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第百五十一話


「はああああ!!『焔蛇王掌』」


 ジャンは紫色の焔に包まれた右手を上げるとそれを勢いよく魔王に向かって振り下ろした。


「ぐはぁ」


 『焔蛇王掌』は魔王の右腕を肘から斬り裂き吹っ飛ばした。


 魔王が苦しそうに肘を抑える。ジャンは続けざまに『焔蛇王掌』を繰り出した。


 だが魔王はそれを紙一重でかわしていく。しかし、ジャンの攻撃は終わらない、


「破ァァァァ」


 ジャンのスキルが魔王の心臓を突き刺そうとしている。


「フン!」


 魔王は軽やかに前宙し避けると、先ほど斬られた自分の右腕を左手で掴む。


 そして前転をしながら立ち上がると、すぐに斬られた自分の右腕をくっつけた。


「破ぁ!」


 今度はジャンが『焔蛇王掌』で魔王の首を跳ねた。しかし魔王はすぐに両手で跳ねた自分の首を掴み、素早くくっつけてしまった。


「むぅ…… これではいくらやってもキリがないですね」


 さすがのジャンも少し困惑の表情を浮かべた。


 それを見て魔王はニヤリと笑う。


「フフフ、私の超再生能力の力はどうだ? ジャンよ。この再生の力は魔力を使った回復魔法などではない、私の特殊能力だ。だから魔力が尽きようがそんなの関係なく何度でも再生できるのだ。永遠にな」


 魔王はそう言いながらくっついた腕の調子をみるかのようにブンブンと右腕を振った。


「……なるほど、貴方の自信の源はそれでしたか。道理で私の圧倒的な力を見ても冷静でいられるはずだ」

「しかし、それだけでは私には勝てませんよ。実力は私の方が上です。粉微塵にまで切り刻めば再生はできないでしょう」


 ジャンが両手を広げるとボウッという音と共に紫色の炎が現れジャンの両手を包み込んだ。


「やれるものならやってみるがいい。私の再生能力を舐めるなよ。お前の魔力が切れるまで私が生きていればこの勝負、私の勝ちだ。かかってこい!」


「破ァァァァ!!!」


 ジャンは飛び上がり魔王の頭上から襲いかかる。


 そして、両手を振り下ろした。


 ズバッという音と共に魔王の両腕が斬られる。しかし、斬られた両腕はまるで磁石のように吸い寄せられすぐに魔王の体にくっついた。


「は、速い!」


 さすがのジャンでも魔王の再生能力の速さに驚いているようだ。


 しかしジャンは諦めず続けざまに『焔蛇王掌』を繰り出す。だが魔王の体はすぐに再生してしまう。


「ククク、無駄だ無駄だよ!ジャン!」


「……なるほど、めんどくさいですね。ならこれならどうです! 喰らいなさい!『王魔鳳凰窮デーモンディストレス』!」


 ジャンは強力な火魔法を発動した。矢の形をした炎がジャンの右手から飛び出す。炎の矢は魔王の胸に突き刺さった。


「グゥゥゥゥ!!」


 魔王は苦悶の表情で自分の胸を見る。そして炎の矢を掴み胸から引っこ抜こうとした。


 だが、炎は魔王の手に燃え移ってしまう。


「ぐぁぁぁぁぁァァァァァ」


 炎は魔王の全身に燃え移る。


 魔王は天を仰ぎなら悲鳴を上げ片膝をついた。





「……な、なんて戦いだ…… とてもじゃないがあの戦いに私たちの入り込む余地はない」


 先ほどジャンに倒されたマリー王女が苦しそうな顔で起き上がりながら呟く。


「マ、マリー王女……」


「無事ですか? マリー王女」


「ルイ、クレア……お前達こそ大丈夫か?」


 マリー王女の元へやってきたルイとクレア。二人ともジャンから受けたダメージで苦しそうな表情だ。


「は、はい、なんとか。マリー王女、ジャンの火魔法で魔王は焼け死ぬでしょうか?」


 ルイの質問にマリー王女は全身を炎で纏いながら苦しそうな魔王を見て首を左右に振った。


「……わからん。強力な火魔法を喰らってダメージを受けているようだが、しかし魔王の再生能力は未知数だ。残念だがもう、この戦いに私たちができることはない。黙って見てるしかないようだ」


「王女……」


 クレアとルイは不安そうな顔でマリー王女を見た。


「…………黒羽、何をやっている。早く、早く来てくれ」

 

 燃え盛る魔王とジャンを見てマリー王女は静かにそう呟いた。





「ハハハハハ! いくら再生能力があるといっても体が灰になってしまえば再生などできまい。この火魔法は私の単体魔王攻撃で最強の威力を持つ。火はお前の骨も何もかも燃やし尽くすぞ!死ね魔王!」


「ぐおおおおおおおおおおお!!!」


 煌々と燃え盛る火はバキバキと音をたてながら魔王の体が崩していく。


 そして火は完全に魔王の体を焼きつくすとやっと消えてなくなった。


「ふぅ……これで死んだか。魔王は完全に灰になった。さあ、これでも再生できるというのならやってみろ!」


 火が消えた後には魔王は燃えかすの灰となっていた。ジャンはしばらくその燃えかすを見ながら叫んだ。


 すると、灰がクルクルと螺旋を描きながら宙に浮かび上がる。


「むう!」


 ジャンは浮かび上がった灰を見て唸った。


 そして螺旋状に舞いながら灰は人型となると、魔王の声で話し始めた。


「ハハハハ、ジャンよ。無駄だ、どんなに体を焼き尽くそうが私の魂は死なん!魂が死ななければ私の肉体は必ず蘇る」


 魔王は高らかに笑い続ける。すると、灰になった魔王の肉体が徐々に復活し始めた。


「なるほど、魔王様、貴方の魂をどうにかしなければいつまで経っても同じことの繰り返しのようですね。ならこれならどうです」


 ジャンは右手を開きながら魔王の方へと突き出した。


「む、な、なんだ。ち、力が、ジャ、ジャンに吸い取られていく」


 灰になった魔王の体がジャンの右手にまるでゴミが掃除機に吸い取られるように吸収されていく。


「ぬかりましたね魔王様、貴方は私の特殊能力がなんだかお忘れのようだ」


「そ、そうか、お前の能力、死者の魂を吸収し自分の能力に変える力」


「そうです。今、貴方は魂だけの状態、肉体が復活する前なら私の能力で吸収する事が可能です。さあ、その力、私のものになるのです」


 灰になってもわかるほど恐怖に歪んだ表情になり魔王はその場から逃げようとジャンから背を向けた。


 しかし、その魂はあっさりとジャンに吸収されていく。


「や、やめろ!!ジャン! き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!! やめろ!!」


 抵抗虚しく魔王の魂はあっという間にジャンに飲み込まれてしまった。


 ジャンは魔王の魂を飲み込んだ自分の右手を見て満足そうに微笑んだ。


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