第三話
「き、君は、ひ、姫野遥さん、どうしてここに?」
僕はクラスは違うが同じ学校で同学年の姫野遥が目の前に立っている事に驚いた。
「君は私を知っているの? ごめんね。私は君の名前、知らないの……」
姫野さんが申し訳なさそうな表情で僕を見ている。
「しょうがないよ。姫野さんはアイドル活動が忙しくてあまり学校に来てないからね」
姫野さんは高校一年の時に渋谷でスカウトされアイドル活動をしていた。小作りな顔に愛らしいクリクリした目と黒くつやのある髪はとても人目を引く、彼女はすぐに人気が出てテレビなどでよく見るようになった。
「君の名前を教えてくれる?」
「あ、ごめん。僕は黒羽龍斗、姫野さんとはクラスは違うけど同じ高校三年だよ」
僕の名前を聞いて姫野さんは天使のような素敵な笑顔を見せた。僕はその笑顔にドキッとすると思わず目を伏せる。すると姫野さんが裸足だという事に気づいた。
「姫野さん、靴はどうしたの?」
「うん、私、昨日、突然、この世界に来てしまったの、そしてアテもなく歩いていたら武器を持った男の人たちが私を見つけて、話しかけてきたの」
それは僕の時と同じだ。異世界転移者がこの世界にくるとイスカグラン国の賢者がそれを察知して兵士に居場所を教える。兵士はすぐに異世界転移者の元へ駆けつけ保護するんだ。
「んん、それはきっとイスカグラン国の兵士だね。彼らは異世界転移者がこの世界にくると保護し難民キャンプに連れて行くんだ」
「難民キャンプ? ううん、私はそんな所に連れて行かれなかった。何か変な村に連れて行かされたよ」
「何? 変な村…… おかしいな。そこはどんな村なの?」
「なんか怖そうなおじさんばかりいる村だった。それで怖そうおじさんが兵士にお金みたいなのを渡したの、それから私はその怖いおじさんに連れていかれて暗い部屋に閉じ込められたの」
……なるほど、人身売買ってわけか。
「そうか。わかった。それで逃げてきたんだね」
「そうなの、靴も取られちゃったから裸足で逃げてきちゃった」
姫野さんの足元を見ると足は血だらけだった。そして姫野さんの着ている学生服は所々破け擦り傷だらけだった。
「大変だったね。ちょっと待って今、怪我を直すよ」
僕は手の平を姫野さんのおでこにそっと触れる。
「回復」
僕が回復魔法をかけると姫野さんの傷はみるみる回復してく。
「す、すごい。黒羽くん、その力は何なの? どうしてそんな事が出来るの?」
姫野さんの疑問に僕が答えようとすると馬に乗った数人の人相が悪い男達がこちらに向かってきた。
「あれは?」
僕が馬に乗った男達の方を見ると姫野さんが振り返る。
「あ、あの人たちは! まずいわ黒羽くん、あの人達はさっき言った怖そうなおじさんたちよ」
姫野さんは恐怖で顔から血の気が引いていた。そして必死に隠れようとしたが男達は僕達の方を指差している。どうやら時すでに遅かったようだ。男達がこちらに向かってくる。
「黒羽くん、どうしよう……」
怯える姫野さんを僕は安心させるよう笑顔で話しかけた。
「姫野さん、大丈夫だよ。危ないから僕の後ろにいてね」
姫野さんが僕の後ろに回り込むと男達が僕達の前に近づいてきた。
「おいおいおい、お嬢ちゃん、やっと見つけたぜ。高い金出して買ったんだからよ〜 逃げてもらっちゃ困るよ、おい、そこにいるガキ、そこの女をこっちによこしな。黙っていうことを聞けば殺さないでやるからよ」
男は凄みのある顔で僕を睨んだ。その男の後ろに部下だろうか? 男が二人ニタニタと笑いながら僕達を見ていた。
ため息をつき僕は男の顔をまっすぐに見る。そしてきっぱりと言った。
「悪いがこの子は渡せないよ。お前らこそ、黙ってここから立ち去れ。そうすれば殺さないでやる。とっとと家に帰りな」
僕は腰にある剣をゆっくり抜いた。