第百四十四話
魔王とウリアンが城の玉座まで来ると魔王はウリアンを呼び止めた。
「ウリアン、ここでいいだろう。ここまでくれば奴らが来る前に儀式を終わらせることが出来る」
「はい、魔王様、早速、儀式を始めましょう」
「うむ、所でウリアン。この儀式はお前の命をもって行うものだ。それはわかってるな?」
「はい、もちろんです」
「我に命を捧げること迷いはないか?」
「はい。儀式で私のこの体に流れる魔王様の血をお返しすれば、あなたは完全体の魔王へと進化するでしょう。それは私が長年願い続けてきた夢です。迷いなどありますまい」
ウリアンの言葉は聞いて魔王は満足気に頷く。
「うむ、いい覚悟だ。よくぞ言った。ウリアンよ、先ほどお前の命はここで尽きると言ったが、そうではない、お前は私の中で永遠に生きていくのだ。安心して私に命を捧げるがよい」
「ハハ、ありがたき幸せ」
ウリアンは恍惚とした表情で魔王の前でひざまづく。
「待て!…… この気配、マリー王女たちか…… こちらに向かっているな」
「なんですと! まさか、姫野遥がしくじったのですか?」
「いや、気配の中に黒羽はいない、おそらく母は亜空間で黒羽と戦っているのだろう。私が気にしているは黒羽だけだ。奴が追ってこなければ問題ない。それは母もわかっているはずだ。きっと黒羽との戦いに集中したいがため、マリー王女達をわざと逃したのだろう」
「なるほど、しかし、今、マリー王女達に儀式に邪魔をさせるわけには行きません」
魔王の余裕な態度とは違ってウリアンは少し焦っているようだ。
「安心しろウリアン、今の私でもマリー王女達と戦っても負けはせん」
自信満々の魔王だが、ウリアンはあまり納得していない様子だった。
「しかし……」
「ウリアンよ。私は確かに完全体ではない。だが、私の母である姫野遥の力はお前が考えるよりも凄まじいパワーを持っているのだ。その彼女の力を受け継いだ私の力もまた、以前の魔王の時とは桁違いの強さを得ている。だから安心しろウリアンよ」
「はい! 魔王様がそう仰るのなら私からは何も申し上げることはありません」
「うむ、それでいい。では儀式を始めるぞ」
魔王は跪いているウリアンに向かって右手を向け、呪文も唱え始めた。
すると、ウリアンの体が光が溢れ出した。
「ウリアンの体内にある我が血よ。さあ、元の持ち主の元へ戻るのだ」
魔王の言葉に反応したかのようにウリアンが突如、苦しみの声を上げ始めた。
「うぐぐぐ、があ……ががががが!!!!!」
そしてしばらくするとウリアンの全身から血の色をした霧のようなものが浮かび始めた。
「さあ、我が血よ。ウリアンの生命エネルギーと共に我の元へ!」
ウリアンの体から血の霧がどんどん出てくる、するとそれに比例してウリアンの体がミイラのように干からび始めた。そして突然、ウリアンがバタッと前のめりで倒れた。どうやら絶命してしまったようだ。
死んだウリアンの体からはどんどん血の霧が出てくる。そして血の霧はぐるぐる周りながら球体へと変わっていく。
「この血の塊が我の力を完璧なものへと進化させる。ウリアン…… お前の命、決して無駄にはしない」
魔王は陶酔したような表情で血の塊を両手でつかもうとする。と、その瞬間、魔王の背後から男の声が聞こえた。
「待っていました。ウリアンから魔王の血を出てくるこの瞬間を! その力、私がいただきましょう」
「何奴!」
魔王は後ろを振り返った。
「貴様は…… ジャン!」
なんと魔王の背後の空間に穴が空いていて、その穴からジャンとリカルダが現れた。
ジャンは右回し蹴りを魔王のコメカミにぶち込んだ。ジャンの蹴りをまともに受けた魔王は吹っ飛んだ。
「リカルダ!」
「わかってる!」
ジャンと共に空間の穴から出てきたリカルダは素早く糸を出した、糸は血の球体を掴み、リカルダがその糸引っ張ると球体はジャンの目の前に落ちた。
「フフフ、これだ。これがあれば、私は魔王の力を得て究極の生物へと進化できる!」
ジャンはすぐさま、球体を拾い上げる。
「ジャン…… 生きていたのか……」
予想外の人物の登場に魔王は少し驚いた様子でジャンを睨みつけた。
「魔王様、初めてお目にかかります。私のことはご存知で?」
「ああ、全て母の体内から見ていたよ。それにしてもまさか余を裏切るとはな…… 貴様、その力を得てどうするつもりだ? 余の代わりにこの世界を支配するつもりか?」
魔王の問いにジャンは微かに笑いながら答えた。
「この世を支配? フン、魔王様、私はそんなつまらない事は考えてはいませんよ」
「ほう、なら力を得て何をするつもりだ?」
さらに魔王はジャンに質問をするとジャンは突然、厳しい表情になりまっすぐ魔王を見て答えた。
「何をするつもりかですって? そんなわかりきってルイじゃないですか。私はこの力でこの世界の人間と魔物を皆殺しにするつもりなんですよ…… 魔王様」