第十五話
エレンミアに僕が違う世界で生きていたのに突然、この世界に転移した事や山賊に命を狙われてるなど、今までの経緯を説明した。
「なるほどねぇ……だけど、違う世界で生きてたのに、なんでこの世界に転移しちゃったのかねぇ。魔王が復活したとか、そんな話も聞いてないし……」
僕がこの世界に転移した理由を考えているのかエレンミアは視線を天井に向けた。
「うん、それは僕もわからない。おそらく神の意志でこの世界に来たとは思うんだけど…… あと、この世界に転移して突然、思い出した記憶が、魔王を倒した所までなんだ。それ以降の記憶がなくて…… エレンミア、サリウスだった僕は魔王を倒した後の生活はどんなもんだったのかな?」
僕の質問にエレンミアはコメカミに指を当て記憶の糸を辿りはじめた。
「う〜ん、なんか質素に暮らしてたわよ。さびれた村にずっと一人で住んでたわね。たまに私が遊びに行ったらすごい喜んでたわよ」
そうか……やっぱり、僕はずっと一人で暮らしていたのか……
「やはりそうか…… いや、僕も色々調べたんだけどね。最後、モンジュって村で95歳で死んだってのはわかっているんだけどさ。その時の記憶が全くないんだ」
「へー、でも死んだ後の事は覚えてるのね?」
「ああ、死んだ後、魂が天界に行くと神が僕の前に来てくれたんだ。そして魔王を倒した褒美に違う世界で平和な暮らしをしなさいと言ってくれて、黒羽龍斗として転生させてくれたんだ」
僕の話を聞きながらエレンミアはふんふんと頷いていると顎に手をやり何かを考えている。
「そういえば、姫野ちゃんだっけ? サリウスと同じ学校の子がこの世界に来たのも、もしかしたら偶然じゃないかもしれないわね」
その事を考えた事がなかったので、思わずハッとし顔を上げた。
「そうか、それは考えてなかったな。もしかしたら関係があるのかな?」
僕の問いにエレンミアは「さあね……」と言いながら肩をすくめた。
「それより、あんた私になんか頼みごとがあるんでしょ?なに?」
そう、僕はエレンミアに頼みごとあってこの道具屋に来たのだった。
「うん、それなんだけど、僕は「石の塔」にあるあのアイテムを取りに行きたいんだ。だが、今の僕のレベルでは石の塔の攻略は難しい。だからエレンミアに攻略を手伝って欲しいんだ」
エレンミアは僕と石の塔を攻略した時の事を思い出したのかうんうんうんと何度か頷いた。
「ああ、あのゴーレムが持ってたアイテムね。いいわ、あんたの頼みを断るわけないはいかないからね。ただし、条件があるわ」
「条件? 金ならないよ」
エレンミアは呆れ顔で僕を見る。
「あんたから金なんか取らないわよ。違う、私の言う条件はあの姫野さんよ。あの子も一緒に石の塔に連れて行く事、それが私の条件よ」
エレンミアが出した条件を聞いて僕は飛び上がるほど驚いた。
「な、なんだって! それは無理だよ。姫野さんのレベル1の魔法使い見習いだ。石の塔に行けば命の保証はない」
僕の必死な形相とは裏腹にエレンミアは涼しい顔で言い返した。
「大丈夫よ、石の塔のレベルはわかってるし屋上までの道のりも覚えている。実は私、何度も石の塔にアイテムを取りに行ってるのよ」
「だ、だけど……」
何度かエレンミアに考え直すようと言ったが彼女は頑として譲らなかった、結局、僕は渋々了承した。
うーん、エレンミアのやつ、なんで姫野さんを石の塔に…… 何考えてるんだろう。
僕はエレンミアの真意を測りかねた。
「さ! そうと決まれば早速、石の塔へと向かいましょう。ちょっと準備してくるわね。用意ができたらすぐに出発よ」
エレンミアは立ち上がると準備の為、部屋を出て行く。
そして、しばらくするとエレンミアが金属の肩当てに妖精が作った言われるフェアリーレザーを装備して僕達の前に現れた。僕とリカルダが今までと同じ装備だが、姫野さんには軽い皮鎧を装備してもらった。準備が整った僕らは石の塔へと向かう。
「ここが石の塔なのね。たっかーーい」
姫野さんが感動した様子で塔を見上げた。
「さ、行こう。この塔の一階はゾンビが出るから気をつけてね」
そう言うと、僕、エレンミア、リカルダ、そして姫野さんの順番で慎重に塔の扉を開けて中に入っていった。