第百三十四話
僕はアメデに対し矢継ぎ早に攻撃を仕掛けた。
わずか0.5秒の間に、唐竹、袈裟、逆袈裟、右薙、左薙、右切上、左切上、逆風さかかぜ、刺突を繰り出す。
しかし、アメデは微動だにせず僕の攻撃を全て受けた。
僕はアメデが矢継ぎ早の攻撃を見切れず避ける事ができなかった。と、そう思った。だが、違っていた。
「フフフ、そんな程度の攻撃では私にかすり傷一つつける事はできないよ」
アメデは僕の連続攻撃をモロに受けたが平気な顔をしていた。
「なに! ダメージを受けていない…… だと……」
僕が驚いているとアメデは呆れた顔をしてこちらを見ていた。
「おいおいおいおい。君の渾身のスキルを受けても無傷だったんだぞ。そんな通常攻撃、いくら放っても効くわけないだろう? 勇者なんだから少しは頭を使ったらどうだ?」
まさか…… 本当にダメージを受けていないのか? いや、そんなはずはない! 見た目ではわからないが必ずダメージは受けているはずだ。
僕は諦めずに攻撃を続けた。
「やれやれ、どうやら馬鹿の一つ覚えが大好きなようだ。だが、私は飽きた。もう終わりにしよう」
アメデはそう言いながら右手を上げた。
何かの魔法か! 僕は用心し身構えた。しかし、アメデはその右手をそのまま僕に向かって繰り出してきた。
アメデの右の拳が僕の顔面を捉える。
「ぐわっ!!」
なんとアメデが繰り出してきたのはただの右ストレートだった。が、威力はどんなスキルや魔法よりも威力があった。
僕は一瞬、意識を失いはるか後方へと吹っ飛んだ。
回転をかけた石を投げて、水面で石を跳ねるように僕の体は地面を何度も跳ね転がった。
「ぐっ、な、何と言う威力、普通の人間がこんなに威力があるパンチを放てるのか……?」
僕はヨロヨロと立ち上がる。
「だから言っているだろう。私は人間も魔族も超えたのだと」
「人間も魔族も超えた…… ハッ! ま、まさか」
い、いや、そんなはずはない。ただの人間が、あれになれるわけがない……。
だが、この強さ、ありえないほどの強さだ。
「フフ、どうやら少しわかりかけてきたようだな」
「そ、そんな、そんな筈はない。ただの人間が、魔神になれるなんて……」
僕の言葉にアメデは満足な顔で頷いた。
「そうだ。さすがは勇者。よく気づいた。そうだ、私は人間や魔族を超え魔神へと進化したのだ」
「馬鹿な……、魔神は魔王の種族。人間が魔神になれるなんて……」
「フフ、そうだ。魔神とはイコール魔王だ。つまり私は魔王になったのだ。見せてやろう私の本当の姿を」
アメデが静かに目を閉じると、まるで粘土のように体がみるみると伸びていくと3メートルほどの大きさになり、そして肌が真っ白く変色して目の白い部分が消え真っ黒に変わった。
「こ、これは……」
僕はこの姿に見覚えがあった。
「どうだ、黒羽くん。この姿、君の前世で戦った魔王の姿に似ているだろう?」
確かに、似ている。僕がかつて倒した魔王の姿に……
「まさか、本当にお前は魔神になったのか……」
「フフ、そうだ。そうに良いことを教えてあげよう。実は魔神という種族は魔族に変異した人間がなれる種族なのだ」
「なっ……!」
「そう、だが、それも何万分の1の確率だ。魔族に変異した人間全てが魔神になれる訳ではない。そして魔神と高い戦闘能力を持った人間の女が交わりその女が子を宿すとその子供も魔神となる」
僕は魔神となったアメデの話を聞いて血の気が引いた。
「な、何だと、ま、まさか……」
僕の真っ青になった顔を見てアメデはクスクスと含み笑いをしながら話を続けた。
「そうだ、姫野遥は私の子を宿している」
僕はショックのあまり目の前が真っ白になり何も考えられなくなった。