第百三十一話
マリー王女と魔族に変異したジャンは一進一退の攻防を繰り広げていた。
「まさか、魔族に変異した私と互角の実力とは…… 本当に成長しましたね、マリー王女」
ジャンは驚異的に成長し強くなったマリー王女を素直に褒め称えた。ジャンはなぜか嬉しそうな顔をしている。しかし、ジャンの表情とは逆にマリー王女は冷ややかな目をしている。
「フン! 文字通り魔族に魂を売ったお前に褒められても嬉しくないわ。貴様ほどの男なら魔族になどならなくてもどこまでで強くなれたはずだろうに」
マリー王女の言葉にジャンは意味ありげな笑いを浮かべながら答えた。
「フフ、そうかもしれませんね。でも、私が魔族になったのは何も強くなる為だけではありませんよ」
その言葉にマリー王女は眉をひそめた。
「なに? どういう意味だ」
ジャンはマリー王女の問いに挑発で答える。
「知りたかったら私を倒して聞き出してみなさい」
マリー王女はジャンの挑発に乗った。
「望むところだ!」
叫ぶと飛び上がりながら斧を振りあげるマリー王女。
「食らって吹っ飛べ!『王海竜暴風斬』!」
マリー王女がスキルを発動すると『バアルアックス』から旋風が飛び出し、それが竜の形に変化するとその竜は、ジャンに向かって行った。
「無駄です!『防凱双璧』」
ジャンが防御系のスキルを発動した。するとジャンの手の平から半透明の壁が浮かび上がった。
旋風の竜がジャンが作り出した半透明の壁に激突する。その際、大きな衝撃音が聞こえた。
「ぐっ! なんという威力!」
マリー王女のスキルはジャンの『防凱双璧』に激突してもその威力が弱まることなくそのままグイグイと壁ごとジャンを押していく。
ジャンは必死の形相で耐えているが、ジリジリと後ずさる。
「その程度のスキルで私の『王海竜暴風斬』が止められるか! ナメるなジャン!」
マリー王女は『バアルアックス』を両手で強く握りなおすと旋風の竜がさらに威力を増し始めた。
「ぐおおおおおおお!!!」
ジャンが叫びながらマリー王女のスキルを押し返そうとする。が、とても抑えきれない。ジャンの半透明の壁が突如、粉々に崩れた。
「ぐあっ!」
そしてマリー王女のスキルがジャンの腹部に激突、ジャンは口から血を吐き出し吹っ飛んだ。
「くっ……」
ジャンはヨロヨロと立ち上がった。
「ジャンよ、お前は確かに強い。だが私には勝てない。諦めて全てを話せ」
「フフ、今ので勝ったつもりですか? まだまだ私の力はこんなものではありせんよ! 受けてみなさい。私のスキルを!」
ジャンがそう言いながら両手を前に出した。
「うおおお!『王蛇流千撃』!!」
叫びながらスキルを発動するジャン。前に出した彼の両手から紫色のオーラが浮かび上がり、それが大きな蛇に変わった。そしてその蛇がグルグルと螺旋状に飛び出しマリー王女へ向かって行く。
「これがジャン、お前のスキルか! いいぞ! 受けて立とう!」
マリー王女は両手を前に出した。
「立ちはだかれ!『煙嵐防壁』 」
スキルを発動したマリー王女の両手から煙が立ち込め、それが王女の身長ほどの大きさの壁となる。
その壁とジャンのスキルが激突する。
「うおおおおお!おお!」
今度はマリー王女が叫び声をあげながらジャンのスキルを押し返す。先ほどのジャンの時とは違い、どんどんとジャンのスキルを押し返して行く。
そしてマリー王女の煙の壁は徐々にジャンのスキルを吸収する。
「なに! 私のスキルが王女の出した煙に飲み込まれて行くだと!」
マリー王女はジャンのスキルを全て吸収すると、ジャンを睨み叫んだ。
「お前のスキルを返すぞ! 受け取れ! ハッ!」
両手をジャンの方に向けると煙の壁からジャンが放った紫色の蛇が飛び出した。
紫色の蛇は大きな口を開け、ジャンに噛み付いた。
「ぐああああ!!」
蛇の牙はジャンの肩に食い込む、そしてそのまま体当たりのように突っ込んだ蛇にジャンは吹き飛ばされた。
「終わりだ。ジャン! 『王海竜暴風斬』!」
肩や口から大量の血を流してヨロヨロと立ち上がるジャンにマリー王女はトドメのスキルを放った。
マリー王女のスキルがジャンの腹部に命中する。
「がはっ!」
またも口から大量の血を吐いたジャンは白目を向いて吹っ飛んだ。そして今度は立ち上がることなくピクリと動かない。
「勝負あったな。ジャン」
マリー王女はジャンに近づくと膝をつきジャンの胸に手を当てた。彼の心臓は停止していた。
「死んだか…… お前が魔族になった謎は残ったが仕方がない。お前相手に手加減はできなかった。全力でやらなくては死んでいたのは私の方だったからな」
マリー王女が立ち上がると立ち上がるとルイがこちらに向かってくるのがわかった。
どうやらリカルダを倒したようだ。
「ルイ、お前も終わったか?」
「はい、王女も無事に倒せたようですね」
ルイの言葉に王女は頷いた。
「ああ、思ったより呆気なかったがな。さあ、早く龍斗の応援に行こう!」
「はい!」
マリー王女がそう言うとルイは強く返事をした。
二人は城に向かって走り出した。