第百五十七話
「……母よ、なぜ私の邪魔をした」
魔王は遥を睨みながら問いかけた。遥をニヤリと口角を上げて魔王をただジッと見ている。
「それに……その鎧と剣は……確か黒羽龍斗が装備してた勇者の鎧と剣、なぜ母が装備している。答えろ! 」
「そうね、答えてあげるわ。それは私が勇者だからよ」
「なに? 勇者だと…… ふざけるな。貴方は魔神だ。魔神が勇者になれる訳が無い」
「残念ね、私はもう魔神ではないのよ。黒羽くんが命をかけて私の体に流れる魔神の血を浄化してくれたの、そして黒羽くんが持っていた勇者の力を全て私に分け与えてくれたの」
遥は龍斗の事を思い出したのか、少し目に涙を溜めている。
「……なるほどそう言うことか、黒羽め…… 余計な事をしてくれる」
魔王は苦々しい顔で顔つきで遥を見ている。
遥と魔王の衝撃的な会話を聞いていたマリー王女は思わずに魔王と遥の間に割って入った。
「遥、お前人間に戻ったのか?」
マリー王女の方に振り向いた遥は笑顔で頷いた。
「うん、黒羽くんが命を燃やして私を元の人間に戻してくれたんです…… マリー王女、みんな、とりあえず回復魔法で傷は治してあるけど無理して動かないでください」
リカルダもマリー王女も、そしてクレアもルイも命を燃やした、その言葉で龍斗の死を悟った。
全員が信じられないといった表情で遥を見つめていた。
そしてクレアは溢れんばかりの涙を流した。
「遥…… あんた、人間に戻ったのね」
リカルダが遥に話しかけると遥はリカルダの方を向く、その顔には若干に怒りが見てとれた。
「リカルダさん。私、一応貴方の事も助けましたけど今回の件は本当に怒ってます。貴方の処分に関しては魔王を倒した後にちゃんと決めますよ」
「オイオイオイ、母上、いまなんて言いました? 私を倒すですって? 私は貴方の息子ですよ」
遥の言葉に魔王呆れたように言った。
「ええ、私の息子だからこそ私が決着しなければならないのよ」
「ほうほうほう、面白い。ならやってみろ!」
さっきまで呆れ顔の魔王だったがいきなり真剣な表情になると遥に向かって右手を上げ火魔法を発動した。
『王魔鳳凰窮!』
矢の形をした炎が光線のようなスピードで遥に襲いかかる。
しかし遥は素早い魔王の火魔法に冷静に対処する。彼女もすぐさま魔法を発動すると右手から黒い霧がグルグルと円を描きながら現れた。
黒い霧に魔王の火魔法が吸い込んでいく。
「何! 高等黒魔法の暗黒虚幽だと、それは魔神にしか使えない魔法、貴様、魔神の血が浄化されたのではないのか!」
「ほら、返すわよ」
遥がそう言うと黒い霧から矢の形をした炎が飛び出し魔王に向かって行った。
「むっ!」
炎は魔王に直撃した。ドン!という腹に響く爆烈音が聞こえると魔王は吹っ飛ぶ。
「ぐ、ぐぐぐ、なぜだ。なぜ暗黒魔法が使える……」
口から血を流しながら魔王は立ち上がった。それを遥は口角を上げニヤリと笑いながら見ている。
「フッ、魔神の血を浄化したのに私が暗黒魔法を使える事を不思議に思っているようね。いいわ教えてあげる。黒羽くんはね、私を人間に戻す時、魔神の力を残したのよ。人間に戻った私が魔神の力を使えるのは黒羽くんのおかげなのよ。さあ、もう観念しなさい魔王」
遥は腰にある剣を抜き剣先を魔王に向けた。
「魔神の力を残して人間に戻っただと! ふざけるな、そんな事いくら勇者だからといってできるわけない。どんな手品を使ったのかわからんが化の皮を剥がしてやる、こい!」
魔王はファイティングポーズをとる。
「いいわ、私の全力で貴方を倒して見せるわ」
遥はダラリと両手をダラリと垂らすとまるで散歩でもするかのようにスタスタと魔王に向かって歩いていくと魔王に向かって言った。
「さあ、最後の勝負よ。魔王!」