第百五十話
「さあ、さっさと終わりにしますよ。貴方達に時間は与えません、すぐに死んでもらいます。なんせ私の本命は姫野遥ですので。彼女は魔王をも凌ぐ大物、私は彼女を倒してこの世界を滅ぼします」
ジャンはゆっくりとマリー王女達の方へ歩き出した。
「クッ! ジャン……貴様、簡単に私たちをやれると思うなよ! おい!ルイ! クレア」
「はい!」
マリー王女たちが各々武器を構える。
「喰らえ! 『王海竜暴風斬』!」
「吹き飛ばせ!『風風乃式龍』
「貫け! 風神大聖豪派」
マリー王女、ルイ、クレアが同時にスキルを発動した。
彼女達のスキルがジャンを襲う。しかし、ジャンをそれを涼しい表情で見ている。
「魔王と私の戦いを見てなかったのか? その程度のスキル、私を倒すどころか傷一つ付けること叶わぬぞ!」
ジャンは無防備のまま三人のスキルをまともに受けた。大きな爆発音が聞こえるとあたり一面に爆風が舞う。
「ルイ、クレア。恐らくジャンは無傷だ。奴が出てきたらすぐに、攻撃を仕掛けるぞ!」
ルイとクレアが頷く。
「どうやら自分たちの攻撃が効かないのはわかってるようだな」
爆風が晴れると、ジャンが現れた。マリー王女の言う通りジャンは無傷で現れた。
「フン! ならこれならどうだ! 『焔桜龍線!』」
マリー王女はジャンに火魔法を放つ。ビームのような光線がジャンに激突するとジャンの体が燃え上がる。
「弾き飛べ『爆炎神夷弾!』」
今度はルイが火魔法を放つ。ルイの両手から複数の火の玉が飛び出し、それが上空へ上がるとジャンに向かって落下する、ドンドンドンと腹に響くような爆発音が聞こえた。
そして追い討ちをかけるようにクレアも火魔王を放った。
「焼き切れろジャン! 『焼神刃覇!』」
ブーメランの形をした炎が複数、クレアの両手から飛び出しそれがジャン向かって飛んでいく。
そしてまたドンドンと腹に響くような爆発音がするとジャンの体はさらに燃え上がった。
「こ、これならどうだ……」
マリー王女が祈るような顔で呟いた。しかし、燃え盛る炎からジャンの声が聞こえた。
「フフフ、まあ、悪くない攻撃ですけどねぇ。だけど、非常に退屈であくびが出る魔法ですねぇ」
「くっ…… やはり、だめか……」
ジャンは右腕を降ると一瞬で炎が消え去った。
「さあ、今度はこちらの番でしょうかねぇ」
ジャンがマリー王女達の方へ歩いていく。三人は身構えた。
「――行きますよ」
ジャンがそう言うとその場からまるで瞬間移動したかのように消えた。
そして、一瞬でマリー王女の前に現れる。
「くそっ!」
マリー王女は斧をジャンに向かって振り下ろした。しかし、それよりも早くジャンの掌底がマリー王女の顎を捉えた。
「ぐぁ!」
マリー王女はジャンの掌底突きで吹っ飛ぶと地面をゴロゴロと転がった。マリー王女は苦しそうに呻き声を上げている。どうやらダメージがあって立ち上がれないようだ、
「マリー王女!」
ルイはマリー王女を助けようと駆け寄ろうとした。だが、ルイの目の前にジャンが立ちはだかる。
「なっ!」
驚いたルイは双剣でジャンを斬ろうとした。が、それよりも早くジャンの掌底突きがルイの顎を捉えた。
「きゃあ!!」
マリー王女と同じく吹っ飛ぶルイはゴロゴロ地面を転がった。ルイも苦しそうな呻き声を上げ起き上がれない。
「タァァァァ!!!!!」
突然、気合の声が聞こえた。クレアだった。
彼女はジャンの後方から飛び上がりながら弓を構えていた。
そしてクレアは矢を放とうとした。しかし、ジャンが右手を振り払うような仕草をすると突風が巻き起こり、その突風にクレアは巻き込まれてしまう。
クレアはクルクルと回転しながら飛ばされ壁に激突する。
「ぐ……」
クレアも他の二人同様、呻き声を上げその場に蹲ってしまった。
「フン、もう下らん余興は終わりにしよう三人とも、さあ私の全体魔法を喰らわせてやるから、木っ端微塵とかせ」
ジャンは右手をあげると手から大きな火の玉が現れた。
「うううおおおお、こいつらを焼き尽くせ『王魔鳳凰極』」
「ジャン! 危ない!後ろよ!」
魔法を発動しようとしたその時、突然、リカルダの声が聞こえた。ジャンは魔法を中断し後ろを振り返る。
「むっ!」
後ろを振り返ると、なんと先ほど倒した魔王の動体がジャンに向かって飛び蹴りを繰り出していた。
ジャンはその蹴りを右手で受けると、後方へジャンプした。
「魔王……」
首がない魔王の体は仁王立ちした状態で立っている。
「フフフ、ジャン、油断は禁物だぞ。私が首を斬り落とされただけで死ぬと思ったのか?」
驚くことに首なし魔王から声が聞こえた。すると、魔王の背中から甲殻類の足を二本生やした魔王の首がカサカサと音を立てながら出てきた。魔王の首は肩の所で止まる。
それを見てジャンは少し呆れたような驚いたような顔して言った。
「さすが魔王様、生きていたとは……恐れ入りました」
「フフフ、さあ、仕切り直しだ」
魔王はそう言いながら甲殻類の足が首の中に引っ込めると動体の手が首を掴み、そのまま首をくっつけた。
そして魔王はくっついた首の調子を確かめるようにコキコキと首を鳴らすとニヤリと笑いジャンの方を見た。
「どうやら貴方を倒すには粉々にまで破壊するしかないようですねぇ」
ジャンは握り拳を作りそれを胸の前に置き構えた。
それに倣うように魔王も構える。
「さあ! 最後の戦いだ、いくぞジャン!」
二人は同時に互いに方へと走り出した。