うシオンだった。


「ど、どこって胸だけど……背中? だっけ?」


「せ、背中って! む、むむ胸ですぅ……」

 アイナは少し怒ったような照れる様な様子だ。


 アイナはシオンの予想外の行動に本びっくりしただけ、一番聞きたい言葉をシオンの口から聞いてない。

『アイナが好きだ』とはっきり想いの伝わる言葉が欲しい。

 流れされた雰囲気の中で愛し合う事はしたくない。


「誰ってお前だよ?」


「シオンはそ、その……何もアイナに言ってないですぅよ?」

「はぁー 言うって何をお前に言うんだ。嫌だよなやっぱり」

 シオンが首をがっくりと落として言った。

「その、シオンが嫌とか……じゃないですぅ。こうゆう事はですねぇ……えっとシオンが元気になってあの、シオンがちゃんと言ってくれたら許してやってもいいですぅけど……」

 アイナが顔を赤らめ視線を下げた。


「俺はお前を護りたい。この思いがそうだとしたら『好き』なんだと思う。言わなきゃ解らんねぇのかよ」

 シオンはこれ以上ない程に顔を赤らめ小声で呟く様に言った。

 その言葉を聞いたアイナはこくりと頷く。


「じゃぁ言ってですぅ」

 アイナはシオンの目を見て言った。


「俺はお前を護りたい」


「そんなんじゃ、だめですですぅ!『アイナが好きだ』と言わなければだめですぅ」


「俺、お、お前の事が、す、好きなんだ」

 シオンが言うとアイナの目を見る。

 アイナはシオンが好き。

 この気持ちに間違いはない。

 しかし、シオンの言葉にまだ不安がある。


 シオンは? 本当にアイナが好きなの? ほんとの本当にアイナが好きなの? アイナにえっちぃ事したいからこの場だけの『好き?』助けてくれるのはアイナが、シオンの一番古い知り合いだからかも知れない。

 護ってくれているのかも知れないと思ってしまう。


 アイナの問いに答えてくれる『好き』どちらかはっきりさせたいアイナだった。

 シオンはそんなアイナの気持ちに気付かずにアイナに襲い掛かる。

「俺、アイナが好きだ」

 シオンはアイナが『好き』には違いないが、どの意味で『好き』なのかはっきりと分からない。

 ティアナもミルもシオンにとって『好き』には違いない。

 良くは分からないが何時も一緒にいると何より気になりどきどきする人はアイナだ。

 そのままシオンがアイナの胸に優しく手をのせた。

「だめですぅ……シオン……」

 シオンの気持ちに不安の残るアイナがシオンの手を払った。


「どうした? 嫌か? だよな。いきなりだしごめんな」


「あ、あのですねぇ、ほら! シオンの体調もありますし……その――、あ、改めてアイナの初めを……あ、あげてもいいですぅ」

 アイナは顔を真っ赤に染めて俯いた。


「無理すんな。でも、少しだけこうしていてもいいか」

 アイナは恥かしそうに、小さくと頷いた。

 

 シオンはアイナを優しく抱きしめ言った。

「お前は俺にとって大切な人なんだ。それだけは間違いない」

 シオンの言葉にアイナが頷く。


 暫し二人が抱き合ってると突然、扉が叩かれ開いた。

 シオンの怪我を知りティアナが来たのだ。

 ティアナが入って来ると、それに気付いたシオンとアイナは、何事も無かった様にサッと離れた。


 ティアナは目を細めで暫く二人の様子を窺っていた。

「あんた達! 何してたの? アイナ! シオンを色仕掛けで誘惑してるの?」


「ち、違うですぅ――! それはティアナですぅ! シオンの部屋に入り込むベッドで寝てましたですぅ」


「だって……私、シオンが好きだもの。それにキスだってしたんだもん」

 ティアナが得意げな笑みを浮かべた。


「ば、馬鹿、あれはお前がいきなりしたんだろ!」


 アイナの気持ちに再び不安が過ぎる。シオンと離れていた間、二人は何をしていたのだろう?

 シオンとキスはアイナもした。


 もし今回さらわれたのが、ティアナだったとしたら、やっぱりシオンは助けに行っただろう。

 自分も単にシオンにとって大切な人の一人に過ぎないのではないだろうか? 


 ――アイナの中に生まれる曖昧な『好き』言葉の境界線。


 ただ戸惑うアイナの耳に飛び込んでくる声があった。


「あら喧嘩? シオンの取り合い? ティアナにアイナ。それもいいけどマスターが呼んでるわよ」

 部屋の外からミルの声が聞こえた。



「明日から聖誕祭だからギルドの酒場も忙しくなるから手伝ってほしいそうよ」


 明日からの聖誕祭に向けオースティンの街は忙しくなる。

 地方からの王宮への来訪者やフィクス・ルミナリスを訪れる人々でごった返すからだ。

 その街外れにあるギルドの酒場もその準備に忙しくなる。


 ローゼアールヴァル一階の薔薇妖精の酒場。

 酒場の壁には普段は見られないイベント用クリップボードが掛けられているが、これは何時ぞやシオン達が話していたボードである聖誕祭の期間フィクス・ルミナリスの実が付き実るまで掛けられる。

 薔薇妖精の酒場の客は老若男女問わず訪れる、筈。


 男達は可愛く際どい衣装の給仕目当、女性客は今や人気職のガーディアンが店で給仕をする事も飲みにくる事もあるからして、それを目当で来るのだ。

 

 女性限定のクリップボードは簡易依頼版みたいなものでお目当のガーディアンをフィクス・ルミナリスの実、三日間の内一日貸し出しをするのだが勿論無料である。

 誰の依頼書になるかは抽選で決められる。


 そんなこんなで依頼を請けてないガーディアン男性陣と女性陣、そしてアイナと冬休暇のティアナも店を手伝わされる事にしたモルドールだった。


 本日、聖誕祭に向け衣装合わせをしていた。

「うぅ――恥かしいですぅ」

 首紐から掛かる胸元には柔らかいふわふわとした綿毛の付いた布が、気持ち程度あるだけで中央は絞られ背中側で結ぶための紐がある。

 下履きも同じ素材の布で出来たもので腰紐は細くなっていた。

 その上から短い丈の色の付いた半透明の腰布を巻き、足元はヒールから紐を網掛けにし膝下でリボン結びにしている。

 頭に猫の耳を付けた姿である。

 アニマル妖精の酒場亭バージョン。


 ミニスカートのメイド服。

 胸の先端ギリギリの位置から布があり胸元までざっくりと開いているので乳房が露わになっていた。

 フリルの着いた前掛け足元には二ーソックス。

 メイド妖精の酒場バージョン。


「きゃぁ! 私て最高にかわいい――」

 恥かしがるアイナを尻目に、キャッキャと騒ぐティアナが浮かれていた。


「はぁ……、な、なんか全部えっちぃ衣装ばかりですぅ」

 アイナは小さく溜息を吐いた。


 その中に異彩を放つ女性がいる。

 艶々革の衣装は臍の下から肩までブイ字に開き紐で網掛け状に肌蹴ない様に絞められている。

 臍の下は腰に掛けて際どく切れ上がっていて高いヒールのニー丈ブーツを履いていた。

 ボンテージ姿のガーディアンその人物はミルであった。

「ミルさん? なんか違うような気がします」

 誰かが言う。


「そお、わたくしにはお似合いの衣装でしょ?」

 ミルが熱っぽい視線と妖艶な笑みを浮かべた。

 街を見下ろしている『ホワイトディルムン』は夕陽を浴び赤く衣を変えていた。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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