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IZANA  作者: 姫柊ほの
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~始まりの物語~ 1

 フェルリタ王には一人娘がいる。

 第一王女『リトゥア』。まだ7歳という年齢を感じさせないほど、王族らしい威厳を持ちながら、聡明で落ち着きもあり、その立ち居振る舞いの優雅さは臣民を魅了する。

 王族である為、この世界特有の『能力』を持っていなかったが、幼少の頃から王家専属家庭教師より、様々な事を学び、多くを吸収し、博識者から一目を置かれていた。

 また、運動神経の良さも際立ち、他人の気持ちを読むことにも優れた能力をもっているので、相手の気持ちを思いやることの出来る、幼いながらも王族としての自覚を持つが、しかし王族であることをひけらかすこともなく、常に臣下や民衆に心を砕き、寄り添おうとした。


 フェルリタ王は『リトゥア』を、ことのほか可愛がった。


 リトゥアの母が若くして病死した時、王はこのリトゥアを次期女王と定めたく、後妻を娶らないつもりでいた。

 しかし、側近からは「やはり王には男性が望ましい」と再婚を望まれた。

 フェルリタ王は、古くから王族に仕える『巫女』に、この件について相談した。


 王族、及び各領主に仕えるこの『巫女』は、齢800年を超えると言われており、謎多き一族であるが、その能力は他を超越し、先見に関しては100%の確率で的中させていた。

 そして、この『巫女』が導き出した答えは『否』であったが、フェルリタ王は臣下の声を大事に思い、新たな妃を迎えることを決断してしまった。


 新たな王妃となった『コクネシア』は、いずれは王族となり、裏で権力を誇示したい貴族である父の仕向けた政略結婚であった。

 目つきが鋭く、決して美人とは言えないが、コクネシアは優しさをもって王に尽くした。 

 政略結婚とは言え、尽くしてくれるコクネシアを、王は大事にした。

 だが、『王子を成す』という、当初の目的は達せられずにいた。

 コクネシアには、なかなか『子』が出来なかったのだ。


 王妃に子が出来ぬまま1年が過ぎ、8歳の誕生日を迎えたリトゥアのお祝いに訪れた騎士団長と共に、母を亡くしたリトゥアのお世話役、及び話し相手を兼ねて、騎士団長の娘『サフィニア』が城に上がり、リトゥアに仕えることとなった。


 21歳のその容姿はずっと魅入って居られるほど美しかった。

 しかしながら、騎士団長である父譲りの剣術は、他の男性を圧倒するほどの腕前であった。


 サフィニアは、普段は控え目で出しゃばらず、自然や動物をこよなく愛しんだ。

 決して表舞台に立とうとはしないサフィニアだが、誰もがその姿に魅了された。

 彼女の意志が働くと、自然は彼女の思いに応えるかのように、蒔いたばかりの種から作物が出来たり、実の一つもならなかった木に、そっと手を触れるだけでその実が出来たり、手がけた花が美しく咲き誇り、彼女の歌で光が溢れ始めると、花たちは美しく長く咲き誇るのだ。

 まるで、自然界が意思を持ち、彼女に味方しているようにも窺えた。

 それほどの能力を持ちながら、彼女はその能力を悪用することはなかった。

 多用することは、自然界の法則を破壊しかねないことを知っているからだ。


 柔らかな風に彼女の髪が舞う。


 リトゥアは、そんなサフィニアを母のように慕った。


 実は、控え目に見えるサフィニアだが、リトゥアの前では父譲りの剣術を教えたり、幼いリトゥアと野原を駆け回ったりと、活動的であった。

 サフィニアもまた、リトゥアの事を、一緒に野原を駆け回れる可愛い歳の離れた妹が出来たようだと喜んでいた。

 『母』と慕うリトゥアに「お姉さんでしょ?」と茶目っ気たっぷりに訂正させてみたりもした。


 ある日、サフィニアはリトゥアと共に作った紙飛行機を風に乗せ、遠くに飛ばせて遊んでいた。

 風はサフィニアの意志を汲み、その紙飛行機を遠くまで飛ばし、そして彼女の元まで戻るように運んだ。


 だが、その瞬間、風は紙飛行機の進行方向を変えた。


 その先には、ずっと暖かな瞳で2人の様子を覗っていたフェルリタ王が居た。

 フェルリタ王は、以前から人前では控え目だが、リトゥアの前では元気で明るいサフィニアの存在に魅入られていたのだ。

 剣を扱う時や、リトゥアの付添で公の場で見せる凛とした姿。

 普段から前へ出ず、控え目だけれど、その美しい容姿と相まって、醸し出す存在感。

 さらには、リトゥアと過ごしている時間だけ見せる無邪気さ。

 現王妃であるコクネシアとの間には子が成せず、周りからは『側室を』という声が高くなっていた。


 フェルリタ王は迷っていた。自分の年齢もある。


 ましてや、現王妃コクネシアよりも若いサフィニア。


 紙飛行機の一件から、そっと縁を紡いできたフェルリタ王は、思い切ってサフィニアに本心を話してみた。


「コクネシアの後ろ盾があるから、あなたを王妃には出来ない。」

「これから先、自分の年齢からして、一緒に居られる時間は短いだろう。」

「だが、それでも傍にいてはくれないか。。。」


 その問いに、サフィニアは微笑み、躊躇することなく応えた。


「これで、リトゥアの本当の母になれます」と。。


 サフィニアは、風が紙飛行機をフェルリタ王の元に運んだ時から、運命を感じ取っていたのだった。

 それから数週間後、サフィニアはリトゥアと共に、王宮より少し離れた自然豊かな山中にある離宮に住むこととなった。

 リトゥアの教育のためという名目であったが、王妃コクネシアから彼女を隠す為でもあった。


 確かに、コクネシアは本当に王に尽くしていた。

 だが、その心の奥にある、底知れぬ邪心を王は知っていた。

 自分に害となり得る者は、王の知らぬ間に排除していたこともあった。

 気に入った者は自分のものにならなければ、気が済まなかった。


 (もし、コクネシアにサフィニアの存在が知れることになれば。。。)


 王は、それを恐れた。サフィニアを失いたくはなかった。


 フェルリタ王は、隙を見つけてはこの離宮に足繁く通った。

 山奥の、ひっそりとした場所にあるが、サフィニアが居るからか、年中花が咲き、美しい景観がより一層際立っている。

 自然が織りなす風景に忙しい政務から離れ、癒しを感じ取っていた。


 もちろん、サフィニアの存在こそが、一番の癒しであった。


 王は彼女を慈しみ、王女リトゥアも実の母のように慕い、仲睦まじい王とサフィニアの姿に、小さいながらも幸せを感じ取っていた。


 3人で過ごす時間。。。


 この時間が王にとっても、リトゥアにとっても、誰にも邪魔されない、大切で、かけがえのない一時となっていた。



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