表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子会、本能寺!  作者: 千侑
4/4

桶狭間店の戦い3

13時になった。突然のゲリラ豪雨である。視界は悪く、余程の用がない限り外には出たくない天気だ。


信華の2つ目の作戦が決行されていた。


実は桶狭間店周辺には、高齢者の割合が多い。昨今一家に一台のパソコンがあるといっても、中には触ったこともないという住民も多かった。ここが、通販部門の売上を伸ばす機会である!信華が実行したのは『訪問通販』だった。


「こんにちは〜前田と申します」

豪雨の最中、一組の老夫婦のもとに織田の従業員が訪れていた。どうやら服を販売しているらしい。今時押し売りかと思いきや、従業員は移動性端末機器を取り出しただけだった。

「これはオダブレットと言います」

「俺、こういうのは分からんわ」

「インターネットで服を買えますよ。このオダブレットは無料で貸し出しています。使い方は、欲しい服を選んで指で押して…」

最初難色を示した夫婦は、説明を聞き続ける内に笑顔になった。機械は無料で、ほしいときに服だけ買えるらしい。いちいち店まで出掛けなくていいし、近所に何を買ったか見られることもない。買い間違えたり、サイズが合わなかったりしても返品・交換できるので安心だ。音声検索もしてくれるので、探すのも容易い。何より機械の操作は思ったより簡単で、最新機器が使うことができるという自信を与えてくれる。従業員が帰ったあと、老夫婦はオダブレットを触り出したーーー。


信華は時計を見つめた。今頃、織田の接客のエキスパートが、各家庭を訪問しているはずだ。豪雨の分、給料は上乗せしなくては。オダブレット配布も、今回は桶狭間店周辺だけだが、そのうちもっと広範囲に配布していきたいものだ。



3つ目の作戦は、少しづつ成果を出しているようだった。以前から、広告を出し、口コミやSNSでも認知を高めてきたものだ。織田による今日のコーディネート、略してTOO(Today's Outfit by Oda)である。


世の中には、自分の服に自信がない人間が意外といるものである。服はその人が社会で纏う鎧であり、武器である。だが、それを創る難しさも信華は知っている。では、自分の服がわからないときはどうするか。一般的には雑誌を読んで真似たり、店で店員に聞いたりする。…それが全員できれば、苦労はないのだ。確かに何人かは、そうやって服を選び、納得する。でも、そもそも店へ行くことにハードルがある者もいるのだ。店員に望んでいないものを買わされる(断れない)、予算を打ち明けるのが恥ずかしい、知り合いに見られる、買わずに出ると気まずい、etc。じゃあインターネットで、となると、また問題が出てくる。サイズ違い、誰にも相談できない、写真と違う、返品の手間、etc。これらの解決策に、信華は売上への道を見つけたのだ。


TOOでは、専属のコーディネーターが顧客のニーズに合わせて、服を準備する。申し込みは、インターネットでも郵便葉書でも電話でもいい。自宅か、織田の各店舗など指定の場所で、希望に沿った服を届ける。できればその場で着てもらい、変更も可である。そのため、自宅郵送の場合は、自社の車に何十着もの候補の服を持っていく。基本的に服はレンタルで、着てみて気に入れば購入してもらう。コーディネート代と送料はサービスである。レンタル代も良心的だ。服への敷居を低くすることで、手軽にオシャレを楽しめるようにしたい。オシャレにになりないという気持ちが、服への需要につながるのだ。この想いから始めたサービスは、なかなか好評だった。レンタルからの購入も右肩上がりだ。オシャレが苦手という男性から、このサービスを利用したところ同窓会でモテた、というお礼のメールも来た。ゆくゆくは、オーダーメイドも手掛ける予定だ。他社にはないサービスこそ、未来には必要なのだ。




「こんなはずじゃな〜い!」

義魅の憤った声が響いた。客はいない。幸か不幸か義魅の八つ当たりは関係者だけで済んだ。義魅は混乱している。記念すべき尾張第一号店がこのザマだ。社長の私がいるというのに!マスコミはきっと面白がっているだろう…これをどう挽回する?この雨じゃもう客は…それより織田はどうなってるの?


思考を打ち切るように電話がなった。

「大変です、汚職が発覚したとかで本社に警報が…!」

慌てて電話に出た社員が、蒼白な顔で内容を伝えた。夕方、電話が頻繁に鳴り、義魅にSNS評価と株の暴落を知らせていた。さらには、汚職の発覚まで。真偽は不明だが、煙のないところに噂はたたないだろうし、ゴリ押しで会社を成長させてきた部分はある。今更になって、そのツケがきたのだろか。いや、このタイミング、織田からのリークに違いない。名だたる幹部が逮捕されていく中継を見ながら、義魅は唇を噛んだ。世間のイマガワの評判は下がり続けている。社員には辞表を出して、逃亡している者もいるという。ここまで来たらもう立て直せない。イマガワは終わりなんだわ…!!


義魅は運転手を呼び出すと、黙って裏口から出ていった。気づいた従業員が追ってくるも、突き飛ばして車に飛び乗る。

「くそっ…くそっ!」

悪態をつく義魅を乗せて、車は走っていく。ラジオからは、義魅を指名手配するという決定事項が流れていた。まずは逃げて身を立て直し、それからもう一度織田を倒そう…


ふいに赤信号で車が止まった。苛立つ義魅が叫ぼうとした途端、ドアが開いた。黒髪ロングのややキツイ目をした女性がいた。

「今川社長ですね?」

義魅は反対側のドアから飛び出すと、一目散に駆け出した。しかし、女性は軽々と車を飛び越えると、義魅に追い付き、膨れた巨体を組み伏した。細腕に組み敷かれているというのに、義魅はピクリとも動けない。

「信華様、捕まえました」

毛利が携帯電話で報告し終える時、パトカーのサイレンがようやく近づいて来たのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ