第百五十三話
「ま、魔王、貴様、私の体を乗っ取る気か! や、やめろ!」
魔王の顔がジャンの肩から顔へと向かっていく。
「く、くそ!くそ! こ、こんな、ば、馬鹿な! やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ジャンの叫びも虚しく、魔王の頭部とジャンの頭部が融合する。すると、二人の融合した体から蒸気が湧き上がってきた。
蒸気はシュウウウウウと音を立てると魔王の体を覆い隠してしまった。
「そんな! いやぁ!!! ジャン!」
リカルダが叫びながらジャンの元へと駆け寄っていく。そして両手から糸を出して大きな掌の形にすると、それを左右に振り蒸気を振り払っていく。
しかし、蒸気は一向に消えず、次から次へと湧いて出る。
「くそ! ジャン! 返事をして!」
リカルダは懸命に蒸気を払っていく。すると先程まで湧いて出てきた煙がだんだんと消えていく。
「も、もう少し!」
蒸気を一気に消そうとリカルダは糸の掌を大きく振り上げた。だがその時、煙の中から大木のような赤い筋肉質の腕が飛び出し、リカルダの腹部に激突した。
「うぐっ」
リカルダは苦悶の表情で口から血を吐くと体をくの字にして後方に吹っ飛んだ。
そしてドン!と大きな音がなると、リカルダは壁に激突する。
「う……うう、ジャ、ジャン……」
呻き声を上げならリカルダはヨロヨロと立ち上がるとすぐさま自分の傷に回復魔法をかけた。
傷が回復したリカルダはジャンがいた方を改めて見ると煙が完全に消えていた。そしてそこにはジャンではなく赤い肌をし、巨大なヤギのような角を生えた魔物が立っていた。
リカルダはその赤い悪魔がジャンと融合した魔王だと気づいた。
「フフフ、残念だったな、リカルダ。ジャンは私に飲み込まれその意識は完全に消滅した」
「嘘をつけ! クソ魔王!」
リカルダは憤怒の表情で魔王に糸の攻撃を仕掛けた。
「ほう、なかなかの魔力、悪くない…… だが!」
魔王は右手を前に出した。
『暗黒虚幽』
魔王は魔法を発動すると右手から黒い霧がグルグルと円を描きながら現れた。
そしてその黒い霧はリカルダの糸を飲み込んでいく。
「リカルダ、ただの人間にしてここまでの魔力を備えているのは褒めてやろう。褒美にこれをやるぞ!」
魔王はフンと鼻を鳴らすと黒い霧からリカルダの糸が飛び出してきた。糸は勢いよく飛び出しリカルダの顔面に激突した。
「ぐわっ!」
リカルダはまたも血を吹き出し、吹っ飛んでいく。
「馬鹿な、私の糸を操れる……のか……」
リカルダは口から滴り落ちる血を拭いながらなんとか立ち上がる。そして回復魔法をかけるとマリー王女の方に向かって叫んだ。
「マリー王女! あと、残りの二人!私が魔王を倒す。魔王を倒せばジャンの意識が戻ってくるかもしれない! だからお前達は私のサポートに回れ、今は共闘して戦うのよ」
リカルダの言葉にカチンときたのか、クレアがリカルダに食ってかかる。
「あん! あとの二人? 舐めないでよ。私にはクレアって名前があんのよ! ってか、誰がアンタなんかと手を組むか!」
クレアがリカルダのに向かって中指を立てた。しかし、マリー王女はクレアの肩を掴んで言った。
「いや、クレア。ここはリカルダの言う通りにしよう。残念だが、この中でリカルダが一番魔王を止めることが出来る可能性がある」
「王女……」
クレアは少し悔しそうな顔でマリー王女と見た。
「ルイ、お前もそれで大丈夫か?」
「はい、マリー王女の命令とあらば」
ルイは迷いなく頷く。
「わかった! リカルダ、共闘だ! サポートは任せろ!」
マリー王女の言葉にリカルダは頷いた。
「こい! 魔王、お前を倒す!」
リカルダが構えるとそれを見て魔王はニヤリと笑った。
「フン、ジャンがまだ生きていると信じているようだな、おめでたい。いいだろう、現実を見せてやる!」
魔王はゆっくりとリカルダに向かって歩き出した。