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女子会、本能寺!  作者: 千侑
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桶狭間店の戦い2

「どう出てくるかしらぁ〜」

野太い声で独り言を言ったのは、今川義魅である。太った身体を椅子に預けながら、待ち時間を持て余している。今日は桶狭間店開店日。あと一時間後は店内は客で埋め尽くされるはずだ。社員は最終チェックに向けて、忙しく立ち回っている。本来なら本社で報告を待つのだが、今回は特別だ。それは社長である自分がこの開店に携わり、イマガワの他県出店をアピールするつもりだからだ。尾張への初店舗を足がかりに東海をイマガワで押さえ、やがては全国展開につなげる予定だ。今日の出店は、既にSNSや広告、マスコミには通知してある。これからは、ファッションセンターイマガワがアパレル産業の中心になっていくのだ。悪いが、織田には完全に潰れてもらう。そもそも今川と織田では社員の規模も違うのだ。約4万5千人を雇う今川と、約2千人を雇う織田では売上高だって天と地ほどの差があるのだ。それから若くから第一線でやってきた自分には経験がある。“海道一の客取り”の異名は伊達ではない。

 

「もう織田は戦意喪失しているのでは?」

「弱小店舗には打つ手なしです」

「社長自らが出てきているのですよ。売上は過去最高でしょう」

「これで尾張も義魅社長のものですね」

「私、負けない戦いはしないの〜」

「流石です、社長」

部下たちの賛辞にも義魅は機嫌良く答えた。

今日の出店は成功を約束されたようなものであったが、それでも決して油断しないところは義魅の慎重さ故であった。店舗は最大の広さを確保し、品揃えは豊富に、値段もぎりぎりまで安く、従業員教育も徹底した。織田を見下してはいたが、舐めてはいない。義魅は、織田を完膚なきまでに叩くつもりだった。



10時の開店を知らせる音楽が流れ出した。義魅は控え室から出ると、出入り口に向かった。これから客は長蛇の列をつくり、店内は大混雑する。レジには人々が殺到し、過去最高の売上を出す。今回だけ特別に、会社のホームページで売上高が目視できるようになっている。リアルタイムで載せていくことで、織田も焦りだすだろう。そしてマスコミがその様子を撮影し、SNSで拡散されていくーーーはずだ。しかし、目の前には義魅の予想に反した光景が広がっていた。


「どーいうこと〜!?」

…客は誰一人としてそこにいなかった。





「さて、始めようか」

織田信華はパソコンと携帯電話を取り出した。売上状況を確認していく。各店舗の部下への指示も忘れない。




サイト上のイマガワ桶狭間店での一日の売上は、変わらなかった。ゼロのままというわけである。客が来ないのには理由がある。客は織田が囲ったのだ。


信華の作戦は3つあった。今一つ目が効果を発揮しているところだろう。

信華は、尾張に住む住民に割引クーポンをばら撒いたのだ。クーポンは店舗のみ週一枚使用可、一万円×24週分を各世帯に配布した。クーポンの金額の大きさに住民は目を丸くした。結果こぞって、織田で服を買うようになる。もちろん、織田は損はしない仕組みになっている。全体的にあえて高めの値段で設定し、割引しても定価で売れるようにしたのだ。客は高いものを安く買ったというお得感があるし、こちらも店舗ごとの在庫を減らすことができる。


といっても織田のすべての店舗が順調ではなかった。通販トラブルや接客ミス、質の悪いクレーム・風評被害によって、丸根店は閉店に追い込まれてしまった。店長の佐久間が責任をとり、数多の従業員も路頭に迷ってしまった。他にも中嶋店、鷲津店も同様の道を辿った。それでも、イマガワには喰われない。そう、これからイマガワを喰うのは織田なのだ!

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