第百二十九話
魔族変異したジャンとマリー王女が対峙している。二人の間にはピリピリとした緊張感が漂っていた。
「さすがマリー王女、魔族変異した私とここまで戦えるとは…… 腕を上げましたね。しかし、私はまだ半分の力しか出していません。本気で戦えばいくらあなたでも私に指一本触れる事なく死を迎えますよ」
ジャンの脅しにマリー王女は笑顔で答えた。
「ほう、まだ本気ではないだと、それは奇遇だ。私もまだ本気で戦ってない」
「フン、負け惜しみですか?」
「信じないか? なら見せてやろう」
マリー王女はそう言うと目をつぶり意識を集中する。するとマリー王女の全身が光に包まれた。
「なに!」
光が消えると、マリー王女は頭以外の全身が銀色の全身鎧に覆われた姿で現れた。
その姿を見てジャンは感心した表情をする。
「これは驚いた。あなたがその鎧を身につけた瞬間ステータスが異常に跳ね上がったのがよくわかります。その鎧、ただの鎧ではないですね?」
「そうだ。この鎧は『ゴッドミソロジーメイル』、古代戦争で神が身につけていたと言われている鎧だ。この鎧を纏った私と戦うならお前も本気にならないと勝てないことがよくわかったろう?」
「『ゴッドミソロジーメイル』…… 伝説と言われ存在自体確認されていなかったはず、あなたその鎧をどこで手に入れたのですか?」
「そんな事はどうでもいい、お前は今日死ぬのだからな」
マリー王女がジャンを煽ると、ジャンは軽く口角をあげる。
「なるほど…… 大した自信だ。それにしても、まさかあなたがここまで成長し、そして伝説の鎧を手にしているとは…… わかりました。なら私も本気を出しましょう」
そう言うとジャンは両手の拳を握り目をつぶって意識を集中させる。すると、ジャンの全身から野球ボールほどの大きさをした腫物がボコボコと膨れ上がったり縮んだりを繰り返し始めた。
「うおおおおおおおお」
そしてジャンは大きな叫び声のような気合いを入れ始めると全身から黒い光が一気に放たれる。
「くっ!」
思わず顔を背け手でその黒い光を遮ったマリー王女、しばらくして光が消えるとマリー王女は手を下ろしてジャンの方を見た。
「これが本気になった私の真の姿ですよ。マリー王女」
黒い光が消えマリー王女の目の前にいるジャンは巨大な悪魔ではなく、以前の人間の姿に戻っていた。
ただ、肌の色が全身青く変わっている。
「それが本気になったお前か…… 肌が青い以外は魔族になる前のお前と何も変わらないように見えるが?」
「そう見えますか? まあ、戦ってみればわかりますよ」
ジャンは右足を少し前に出した。どうやら戦闘態勢に入ったようだ。
「……だな」
マリー王女はジャンを少し警戒しながら腰につけている斧を抜いて構えた。
そして斧を青眼に構えると突如、斧の柄が少し伸び刃が広がるように大きくなりさらに刃の部分が光はじめた。
ジャンはその斧を見て片方の眉をあげる。
「どうやらその斧も前に装備していた『バサラアックス』とは違うようですね」
「フフ、そうだ。この斧も伝説と言われた武器さ。名は『バアルアックス』」
「『バアルアックス』…… 天空と天気の神バアルが愛用していたと言われている伝説の斧ですか…… どうやら本気で私を倒すつもりのようですね。王女」
「フフ、当たり前だジャン。さあ、もうおしゃべりはおしまいだ。行くぞ!」
マリー王女は斧を振りかぶると思いっきり飛び上がった。