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第百五十六話


「私に…… 魔王を……?」


「うん、魔王を倒すのはもう君にしか出来ない」


「……そんな力、私にあるのかしら?」


「姫野さん、君の魔神の血は浄化したけど魔神の力は残っている、そして、僕の勇者の力は全て君に吸収された。つまり君は魔王と勇者の力を併せ持つ存在なんだ」


「魔王と勇者の力が私に……?」


「ああ、どうだい? やってもらえるかな?」


 龍斗の頼みに遥は困った顔をして答えた。


「私にそんな大きな力があるなんて実感ない…… けど、その力が私にあるならやらなくちゃいけないよね。でも、本意じゃなくても魔王は私の子供、自分の子供を殺すなんて……」


 遥は目に涙を浮かべている。龍斗は困った顔で指で遥の涙を拭おうとした。しかし龍斗の指は遥の涙をすり抜けてしまう。


「ごめん、姫野さん…… だけどこれは君にしか出来ないことなんだ」


「でも、なぜ、なぜ私なの…… 私はなぜ魔王を産むことが出来たのか?」


「……姫野さん、それには理由があるんだ」


「理由?」


「ああ、君は初代魔王を産んだ、母親の生まれ変わりなんだ」


「……私が、初代魔王の母の生まれかわり?」


「そうだ、初代魔王の母はフランシーヌ・ラメーという名で不世出の天才と言われた魔法戦士だった」


「……フランシーヌ・ラメー ……魔法戦士」


「ああ、そんなフランシーヌは国の王子に見初められ結婚し、妊娠した・彼女は幸せの絶頂にいた。だが、フランシーヌの国は隣の国と交戦中だった」


 遥は龍斗の話を相槌を打つわけでもなく黙って聞いている。龍斗は話を続けた。


「フランシーヌの国はあまり強い国とは言えず隣の国の圧倒的な戦力に押されていた。そしてある日、隣の国がフランシーヌの国に攻め入っていきた。隣の国の強さになすすべもなくフランシーヌの国は降伏した。降伏後は王や王子は見せしめに殺され、フランシーヌも処刑されそうになった、だが彼女はお腹の子を助けてもらうよう懇願した。しかし認められなかった。彼女は怒り狂い、魂を魔物に売り魔神化し隣を国を滅ぼした」


「魔神化……」


「ああ、彼女はその後、魔物の国に逃げそこで子供を産んだ。それが初代魔王なんだ」


「そうだったのね…… その後、彼女はどうなったの?」


「実はその後は彼女は魔神の血を浄化され普通の人間に戻った」


「え! どうして?」


「それは今でもわからない。しかし、彼女は人間に戻り、そしてなんと勇者になったんだ」


「ええ!勇者に?」


「ああ、フランシーヌは初代魔王の母であり、初代勇者でもあるんだ。彼女は勇者としての使命を果たした」


「使命…… それってもしかして!」


「うん、彼女は息子である魔王を倒した」


「魔王を……倒したのね……」


「ああ、その後、彼女は人間として寿命を終え、僕たちが住んでいた世界に生まれ変わり、普通に暮らし転生を繰り返した」


「そしてその生まれかわりが私だったのね」


「そうだ、その事を今の魔王が知り、君に再度、魔王を出産させようとしたってわけなんだ。元勇者の魂を持った肉体から生まれた魔王は最強だ」


「そうだったのね」


「姫野さん、君に酷なお願いをしているのは百も承知だ。しかし、君が決着を付けなければこれは終わらない」


 遥はしばらく無言で下を向いていた。が、意を決したように顔を上げる。


「わかったわ。私、やるわ。やるしかないわよね」


 遥の言葉に龍斗は微笑みながら礼を言う。


「ありがとう、これで僕は安心して天界に行けるよ。もうそろそろ時間もなくなってきた」


 龍斗がそう言うと、その体がだんだんと半透明になっていく。


「黒羽くん! 待って! 行かないで! まだ、心の準備が……」


 遥は必死に呼び止めたが龍斗の体はどんどんと消えていく。


「姫野さん、僕たちはこれが最後のお別れじゃない、きっとまた会える」


「黒羽くん!」


 遥は目からあふれんばかりの涙を流している。


 龍斗の体が完全に消え去ろうとした時、龍斗は遥の後ろを指した。


 遥がその指をさした方を見ると光が見えた。どうやらあそこから地上に戻れるようだ。


 遥は改めて龍斗の方を向く、すると、龍斗は何やら遥に話かけている。だが、ほとんど声が聞こえない。


 しかし遥は龍斗がありがとうと言ってるが口の動きでわかった。 


「私こそありがとう黒羽くん…… そしてごめんなさい」


 遥がそう言うと龍斗は微笑みながら頷いた。


「ありがとう、ありがとう!」


 遥は何度もお礼を言った。龍斗はそれを優しい顔で見ていたが、やがて完全に消えてしまった。


「うう……」


 消えてしまった龍斗。遥はしばらく小舟の上で泣き続けていた。そしてグッと拳を握ると顔を勢いよく上げた。


「黒羽くん、私、やるわ。天界で見ててね」


 遥は先ほど龍斗が指差した光の方へと進み始めた。


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