第百三十三話
「アメデ、僕は急いでいる。死にたくなかったらそこをどけ」
僕の言葉にアメデは薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「私が死ね? 何を馬鹿な事を言っているんだい。死ぬのは君の間違いじゃないのか? 黒羽くん」
アメデが僕を挑発する。しかし、僕の心は冷静だ。静かに腰に帯刀していた刀を抜いた。
「やってみればわかるさ」
「フフ、良いだろう。だが、この城で君と戦うのはまずい。この城が破壊されてしまう。君と全力で戦える場所を用意しよう」
アメデが右手を掲げるとその右手からまばゆい光が降り注いだ。
「うわっ」
僕はその光の眩しさに思わず両手で目を覆った。
「ここなら存分に戦える」
アメデの言葉を聞いて目を開けた僕は見た事がある景色に思わず声をあげた。
「ここは…… リカルダの亜空間?」
「そうだ、だが、正確ではない。この亜空間は私の魔力で作られたものだ。それを魔力の強いリカルダに貸していたのだよ。彼女は大したものだ、魔族に変異した私と魔力のみだったら互角にまで成長したのだから」
「貴様がリカルダを洗脳したのか? 彼女を元に戻せ!」
僕が怒りをあらわにした眼でアメデを睨む。すると、僕の言葉が意外だったような顔でアメデは目をパチパチさせた。
「リカルダを元に戻せだって? 馬鹿を言うな黒羽くん、確かにジャンが捉えた当初、私が彼女を魔法で洗脳した。しかし、彼女が強くなるたびに洗脳が溶け始め、今では完全に洗脳の魔法はリカルダに破られている」
「な、なに? ならなぜ彼女はお前たちに協力しているんだ!」
アメデは困惑した僕を面白そうに見ながら答えた。
「リカルダは最初から君たちの仲間じゃない。彼女は洗脳が溶けたが改めて私たちの仲間になると自分から申し出たんだ」
僕はアメデの言葉が信じられなかった。
「嘘だ! お前を倒せばリカルダの洗脳は解けるはずだ! アメデ! 貴様を殺す!」
「フン! 勇者のくせに、真実から目を背けるとは…… その程度か。良いだろう、かかってこい!」
僕は飛び上がりながら剣を振りかぶりアメデに斬りかかる。
「ど〜〜りゃぁぁぁ!!」
渾身の力で刀を振りかぶったが、アメデは僕の剣をやすやすと交わした。
僕は一瞬、アメデを見失う。だが、右側に気配を感じた僕は、そこにアメデがいると確信し、すぐさま剣を水平に薙ぎ払う。
が、そこにもアメデの姿はない。
「くっ! ど、どこだ!」
僕はあたりを見回し、アメデを探す。しかし、どこにいない。
「ここだよ、黒羽くん」
冷めたアメデの声が僕の頭の上から聞こえた。僕はハッとして上を見る。
「もう遅い」
その言葉と同時にアメデの右足の踵が僕の顔面を捉えた。
「ぐあ!」
アメデのかかと落としを食らって僕はうずくまった。
「まだまだ!」
僕は一旦、アメデから距離をおき、剣を構えるとジリジリとアメデに近寄っていく。
「ほう、なかなかの剣圧だ。流石は黒羽くん」
そう言いながらわずかだがアメデが後ろに下がる。
「フン。良いのか? 人間のままで早く魔族に変異しないと僕に斬り殺されるぞ」
「フフ、ご忠告感謝する。だが、このままで十分だよ」
「そうか。ならそのまま死ね!『 神・光輝鳳凰斬』!」
僕がスキルを発動すると剣から光り輝くオーラが発し、そのオーラが大きな鳳凰に変わる。
鳳凰はものすごいスピードでアメデに向かっていった。
「おお、これが勇者のスキル。素晴らしい威力だ」
僕のスキルを目の前にしてもアメデは余裕の態度だったが、避ける訳でもなくただジッと立っていた。
そしてそのまま僕のスキルが直撃した。
「やったか……」
僕のスキルでボウボウと燃え上がるアメデ、しばらくオーラの炎に焼かれていたが、だんだんと炎が小さくなってきた。すると、炎の中に人影が見える。
「なに? ま、まさか……」
そのまさかだった。炎が完全に消えるとそこには真っ裸のアメデが立っていた。奴の体には傷一つなかった。
「無傷だと…… 貴様、なぜだ。ただの人間が僕のスキルをまとも受けて無傷でいられる訳が無い」
僕はアメデを睨みつける。すると、彼はにこやかな表情で答えた。
「そうだろうね。確かに恐ろしい威力だった。流石は黒羽くんだ。だが、私には効かない。なぜなら僕はすでに魔族に変異しているからね」
「馬鹿な、お前は人間のままだ。それにいくら魔族だからといって僕のスキルを受けてただで済むわけがない!」
僕の言葉にアメデは嬉しそうに答えた。
「そう、私はただの魔族ではない。人間も魔族も超えた存在になったのだ」
「魔族も人間も超えた存在だと! どう言うことだ!」
「知りたかったら私を見事倒してみろ。勇者黒羽」
アメデはまるで散歩でもするかのようなゆっくりとした歩調で僕に向かってくる。
僕は剣を構えると叫びながらアメデに向かっていった。
「望むところだ!」