第百三十二話
ルイの攻撃で燃え上がったリカルダはピクリとも動かない。火はごうごうと燃えさかっていたが。しばらくすると徐々に火が弱まり消えていった。そしてその後には全身丸焦げになったリカルダの遺体が現れた。
……と思われたが、驚くことにリカルダの遺体は黒焦げどころか火傷一つせず綺麗な体のまま真っ裸で横たわっていた。
また、さらに驚く事が起こった。死んだと思われたリカルダが何事もなかったようにスクッと立ち上がったのだ。
リカルダはあたりをキョロキョロと見てから自分の服が燃えてしまったのに気づくと、おもむろに右手を前に出し、大量の糸を出した。そしてその糸がリカルダの全身に巻きつく。
そして巻きついた糸が光を放つとリカルダがいつも着ている和服へと変わった。
リカルダは自分の服を満足そうな顔で見ている。
「なかなかやるわね。あの子、確か名前はルイだったかしら。もう少しで本気を出すところだったわ」
どうやらリカルダは本気でルイと戦っていはいないようだった。その証拠にリカルダの体には傷一つなかった。
リカルダは静かに歩き出し、先ほどマリー王女とジャンが戦っていた場所に向かった。
大量の血を口から流し目を剥き出しにして倒れているジャンの死体をリカルダはフッと笑いながら見ていた。
「随分、やられちゃったわね。もう、マリー王女はいないわよ。そろそろ起きなさい。ジャン」
リカルダが死体になったジャンに向かって糸を放出した。糸はジャンの体を包み込むと光を発した。
そして糸が消えるとジャンのまぶたが突如、パチパチと何度か瞬きをした。
ジャンは何事もなかったかのように立ち上がる。
「う、う〜ん。リ、リカルダ、悪い、君のおかげでマリー王女にやられた傷が完全に癒えたよ」
「フッ、どうやらマリー王女の強さは本物のようね。あなたをここまで追い込むとは」
「ああ、驚いた。ところで君の方はどうだった? 確か、ルイとか言ったな」
「ええ、なかなかの強さよ。もう少しで本気を出すところだったわ」
「なるほど、リカルダ、君の戦闘センスは素晴らしい。今の君は魔族になった僕よりも強い。その君が本気を出しそうになるほどとは、これはなかなな面白くなってきたな」
「そうね。ところで、来てるわよ」
リカルダがジャンの後ろを指差した。ジャンが振り向くと幽体になった二人の女性がプカプカと浮かんでいた。
「おお、カルラとエーリカか、どうやら二人とも倒されてしまったようだね。残念だ」
ジャンは寂しそうな顔で二人をみる。しかし、幽体になったカルラとエーリカは笑顔だった。そしてエーリカがジャンに話しかける。
「良いのですよ。ジャン様、計画通りじゃないですか。最初から私たち二人は覚悟してました。これでジャン様の力がパワーアップするのなら喜ばしい事です」
そう言われたジャンだったが少し申し訳ない表情で頷いた。
「ありがとう、二人の犠牲は絶対に無駄にはしない」
ジャンはそう言いながら両手を前に差し出した。すると、幽体になったエーリカとカルラがその両手に吸い込まれていく。
そして完全に二人を吸い込むとジャンの体から光が発した。
「すごい、力だ。漲ってっくるぞ!」
光が消えるとジャンの体が元の人間態に戻っていた。
「ジャン、二人に感謝しないとね」
リカルダがジャンに話しかけるとジャンはニコッと笑った。
「ああ、僕らは永遠に一つだ。彼女らの力を得て僕はさらに強くなった」
「これで、あなたは私よりも強くなったわ。これなら計画が上手くいくわね」
「ああ、そうだな。だけど良いのかい? 君はかつての仲間を裏切る事になるけど?」
ジャンの言葉にリカルダは少し呆れた顔で笑って答えた・
「何を今更? 私は洗脳はとっくに解けてた。でも、私はあなたと一緒に戦うと決めたの」
ジャンはリカルダの言葉を嬉しそうに聞いていた。
「ありがとう、さあ、行こう!」
「ええ」
リカルダとジャンは城に向かって走り出した。