第六話
古い木造の家の中、薄暗い部屋の真ん中にはパチパチと薪が燃える囲炉裏。その囲炉裏の前で大柄な男が色っぽい女性の肩を抱き盃を片手に酒を飲んでいる。
大柄な男は隣にいる女性を時折ニヤケながら見て、グイッと盃の酒を飲んでいると部屋の入り口から人の声が聞こえた。
「頭、ギイの野郎が戻りました」
頭と呼ばれた大柄な男は女と楽しんでいた所を邪魔されて少し不機嫌なのか眉間に縦皺を刻み込み凄みのある声で答えた。
「おう、今いい所なんだから邪魔すんな。ギイが女を連れ戻してきたんだろう。あの女、かなりの上玉だ。高く売れるから傷つけないよう牢屋に入れとけ」
そう言い放つと頭は隣にいる美女の抱いていた肩をグイッと引き寄せ唇を合わせた。そして楽しそうにガハハハと大声で笑うと入り口の男が再度、口を開く。
「い、いえ。頭、そうではないんです」
それを聞いた頭は片方の眉がピクッと動かした。
「なに?」
入り口の男は緊張のためか少し裏返った声で話す。
「そ、それがギイの野郎。女と取り逃がしたようです」
頭の目がギラリと光る。
「取り逃がしただと、おい、ギイの野郎を連れてこい」
「はい」
そしてしばらくすると一人の男が怯えた表情で俯きながら部屋に入ってきた。男の頬には大きな傷が見える。
「おい、ギイ、てめえ……女を取り逃がしたらしいなぁ」
頭は鋭い目でギイを睨んだ。その目を見てギイは震え上がる。
「ヒィィィ、す、すみません。お頭、もう一度、もう一度チャンスをくだせい。今度こそあの女をとっ捕まえてきます」
「あん? もう一度だと。てめえ調子こいた事言ってんじゃねーぞ。二度なんかあるか、女一人捕まえられねー野郎なんて必要ねーんだよ。おいこら!」
そう言いながら頭は勢いよく立ち上がるとギイはさらに震え上がった。
「ち、違うんです。変がガキ、変なガキが邪魔したんです。それさえなかったらちゃんと連れ戻して来れたんです。頭〜」
「ああん、変なガキだとぉ。どんなガキだ」
ギイは恐縮しながら話し始めた。
「ヘ、ヘイ。おそらく異世界から来たガキだと思います。子供が着る学生服ってやつを着てましたから。そいつ、どうやら冒険者のようでして結構、剣の腕が達者なやつですごい強いガキでした。そいつに邪魔されてしまいました」
「なにぃ。異世界から来たガキだとぉ」
「ヘ、ヘイ」
「異世界から来たやつが冒険者になるのは珍しくねーが、そんなガキが冒険者になるなんて珍しいな」
頭の言葉にギイの顔がパッと明るくなる。
「ヘイ、きっと女はそのガキと一緒にいるはずです、そんな珍しいガキなんて見つけるのは簡単ですから、もう一度チャンスをいただければ、女を絶対、取り戻してみせます」
ギイが必死に頭を説得する。頭は少し考えているようだ。
「なるほどなぁ。お前の言うとおり女の居所はすぐにわかりそうだな。よし、早速、明日にでも取り戻しに行くか」
頭のその言葉を聞いてギイは嬉しそうな顔で頭を下げた。
「ありがとうございます! 早速、明日行ってまいりやす」
そう言うとギイは部屋を出ようとした。それを頭が引き止める。
「おい、ギイ。てめえ何を勘違いしてる。誰もてめーを許すなんて言ってねーぞ」
ギイは恐怖に歪んだ顔で頭を見る。
「そ、そんな。お、お願いします。許してください頭〜」
必死に許しを請うギイに頭は冷たく言い放つ。
「だめだ。おい、リカルダ …… やれ」
頭は先ほどからずっと黙って座っていた美女に命令をした。リカルダと呼ばれた女性は妖しい目でギイを見る。
「はい、頭」
リカルダは右手をギイの方に向けると魔法の詠唱を始めた。
「や、やめろリカルダ。助けてくれ」
恐怖に歪んだ表情で許しを請うギイをリカルダは楽しそうな顔で見ている。
「氷柱槍」
リカルダが魔法を発動するとその右手から突如現れた氷柱が弾丸のようなスピードでギイの体を貫いた。ギイは悲鳴をあげることもなくその場に崩れ落ちる。
リカルダはギイの死体を満足そうな顔で見ていた。
「おい! ギイの死体を片ずけておけ」
頭が大声で叫ぶと男が一人部屋に入ってきた。男はギイの死体を抱きかかえると何も言わず部屋を出た。
「おい、明日はお前も一緒に来い。そのガキなかなか強そうだ。お前の獲物にしてやる」
頭の言葉にリカルダは嬉しそうに微笑んだ。