第百五十四話
『牙竜燕刃糸!』
リカルダの両手から大量の糸が飛び出し、それが竜の形へと変化するとその竜は大きな口を開けながら魔王へと向かっていく。
『王魔鳳凰窮』
リカルダの強力なスキルを目の当たりにしても魔王は冷静に対処する。魔王は右手を軽く前に出し火魔法を発動。
矢の形をした炎がリカルダのスキルに直撃する。
「フン、悪くない威力だ。しかし、私の魔力の方が上…… だな」
魔王の言う通り、魔王の火魔法がリカルダの糸を呆気なく燃やし尽くしてしまった。
『神疾!』
ルイが素早くスピードを上昇させる魔法を発動、リカルダの体が一瞬、光に包まれる。
『攻神!』
『御防神!』
マリー王女が攻撃力を上昇させる魔法、クレアが防御力を上昇させる魔法をそれぞれ発動する。
リカルダの体がまたも一瞬、光に包まれた、
『神状上!』
さらにリカルダは全パラメータを上昇させる魔法を発動した。彼女の体全体が金色に輝き始めた。
「さあ! 今度は本気でいくわよ! 喰らえ! 『双竜燕刃糸』!」
全ステータス が上昇したリカルダはさらに強力なスキルを放つ。リカルダの両手から二体の竜が飛び出し螺旋を描きながら魔王に向かって牙をむく。
『王魔鳳凰窮』
魔王は先程と同じく火魔法を発動、しかし、今度は一体の竜を燃やし尽せたが、もう一体の竜は仕留め損なった。
竜は回転しながら魔王の腹部にぶち当たり、吹っ飛ぶと壁に激突した。
「ぐ、ぐぅぅ、や、やるな、さすがはリカルダだ」
魔王はヨロヨロと立ち上がる。
「フン、強がりもそこまでだ。『神魔態糸』」
リカルダは両手から大量の糸を出し、それを纏った。すると、糸は漆黒の鎧に変化する。
「終わりだ。魔王! この鎧は攻撃力を5倍に上昇させる効果がある。喰らえ!」
リカルダは強化した右ストレートを魔王に放った。ゴオンという空気を切り裂くような鋭く重い音が鳴った。
そしてドーーーン!と大きな衝撃音が聞こえると、リカルダの右ストレートは魔王の顔面を捉えた。
「死ね! 魔王!」
リカルダは自身の勝ちを確信した。
だか、その瞬間、リカルダの腹部に衝撃が走った。
「な、なんだ……?」
不思議に思ったリカルダは自分の腹部を見る。すると魔王の右手の長い爪が自分の腹を貫いている事に気づいた。
「こ、これは……」
リカルダは信じられないような目で魔王を見る。魔王は何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
どうやらリカルダの渾身の一撃でも魔王に傷一つ負わせる事が出来なかったようだ。
そんな魔王はニヤリと口角をあげると左手でリカルダの腕を掴み捻り上げた。
「うぐっ」
苦痛に顔を歪めるリカルダ。
「終わりなのはお前の方だ、リカルダ!」
魔王はリカルダの腹にさらに爪を押し込んだ。魔王の爪はリカルダの体を貫いた。
大量の血がリカルダの背中から吹き出す。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
「リカルダ!」
マリー王女達がリカルダを助けようと走り出した。
「刃円王魔斬」
魔王は左手をマリー王女達の方に向けると風魔法を発動した。
鋭い刃を持った無数の丸い形をした風がマリー王女たちに襲いかかる。
「ぐわっ!」
魔王の風魔法は鋭く、マリー王女の腕を斬り、ルイとクレアの右脚を斬って吹っ飛ばした。
マリー王女達は青ざめた顔でその場に蹲った。
「ハハハハ、マリー王女、リカルダ、お前達は終わりだ。まあ、私相手によくやった、褒めてやろう。褒美に苦しまずに殺してやる」
魔王はリカルダの腹から爪を引っこ抜くと、リカルダを蹴っ飛ばした。
リカルダは吹っ飛ぶと地面にゴロゴロと転がる。
「さあ、これで終わりだ。さらばだ、『天魔爆神炎!』
魔王は両手を天に広げると全体火魔法を発動した。
複数の火の玉が城の天井にまで上がると、今度は隕石のように下に落下し始めた。
火の玉はマリー王女達に襲いかかる。
「く、くそ!」
瀕死の状態のリカルダやマリー王女達はその火の玉が落下してくるのを悔しい顔でただジッと見ている。
そして、ドゴンと爆発する音が聞こえるとあたり一面に煙が舞い上がる。
「ふふふ、全員焼け死んだか。これで後は、黒羽龍斗を残すのみだ。だが、それは母が終わらせているだろう」
魔王は煙が消えるのを待って焼け焦げたリカルダ達の死体を確認しようとした。だが煙が完全に消えると驚くことが起きていた。
「な、なんだ。お、お前らなぜ生きている!」
なんと驚く事にリカルダやマリー王女達は焼け焦げにならず生きていた。それどころか魔王に負わされた傷も完全に治っていた。
「な、なぜ……?」
リカルダやマリー王女達も不思議そうな顔で立ち尽くしている。
「貴様ら、なぜ生きてる! 答えろ!」
魔王は怒り狂った表情でマリー王女達に問い詰める。しかし、彼女達もわけがわからないといった表情だ。
すると、どこからともなく声が聞こえた。
「それは私が魔法防御で彼女達を守ったからよ」
「誰だ!」
魔王は声のした方を向いて叫んだ。その声の主は扉を開けると中に入ってきた。
「お、お前は……」
さすがの魔王も入ってきた人物の顔を見て驚愕した表情を浮かべた。
それもそのはず、なんと扉から入ってきたのは姫野遥だった。